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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第三部 [ カイン交渉編 ]
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『軍人と政治家の覚悟』

艦のラウンジに五十鈴らを誘うロバートソンとランドー。リベレーターの竣工記念日とクリスマスのためのパーティーだったが、話はこの前行われたロバートソンと五十鈴の審問の知られざる部分へ傾いて行く。そこには軍人と政治家の覚悟が有った……。パーティーもたけなわな時、部屋の外で異変が起きる。



『軍人と政治家の覚悟』




私は提督室へは戻らず、五十鈴宙佐を伺うために〈あまてらす〉の艦橋へ向かった。


艦橋内へ入ると、五十鈴宙佐の他、この前の審問のときに居た防衛省の和泉副大臣と日立宇宙工廠から訪れた技術士官の姿が在った。


私が入室すると全員が私を注目し、五十鈴と技術士官は敬礼して私を迎えた。


「提督、ご苦労さまです!」、と五十鈴。横に居た技術士官は進み出て自己紹介をした。


「提督、〈あまてらす〉がお世話になっております。私は日立宇宙工廠の技術部から来た寺坂 功 二等宙佐であります。この度の土星宙域の超次元波動の再現のため、暫くの間、貴艦に滞在させて頂きます、宜しくお願いします。」



「赤松さん(三等宙将)は元気かね、…」、と私は彼に尋ねた。


「はい、元気にしています。今回のリベレーターの戦績を高く評価していましたよ。」、寺坂は嬉しそうに返した。


私は皆の横に立っていた和泉副大臣に声を掛けた。



「Mr.和泉、貴方は本国に戻らなくても良いのですか?何かと忙しいのでは、……」


和泉は頭を掻きながら次の様に言った。



「いやぁ、政府の方から今回の件(超次元空間波動の再現)が完了するまで戻って来るな、と言われたんですよ、……実際、畑違いの私が居ても仕方が無いのですがね。」、と彼は口元を緩ませた。



「提督は何か御用でしたか?」、と五十鈴は私に尋ねた。



「実は………」、私はどう言おうか、と少し考えた。リベレーター自体は時間に余裕が有るが〈あまてらす〉は忙しい……私は先ず、作業の進捗を尋ねた。


「超次元空間のカインの波動は再現出来そうかね?」


対し、寺坂が応えた。


「波動の検出は五十鈴宙佐を通して確認しています。何とか上手く行きそうです。」



それを聞いた私は安心して例の話を持ち出した。



「それは良かった、………実はこの時季、リベレーターが竣工した時期に当たる。まあ、竣工記念日だ。クリスマスの時季とも重なるし、私とランドー艦長、此処にいる方も交えてお祝いをしようかと思うんだ。………如何かな?」



それを聞くと全員の顔がパァーッと明るくなった。


(かなりストレスが溜まっていたのかな……?)、と私は心の中で呟いた。


「勿論行きますよ~っ、誘って頂きありがとうございます、提督っ!」、と和泉はその場を代表して言った。



「ありがとう、では今夜、19:00に迎えに来ます。」、と私は伝え、その場を去った。




     ◆




その日の晩、私とランドーは〈あまてらす〉のメンバーを誘い、リベレーターサービスセクションのラウンジへ向かった。奥のVIP専用のボックスへ入るとクリスマスツリーが飾られていた。


私は其々の注文を聞いてアンドロイドに品を持って来てもらった。



「今日はご苦労だったな、さあ皆、寛ごうじゃないか!」、私はそう言うと乾杯し、最初のグラスを空けた。


ランドーはアルコール度数の高い物を飲んでいた。


「君がそんなに度数の高いアルコールを口にするとは思わなかったな。」、と私は言った。彼はフゥーッと大きく息をした。


「リベレーターが地球の周回軌道へ入った時に初めて此処で飲んだんです。あの時は精神的にかなりヤラれていました……、報告の件で。」、とランドー。



それを聞いた五十鈴は、改めて申し訳なさそうな顔をした。それに気が付いたランドーは違うっ、といった感じで手を上げ、あの時の自身の気持ちを釈明した。


「艦で起きている事は、艦長の自分にも直結する事です。五十鈴さんや提督、マーティン中佐の事も……、一番気掛かりだったのは軍法会議でした。私は以前、TR-3Dをパイロットごと逃げられてしまったけど、それは政府とメーカーの規約内で済みました。でも今回は……」



