『血の絆と軍の規律』
暗闇の中で大切な者と話し合うロバートソンとランドー。家庭と血縁の絆と、相反する軍の規律に苦悩する二人…。CICが高次干渉に晒された事を知った〈あまてらす〉の艦長、五十鈴一等宙佐は指揮権とリベレーターのコントロールを引き継ぎ、敵の要塞とイギリス艦艇へ調査回収に出た陸戦突撃隊のオブライエン大尉とマーティン中佐に帰還命令を出す。その最中、ヴァンガードの砲門が起動し、リベレーターに照準を合わせる。
『血の絆と軍の規律』
私は、この奇妙な空間でキャシーと話をしていた……
「ジェリー(ロバートソンの名前:JC·ロバートソン→ジェリー·C·ロバートソン)、このままだと私たちは、もう終わりになる、こんな終わり方はイヤっ! お願いだから、この船を捨てて、…………この船さえ無ければ私たちの仲は保たれる!」、とキャシーは言った。
「では聞く、私が居なくなれば誰が敵性異星人と戦うのだ、………君が代りを出来るのかっ!?」、と私は彼女に尋ねた。
「そんなものは、できる人に任せればいいのよ、………この船には艦長もいるでしょっ…、さあっ、早くここから逃げましょう、貴方っ!」、とキャシーは急かすように答えた。
「私は、………どうすればいい。」
「…………、この船には緊急時の為に自爆装置があるでしょ、この船を先に破壊して逃げましょう、………そうすれば、貴方は家に帰ってこれる……」
この時、キャシーの言動は既に整合性を欠いていた。その事にロバートソンは気が付いていた。
「…………、もし私の仕事が軍務でなければ、君の要求に従って、直ぐさま仕事を投げ出し、家に帰っていただろう、………私の仕事は何かっ!、………アメリカ国民と、その同盟国の国民と財産を侵略者から守ることだっ!! そして、そこに在るのは常に命のやり取りだっ!…………、そこに私事を挟む余地は無いっ!!」
私の言葉は彼女にではなく、自分自身への問い掛けだった。
彼女は憎悪の表情を浮かべ、私を見た。
「薄穢いキャシーの偽物っ、此処から去れっ!!」、と私は大きな声で叫んだ。
◆
〈あまてらす〉のいるセントラルデッキを目指すランドーは暗闇の中を彷徨っていた。
「クソッ、なかなか辿り着けないぞっ!? ニューラリンクシステムに記録している艦内図では、当に着いている筈だ、………一体、この原因は何なんだっ、これが人的要因なら許せんなっ………」、とランドーが言い終わらない内に横から声が有った。
「貴方が処断するかしら、………私の時のように…」
ランドーは反射的に、その声から距離を取った。しかし、暗闇の中では周囲が確認できず、彼は通路の壁に自分の身体を打ち付けた。
「痛た………、誰だっ!」、と叫ぶランドー。
「私よ………、私は艦に戻れば貴方に処断される。私は貴方から逃げた、………」
それは確かに聞き覚えのある声、TX機関の操作員、TR-3Dでリベレーターへ帰投中、遁走したエディ·スイングの声だった。
「貴方はたった一人、血の繋がった私に酷い仕打ちをした。貴方の心は人間じゃないっ! 戦争の機械っ、悪魔っ!!」
暗闇に声だけが響き、それはランドーの心の奥深くに突き刺さった。
「貴方がバイオクローニングで造られた後、私も直ぐに造られた。成体になるまでの五年、………最初はGEのバイオエレクトリック社で暫く一緒だった時、貴方は私に優しく接してくれた………、なのにリベレーターに乗った時、何であんな酷い扱いをしたのっ………私はとても悲しかった。」、と彼女。
「…………、自分は人工人だ、………艦を与り、仕事を与えられた………、エディに酷い扱いをしたのは事実だ…、だけど本心からじゃない……」
