『カイン もう一つの人類』
アメリカ大統領、D·ハワードは大統領府補佐官のS·クラウディアからもたらされた、カインに関する資料を調べる。その内容はハワードにとって抽象的、とさえ思えるものだった。彼はクラウディアを執務室に呼ぶと、カインに付いて彼女、クラウディアと話し合う。話は多岐にわたり、自国の行く末にまで及ぶ。一方、SCV-01リベレーターは〈あまてらす〉を動力としたまま、アリゾナのエドワーズ統合機動宇宙軍工廠に在った。リベレーターに隣接するドックでは、竣工を控えたリベレーター級の2番艦、フリーダムと3番艦、インデペンデント、そして、それらを運用する機動母艦アトランティスの最終チェックが行われていた。
『カイン もう一つの人類』
ハワードはホワイトハウスの大統領執務室にいた。
先に日本の日立宇宙工廠で入手した、異星人カインの資料に目を通していた。それを見ていた彼の目は厳しくなり、内線電話で大統領補佐官のS·クラウディアを呼び出した。
彼女が部屋に入るなり、ハワードは資料の内容に付いて聞いた。
「シンシア、ここに書いてある事は本当なのか? どこかのおとぎ話の様だ。異星人が太古に分かれた人類である事、男の居ない社会、……聖書と同類の信仰を持つなど…」
クラウディアは腰に手を当て、少しリラックスした感じで説明した。
「日立宇宙工廠で異星人に加担していた風早志門から得た情報は確かです、大統領。 前の世界の記憶と同時に回収した現在の世界の記憶から、カインの社会構造も、かなり深いところまで解っています。」、とクラウディア。
「……君を補佐官にしたのは正解だったな。国務省のポストを外したのは申し訳ないと思っている。」
「これは正しい選択です。これからのカインとの交渉に私は必要です。大統領の補佐官として適任です。……私の国務省での後任は事務次官補だったマーキュリーが事務次官をやってくれています。」、とクラウディア。
ハワードは資料を机の上に置くと、ウゥーンッ、といった感じでクラウディアに尋ねた。
「カインとの交渉はまだ青写真だ、………カインの社会は女性だけだな、……私は先遣使節を女性にやってもらおうと思っている。女性同士なら、よく分かり合える事も多いかも知れない。何より平和的だからな。」、とハワード。
「平和的? 大統領、何か勘違いされていませんか、……彼等は合理的に女性を選んだに過ぎない………、本質は、あの聖書に出て来る”カイン“の末裔ですよ!アベル殺し……、人類最初の人殺しです。就任式に聖書に手を置いた信仰深い大統領なら、その行は知っておられると………」
クラウディアが言い終わる前にハワードはアッハッハッ、と大笑いした。
「いや、失礼。グッフッフッ……、あれはもうパフォーマンスだよ。一体、何人の大統領がそうして来たのかな?……確かに、その行は知っているが信仰ではなく知識だよ」、そう言ってハワードは表情を崩したままだった。
「まあ、………カインは女性と思わない方がいいです。私は日立宇宙工廠でカインの審問をした時、ミカという女に酷い目に遭わされましたからっ!」、とクラウディアはこめかみには血管を浮き上がらせた。
「まあ、まじめな話、女性の優しさというのは男性と家庭があってこそ現れるものだからな………、女性だけの社会、と言うのは確かに男性的な強さや力も併せ持っているのかも知れないな………、ところで、もう一人の風早志門の方はどんな感じだ?」、とハワードは尋ねた。
「あのキモい…、失礼、あのどことなく優柔不断で柔らかい感じの日本人男性の事ですね。月の女と結婚して子供も作ってる、………実にけしからん奴です!!」
それを聞いたハワードは吹いた。
「けしからんw、けしからん、かぁwww、………その男性の子供は今、どうなっている?」
「カインの女、ミカと日立宇宙工廠から脱走した後、彼の両親、子供共に行方不明になっています。」、とクラウディアは答えた。
