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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第二部 [ エディ追跡編、高次元戦闘編 ]
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『命の駆け引き』

サービスセクションのバーで、サービスアンドロイドのサンディと話をする中、自身の周囲で思いを寄せてくれた人が居たか、を思い出すランドー。幾分、気の晴れたランドーは〈あまてらす〉の艦橋へ戻る途中、動力管制のバートル中尉と遭遇し、肩の傷の事を聞く。誤射のときの事を思い出したランドーは彼にエディの事について尋ね、彼の思いが今も確かなことを聞き、ランドーは彼に必ずエディを合わせる事を約束する。アリゾナのエドワーズ統合機動宇宙軍工廠に降着したリベレーターの中では、五十鈴とロバートソンの審問が、軍総本部とアメリカ政府、日本の防衛省を挟んで駆け引きが行われる。


『命の駆け引き』




ランドーは現在までの自分の人生を振り返った。



(自分には思いを寄せてくれた人が居ただろうか………、自分は人工人として生まれた。両親は居ない、………提督はずっと私を見ていてくれたが、それは軍という枠の中でだ、………普通に自然な人間として、思いを寄せてくれたのは、妹のエディだけかも知れない。だけど、………彼女はカインへ逃げてしまった…)


ランドーは二口目をグイッと飲み込んだ。


「フウゥーッ…」、大きく溜め息を吐くと頭を垂れた。



「あっ!!」、ランドーは思い出した、と言うより恥ずべき忘却!



(麗っ、君が居たんだっ!! 大切な人を忘れていた!!)



一人で何か呟いているランドーを見たサンディは声を掛けた。

「ランドー艦長、……大丈夫ですか?」


ランドーは顔を上げ、サンディの方を向いた。


「大丈夫、君の言葉で大切な事を思い出したんだ、ありがとう。」、そう言うとランドーは残っていたアルコールを一気に飲み干した。


「そんなに一気飲みして………」、と心配そうに言うサンディだった。

「大丈夫だ。アルコール、と言っても本物じゃないからな、艦に積んでいるのは、……三十分もあれば抜ける。」、とランドー。


「軍用のAL-12(擬似アルコール)は直ぐに分解しますが、一気飲みはお勧め出来ませんよ、艦長。」


「ウンッ」、そう言うとランドーはソファーから腰を上げた。


「ありがとうっ、サンディ。少し気が晴れた、また来るよ!」、そう言ってランドーは部屋を出た。それを見ていたサンディは、お会計っ!、と言おうとし、右手を上げたが彼は気付かず行ってしまった。



(仕方ないな、………前に預かった提督のシップカードで落としとこう…)




   …………………………




〈あまてらす〉に戻る途中、ランドーは居住セクションの通路で、動力管制のバートル中尉と偶然出会った。彼はシフトを終え、セクションに特設された士官用の自室へ帰る途中だった…


ランドーはバートルに肩の具合を尋ねた。


「……中尉、肩はもういいのか、…」

「まだ完全ではありませんが、……休んでいられませんよ。」、とバートル。


ランドーはバートルがエディの盾になって自分に撃たれたときの事を思い出した。



(あの時、タイミングが悪ければ、自分は彼を………)



ランドーはバートルの方を見たまま動かなかった。それは誤射という事故で、簡単に終わらせている自分の姿を改めて思った…


(もし、彼が死んでいたら、……エディは自分をどう思うだろうか……)



「ランドー艦長、どうしたのですか?」、バートルは焦点の合わない彼の目を見ると、近づいてランドーの顔を伺うように聞いた。



「中尉、君は今でもエディの事が気になるかっ…、君の気持ちをそのまま言って欲しい。」


それを聞いた彼はランドーの言葉の意図が分からず、少し迷ったが、次にハッキリと答えた。


「自分はエディを愛していますっ、それは、あの時の自分の行動が証明しています!」


「……私は必ずエディを君に合わせるっ、艦長として約束する!」、ランドーは少し笑みを浮かべ、ポンッと軽く彼の肩を叩いた。


「痛たっ……艦長ぉっ!」、とバートル。

「あぁっ、すまない、忘れてたっ!」、と謝るランドー。




      ◆




〈あまてらす〉にエドワーズ統合機動宇宙軍工廠の管制室からコンタクトが有った。それに呼応しSAIはリベレーターの高度を下げ、進入コースへ入った。


「エドワーズ基地管制から誘導ビーコンを受信!リベレーターはSAIオートで進入軌道に入りました。現在高度、凡そ86000ft………緩降下中…EAT(到着予定時刻)誤差、−30min……」、と五十鈴。



五十鈴の横に立っていたロバートソンは呟いた。


「久しぶりの本国だが、……ゆっくりとはさせてもらえないだろうな………」、そう言い、ロバートソンは大きな溜め息を吐いた。


「付き合いますよ、提督………、すみません、私のせいでしたねっ!」、と五十鈴。


「なにっ、構わないさ。こう言うのを日本では一蓮托生、と言うのだろっw」、ロバートソンはアッハッハと声を大きくして笑った。


「提督は詳しいですね、ウフフッ……」、と五十鈴も笑った。




     ◆




アリゾナの広大な赤い砂漠に、コンクリートで固められた長大な滑走路と幾つかのドックが見えた。


そこには竣工を控えたリベレーター級機動空母の2番艦〈フリーダム〉と3番艦〈インデペンデント〉、そして、それらを運用するための機動母艦〈アトランティス〉の姿が在った。



