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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第二部 [ エディ追跡編、高次元戦闘編 ]
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『CIC要員の検査と謎』

五十鈴は地球の統合機動宇宙軍作戦司令の山元 葵一等宙将に報告を行った後、メディカルセクションのマーティン中佐(軍医)の元へ走り、今回の要因について話し合う。マーティンは高次干渉に侵されたCIC要員の検査解析を行うが、そこには不可解な謎が残った。


『CIC要員の検査と謎』




統合機動宇宙軍作戦司令の山元 葵一等宙将は五十鈴の報告を聴き、苦い顔をした。敵の殲滅には成功したが、味方のイギリス艦艇の乗組員800名の犠牲は今後の要員動員にも大きな影を落とすと考えられた。



「五十鈴宙佐、今回の多大な犠牲は統合機動宇宙軍に取って計り知れない損失だ、動員計画にも問題が起きる、………イギリス艦艇から”Thing X(TXマテリアル)“とTX機関操作員の遺体の回収は出来ているかっ?!」、と山元は五十鈴に尋ねた。


「はいっ、回収班の報告でアークロイヤル、ヴァンガード共に最優先重要事項として完了しております。」、と五十鈴。


彼女は更に続けた。


「イギリス艦艇は機能を喪失、……現在のリベレーターで此等を曳航帰還することは出来ません。BS(Break Shot)による破壊消滅の許可を………」


五十鈴が言い終わらない内に山元は尋ねた。


「せめて、回収できるハードウェアはないかっ?」


五十鈴は暗い顔をして答えた。


「司令、あれはもう……、例えで言えば巨大な呪物です。その為、チリ一つ残しておく訳にはいかない………」


「………、この事案は上(統合機動宇宙軍本部)と合議する、暫くの間待て。」、山元はそう言い残し、通信を終えた。




   ……………………………




一方、マーティン等、救助チームによってCICから引き出されたロバートソンとランドー、他の者は急いでメディカルセクションで特設された個室に収容された。回収時、全員床に倒れた状態で発見されていた。マーティンが推測するところ、CIC要員は電源カットアウトの後、席を離れ、状態を確認している間に高次干渉に侵され、そのまま倒れたようだった。



メディカルセクションに出向いた五十鈴とマーティンは機械的な要因と人的要因について話し合った。


「私は〈あまてらす〉接続作業の時に、万一の事を考慮して、もし通信データーを解析に回した場合、CICシステムをSAI(艦統合AI)から切り離すため制御バイパスとエネルギーバイパスにブレイカーを設定して置いたのです、……ランドー艦長は管制員には周知しておくと言っていたのですが………」、と五十鈴はマーティンに語った。



「なるほど、……原因は間違いなく傍受した通信を二次解析に回した結果か、………SAIにCICのパネル操作の記録を調べれば判りそうですね。」、とマーティン。


「それは推奨できませんっ!、高次干渉の影響は物質的にも残っているかも知れない。その為、私はSAIとCICの制御バイパスには二重のロックを掛けています。」



「五十鈴さん、失礼、……五十鈴艦長はとても慎重な方だ。貴方が居てくれて本当に良かった。私はCICに居た者から、高次干渉を受けた後、どのような精神行動が有ったのか細かく調べなければならない、……各員のニューラリンクシステムのメモリーに行動と思考が記録されています。」、とマーティンは検査の内容を話した。


「くれぐれも記憶回収の時は気を付けて下さい。回収機器は艦のシステムに繋がない、独立した状態で使用して下さい。」、五十鈴はマーティンに念を押した。


「私は残されたイギリス艦艇の処分の決定が作戦司令部から届くまで〈あまてらす〉で待機しています。もし、何かあれば言って下さい。」


そう言うと五十鈴は部屋を出て行った。




マーティンは椅子から腰を上げると科員に対し、高次干渉に侵されたCIC要員の記憶回収の準備を指示した。




まず最初にランドー艦長の精神行動と思考解析を行った。


注意すべき点は記憶の中にある言動に艦の破壊に迎合するような部分が無いか、敵の誘導に従っていないかだった。


(敵の誘導に従っていたり、艦を破壊するような部分は、後で行動に現れるかも知れない。そうなれば、もうCICには就けないな………)


衛生科員はランドーの頭部のシステムソケットのカバーを外すと、有線で解析モニターと継ないだ。



暫く、精神記憶画像を診て、詳細を記録した。彼の言動と行動、干渉側の行動と言動等………。


途中、マーティンはおかしな事に気が付いた。


(おかしいなっ?………干渉してきた側に艦の破壊行為や被干渉者を狂わすような誘導(または誘惑)が無い、………この辺りは他の者と比べて判断、……って事になるかっ?!)



続けて火器管制のフスター少佐と妹のマーベリット大尉、航法管制の中島大尉とイングリット大尉、動力管制のバートル中尉とマーク少尉、最後にロバートソン提督の順で診て行った。ロバートソンは他の者の様にニューラリンクシステムを着けていない為、退行催眠と脳波を拾い出す方法で時間が掛かる事から一番最後となった。




    ◆




この検査には相当な時間が掛かった。検査を始めて、既に十六時間が経過していた。それは一人ひとりの言動の細かい部分に及んだ。



艦内時間で02:23にようやく精査が終わり、マーティンは検査の終了を五十鈴艦長代行に報告した。五十鈴は直ぐにメディカルセクションに足を運んだ。


「五十鈴艦長、ご足労です。結果が出ました。」


「どうでしたかっ?」、と五十鈴は聞いた。


「全員、クリヤです、一人を除いて……」、とマーティンは疲れた目を擦りながら言った。五十鈴は傍受した通信の二次解析を誰が行ったか聞いた。


「操縦航法管制のイングリット大尉です。………本当に申し上げにくいのですが、彼女は貴方に反感を抱いていました。本人はイギリス艦艇の早急な救援を望んでいたようで、艦長命令を無視して火器管制のパネルとリンクして傍受した通信の一次データーをコピー、その後、データーを開いたようです。」、とマーティンは答えた。



それを聞いた五十鈴はフウゥーッ、と大きな溜め息を吐いた。


「他に問題は………」、と五十鈴。それに対し、マーティンは笑顔を浮かべた。


「有りませんっ、皆よく耐えたと思います。高次干渉は、その人間の一番弱いところを突いてきますからね。もし、敵の誘導に従っていればアウトでした。」、とマーティンは言った。直後、彼はハッ、と気が付いたように次の事を伝えた。


「すみません、問題かどうか分かりませんが、もう一点有ります、………ランドー艦長ですが、彼は、……」、とマーティンは言いかけて口を止めた。


「何かっ?」、と五十鈴。



マーティンは腕を組み、少し考えた様子で話した。


「彼は以前、この艦に居たTX機関の操作員、エディ·スイングの幻影と対峙しています、………ただ、奇妙な事ですが、その幻影はランドー艦長を罵った以外は艦に影響を与えるような誘導は一切無かった事です。通常なら、何らかの破壊行為へ誘導するはずなのですが……、私の推測ですが、ランドー艦長の場合、敵の高次干渉の中に別の高次意識が入っていた、と考えています。干渉の、……幻影のベースがエディ·スイングのまま変わらなかった、というのも不可解です……」



五十鈴は暫く俯いた後、話を切り上げた。


「お疲れ様でした、中佐……、ゆっくり休んで下さい。私は司令部からの連絡が有るので〈あまてらす〉に戻ります。」


「ありがとうございます、五十鈴艦長。休みたいのですが、まだ、個人聞き取りが残っています。」、とマーティンは答えた。



五十鈴はすみませんっ、という表情で部屋を出て行った。





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