途中、SAIが全員のグラスが空いたのを見て、アンドロイドに次のグラスとアルコールの入ったボトルを持って行かせた。




「あの時は予想外が過ぎる展開だったな……」、と私は五十鈴宙佐の方を向いて言った。五十鈴は小さく頷くと、あのときの事を話した。


「和泉副大臣がアタッシュケースを開けた時、嗚呼、自分は此処までの人生なんだって思いました……、正直言うと、私あの後、艦橋内で泣いたんです。身体の震えが止まらなかった…」



和泉はボトルを傾けるとグラスにドブドブとアルコールを注ぎ、クッとグラスを仰いで飲み干し、グラスをトンッ、とテーブルへ置いた。


「五十鈴宙佐、そして提督、…あの時は恐ろしい思いをさせた事を心からお詫びします。しかし、私にとってもギリギリの演出でした。」、と和泉。



私は、なるほどなっ、と思った。続けて和泉は語った。



「今から聞く事は此処だけの話です……、今回の件、カインが絡んでいなければ、また、介入して来たカインが五十鈴宙佐の知らない者であれば、問題は大きくなりませんでした。この件で最大の問題は介入して来たカインが、五十鈴宙佐が意図的に日立宇宙工廠から逃がした者だった、と言う部分です。 この報告を作戦司令の山元宙将から受けた私は悩みました………」、そう言うと和泉は次のグラスを空けた。



「そんな時、政府にアメリカ国防省(軍総本部ペンタゴン)から提案が有りました。それは技術的側面を踏まえ、アメリカ政府の追求を躱す意図がありました。あの時、聞いていたと思いますが超次元の波動は五十鈴宙佐以外に分からないと言う部分です。」、そう言うと和泉は更にもう一杯空けた。



「政府から防衛省に指示が下り、副大臣である私が此処に赴いた次第です、………あの時、一つ間違えれば五十鈴宙佐と提督の命は無かったかも知れない、………五十鈴宙佐が銃に手を伸ばそうとした時、私は心臓が止まるかと思いました。そんな時にロバートソン提督、貴方が声を上げてくれたのです。」、和泉はボトルのアルコールを全部グラスに注いだ。



壮絶な精神の葛藤を語る和泉に全員黙った。




「貴方の声を機に、私はアタッシュケースの蓋を閉め自分の体重を載せました、五十鈴宙佐が過って銃で自分を撃たないように、です………」、和泉はグラスを空けた。


「私は政治家で、此処にいる皆さんは軍人です、五十鈴宙佐は隊員ですが、………私は貴方がたの覚悟に敬意を表したい。政治家によって軍は動きますが、彼等は貴方がたの覚悟と犠牲を知らない、政治家は正に貴方がたの爪の垢を煎じて飲まなければなりませんっ!」、和泉はテーブルにダンッと両手を突き腰を上げた。



「………………」、全員呆気にとられて何も言えなかった。それに気が付いた和泉は場を重くしたのを反省した。が、次に皆から拍手が贈られた。


「エッ?」、と驚く和泉。



「Mr.和泉、貴方は良い政治家だ。我々軍人は国民とその財産を護るために命を賭けている。だが、現場の事を多くの国民は知らない。例えるなら、我々軍人は先に死刑の宣告を受けた者だ。その執行はいつ下るか分からない、………気が付いた時には死んでいるかも知れない。貴方のように人の生命に思いを向けている言葉は本当に胸が篤くなる………、そう言ってくれる政治家は多くない。よく式典で述べられる言葉の多くはパフォーマンスだ。」、と私は率直に自分の思うところを述べた。



それを聞いた和泉はウムッ、といった感じで頷いた。其処には照れや見栄はない、……真実の頷きだった




当初、リベレーターの竣工記念日とクリスマスを祝うつもりだったが、それらは結果として此処で集まりお互いの思うところを話す為の切っ掛けになった。私はそれで良いと思った…


(リベレーター竣工の事は、またの機会としよう…)



そんな感じで全員杯が進み、良い具合に酔いも回ってきた頃………



”ウワアアァーンッ、……ヒイイイィーンッ!!“



男の悲鳴のような泣き声と通路を走る音が聞こえた!


ランドーは悲鳴の異常さに、直ぐに部屋のドアを開けて通路を確認した。




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