リベレーターはその横に空いている巨大な乾ドックに降着した。



400名の乗組員は作業をアンドロイドに任せ、弔用の制服に着替えると艦を降りた。

二列に整列し、イギリス艦艇から収容された遺体と航空隊の戦死者の遺影を持つ列が、乗組員の列の間を通り過ぎるのを弔銃と敬礼で見送った。



統合機動宇宙軍本部のリードマン大将から、艦内に待機を命じられた五十鈴一等宙佐とロバートソン提督、そして艦長のランドーは、サービスセクションの多目的会議室からモニター越しに敬礼で彼ら戦死者たちを見送った。


多くの運搬車がそれらを運び去り、代わって作業用の車両がリベレーターに集まり、点検修理と補給作業を開始し始めた。



暫く経った頃、大勢の護衛に囲まれた五、六名のVIPと思われる人物が室内に入って来た。一人は統合機動宇宙軍本部のリードマン大将、他は直接の会見は無いが、軍総本部ペンタゴンのK·マッカーシー将軍、他は政府の高官のようだった。


この様子を見たロバートソンはおかしな事に気が付いた。このような高官が揃う場には大概、作戦司令部の山元司令の姿が在るのだが……、と思った。また、制服組の中には、眼鏡をかけた背の低い、明らかに日本人風の男が居た。



私とランドー、五十鈴は型通りの敬礼で彼等を迎えた。



全員が席に着くと、リードマンが口火を切った。


「先ずは作戦ご苦労だった。イギリス艦艇の処分に付いては政府間の合議で時間が掛かった、………ロバートソン、君たちの処遇の事だ。」


私たちは神妙な面持ちで、次の言葉を待った。



次に言葉を発したのは軍総本部のマッカーシー将軍だった。

「報告は全て聞いた。艦長を除く、君たちがやった事は明らかな重大軍規違反だ。軍事法廷で裁かれるべきものだ、………本来ならばなっ…」、とマッカーシーは含みを持たせるような事を言った。そして、リードマンの方を向いて、続きをっ…、という感じて小さく顎を突き出した。


「日立宇宙工廠の報告の中には虚偽の報告が有った、………アメリカ政府が特別チームを送っている時にだっ! 此処で理由はいらんっ、異星人を意図的に逃がしたっ、ロバートソンっ、君にも責任を取ってもらうっ!!」、とリードマンは語気を強めた。


政府の高官らしき背の高い女性が席を立ち次の様に言う。


「私は、あの凶暴な異星人に酷い目に遭わされたっ、それを逃がしたなどっ!!………」、彼女はそう言って眼鏡をかけた日本人風の男の方を向いた。


「アメリカ政府の代理として聞くっ!日本はこの責任をどう取るつもりかっ!!」、と彼女。


私は彼女が日立宇宙工廠で見た、月面異星人対策特別チームのS·クラウディアだと、その時思い出した。



男は席を立ち、五十鈴の方を向いて、先ず身元を伝えた。


「私は防衛省副大臣の和泉総司郎という者です、……五十鈴宙佐、貴方とは初めて会いますね。………先ほど、アメリカ政府が言われた通り、この責任は取らねばならないっ!」、そう言うと彼は席を離れ五十鈴の横に来た。手持ちのアタッシュケースを彼女の前にドンッ、と置き、ケースを開いた。中にはハンドガンが有った。


「即決(自決)したまえっ!」、と彼は言い放った。


五十鈴がそれに手を伸ばそうとした時、私は大声で叫んだ。

「待ちたまえっ!!、………Mr.和泉っ、そのハンドガンには何発装填されているっ?!」


和泉は?な顔で、こう言った。


「………、カラムマガジンなのでフルで十二発といったところです…」


私はワッハッハと大笑いした。

「良かったっ、私の分もちゃんと有るなw」



和泉はこのタイミングで身を乗り出してケースの蓋を閉じ、テーブルに腰を乗せて、蓋に載せた手に体重を掛けると、アメリカ政府の代理、クラウディアの方を向いて次の様に発した。


「彼女には此処で自決してもらう。だがっ、カインとの接点は一切失われるっ!超次元へ逃げたカインの波動は彼女しか知らないっ、それでも、………いいのだなっ、アメリカ政府はっ?!」


その、半ば脅しとも取れる言葉にクラウディアは狼狽えた。

(此処で勝手な事をされれば、………クソッ、この男、取り引きをしようと言うのかっ?!)



この場面を待っていたかのように軍総本部のマッカーシー将軍がクラウディアに進言した。


「クラウディア大統領府補佐官、ここは取り引だ。Mr.和泉の要求を聴こうではないか、…」


クラウディアは顔を引き攣らせながら吐いた。


「そっちの要求はっ!」


和泉は口を緩ませると、要求の内容を語った。



「先ず、五十鈴宙佐とロバートソン提督に係る全ての軍事的刑罰の赦免と放棄、それとカインとの交渉は〈あまてらす〉内に置いて行われる事。後者は今回のリベレーター超次元航行の技術的課題と根拠に基づくものであるっ!」


その後、リードマンが捕捉した。


「この時期に有用な人材が拘束、処断される、というのは軍の士気にも影響が出る、……そうでなくとも統合機動宇宙軍は人員が不足しています。今回、土星宙域のイギリス艦艇と乗組員の喪失は時間を許さない問題です。」



この要求にクラウディアの横に居た国務省事務次官のE·マーキュリーはクラウディアに対し、この要求を持ち帰ることを勧め、一先ず、この場は収まった。




   ……………………………




厳しい状況から放免された五十鈴と私は〈あまてらす〉の艦橋へ戻った。


艦橋へ入るなり、彼女はワァッと叫んで私にしがみつき、泣いた。


「もう、大丈夫だ、五十鈴艦長。………虎口の難は脱した…」



  

      ◆




一先ず事を終えたランドーはCICの高次干渉除染と機器の修復状況を確認するため、操縦航法管制の中島大尉と共にCICへ向かっていた。






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