「仕事だからっ?! それでも、ランドー……、いや、レナート(ランドーの名前:R·ランドー→レナート·ランドー)、貴方がやったことは何っ、私の事を人間扱いしてくれなかったっ…」、と彼女は声を大きくして投げ掛けた。
「…………」
ランドーは彼女が幻影である事は分かっていたが、それが言うところに反論しなかった、……それは事実だからだ。
「自分は………、自身が人工人と言うことに憚りが有ったのかも知れない、いや、………有ったんだ。エディに辛く当たったのも、その裏返しかも知れない………、」
ランドーは自身の心を探った。今の状況がどうであれ、自身の気持ちと向き合わなければならなかった……
「だがっ………」、とランドー。
「エディが”Thing X ヒヒイロカネ“をカインに渡し、月面の敵の基地を攻撃した時に、私の射線を遮った、………この時は軍人として彼女が許せなかった、……これは確かだ、だけど………、」、そう言うとランドーは言葉を詰まらせた。
「彼女がリベレーターへ帰投中に遁走した時、………」
ランドーはその場に崩れ、床に両手を着いた。ポタッ、ポタッと涙が床を叩く音が聞こえる……
「私は酷いことをした以上に、……悲しかったんだっ!!」、とランドーは独白した。
ランドーは立ち上がりエディを呼んだ。
「エディ、………こっちへおいで…」
そう呼びかけると、暗闇の中でスゥーッとエディの姿が浮かび上がり彼に近づいた。
ランドーは彼女を抱きしめて言った。
「ごめんよ………、エディ。本当の自分の気持ちは、…………君を愛していたんだっ。自分にとって、たった一人の妹…」
ランドーは彼女をきつく抱きしめていたが、やがてエディの身体は光を失い、靄のように消えていった。
◆
全艦に五十鈴一等宙佐の声が響いた。
「警報っ!! CICが高次干渉で汚染されたっ! CICは自動で閉鎖されたっ、乗組員及び、アンドロイドは絶対にCICには近づくなっ!、これよりリベレーターのコントロールは〈あまてらす〉が行うっ!!」
五十鈴はコントロールを引き継ぎ、現在の作戦進行状況を確認した。そして、イギリス艦艇の乗組員の救難に出ているマーティン中佐と継ないだ。
「マーティン中佐、〈あまてらす〉の五十鈴ですっ、リベレーターCICがやられましたっ!高次干渉です、そちらで行われている調査を中断して艦へ戻ってくださいっ!!」、と五十鈴は叫んだ。
{ 待ってくれっ、まだ遺体の回収が終わっていないっ! }、とマーティンは返したが、五十鈴はそれを許さなかった。
「嫌な感じがするっ、航空隊と突撃部隊も帰還させるっ!!」、彼女はそう言うとオープンチャンネルに切り替え、航空隊のブラックバードと突撃部隊に帰還命令を出した。
……………………………
五十鈴の命令を受けた際、指揮系統に若干の混乱を生じさせたが、敵の機動要塞内に進攻していた陸戦突撃隊は踵を返し、乗り込んだ大破口へ撤収を開始した。
待機していたSC-130輸送機4機は、定員を収容次第、各機ごとに要塞から離脱、最後の一機が離脱した直後に、要塞は至る所から、設置されたリモート爆薬の爆発閃光を発した。
要塞とイギリス艦艇を監視していたSF-51Rブラックバードも陸戦突撃隊を乗せたSC-130輸送機の離脱を確認すると機首を反転させた。
「よしっ、撤退だっ!」、とパイロットのオブライエン大尉が叫んだが、それと被って後ろの電子管制シートに座るボマー中尉が叫んだ。
「大尉っ、走査画像に動体反応っ!! ヴァンガードの電磁キャノンが起動していますっ………射線、リベレーターッ!!」
「何だとっ!」、とオブライエン。
……………………………
状況を監視していた五十鈴は、直ちにリベレーターを起動させ、土星のリング、小惑星帯に向け移動を開始した。