「空間転移……、テレポーテーションが出来るくらいの能力だ。多分、男性の両親と子供も連れ去ったのだろうな………ところで、」、とハワードは次を切り出した。
「カインと連絡は取れるのか?これは重要な部分だ、これが実現しなければ、先に言ったことは只の妄想になってしまうからな、……」
クラウディアは手に持っている入手したばかりの情報資料を開いた。
「現在、日本防衛省の最新鋭対高次元戦闘艦〈あまてらす〉が、先日行われた土星リングの戦闘時の超次元領域の再現を行っています。上手くカインの波動を再現できれば、〈あまてらす〉はカインとこちらを結ぶ超次元回廊として機能する、……と、日本の防衛省は言ってます。」
「日本、か。………あの国はいつの時代でも侮りがたい………、いつも我々の上を行っている。」、とハワードは少し苦い顔をした。
「カインに対してロシア連合の動きは?」、とハワードは尋ねた。
「CIAの情報では特に動きはないと、……しかし、日本でSVR(ロシア対外情報庁)が風早志門を手助けしていたところを見ると、何か考えているのかも知れませんね。ロシア連合の国防宇宙軍も新型の機動艦を多数竣工させていますから…」、とクラウディアは答えた。
「カインとの交渉の時に何か動きがあるかも知れない………、プレアデスに、その仲介を頼む件はどうなっている?向こうは既にカインとの交流が有る。」
「彼等プレアデスは多方面に交流していますが、中立の立場を崩していません。仲介は多分、断ってくるでしょう、我が国は余り良い印象では無いようです。」、とクラウディアは答えた。
「昔、プレアデスの忠告を無視して、今戦っている敵性異星人と技術供与の条約を結んだのがいけなかった……、彼等プレアデスは核の放棄と引き換えに技術供与を持ち掛けた。今、考えれば我々は間違った判断をしたのかも知れないな………プレアデスに従っていれば現在のような宇宙戦争は無かった。」
ハワードは机に肘を突き、頭を垂れた。対し、クラウディアは彼に近づき、横の椅子に腰を下ろすとこう言った。
「強いアメリカは維持しなければなりません。それはアメリカと言う国の本義です。遠回りをしたかも知れませんが、この国の行き着くところに変わりはありません!」、とクラウディアは語気を強めた。
ハワードは俯いたまま、口元を緩め、フッ、と笑った。
「君は強い……、アメリカを体現したような女性だ。」、とハワード。
「ありがとうございます、大統領。………二月に行われる教書演説の原稿は校正して置きました。」、そう言ってクラウディアはバッグから原稿を取り出し、ハワードに手渡した。
「校正作業で内容を見たのですが、国防予算の重点的な強化を謳っていますね。既に国内総生産(GDP)比で3%を超えています、………国民が何と言うか…」
「確かに厳しい部分もあるが、我々政府は国の安全と国民の財産保護を国民に代わって行わなければならない……、この国は戦争で強化されて来た。これから先も同じだ!我々のやっている事は国民は知らなくていい、いや、知らせてはいけないっ! 国家が家だとすれば、家の者の一人が手を血に染めている事を知れば何と思うだろう………、それを知るのは政府と軍だけで良いのだ。」、とハワードは力んだ。
「軍事産業は裾野が広い、その経済が国民の中にも浸透している………もう止められません、大統領、この国は………」、クラウディアが言い終わる前にハワードは叫んだ。
「アメリカは勝つしか生き延びる道はないっ!!」
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その頃、リベレーターは〈あまてらす〉を動力としたままアリゾナのエドワーズ統合機動宇宙軍工廠に在った。
時季は十二月、冷え込む中、リベレーターの2番艦、SCV-02フリーダムと3番艦、SCV-03インデペンデントとそれらを運用する機動母艦、SMS-01アトランティスは竣工に向け、最終チェックが行われていた。




