『土星宙域の闘い』
ダメージを負った〈あまてらす〉の五十鈴艦長は超次元空間にリベレーターが長く留まっていられない事を知り、急ぎ戦闘を開始する。敵性異星人、ドラコレプテリアの高次元意識体をBS(Break Shot: 指向性破壊波動放射)で破壊したリベレーターは敵の機動要塞の近傍の空間に転移し、航空戦力で要塞を叩いた後、陸戦突撃隊を要塞内に進攻させる。リベレーターのCICでは捕らわれたヴァンガードとアークロイヤルの救助シグナルと思われる信号を捉えていたが、それには危険な罠が仕組まれていた…
『土星宙域の闘い』
マーティンは直ちに〈あまてらす〉に駆けつけ、五十鈴を診た。
「どうすれば、こんな短時間にこれだけのストレスを身体に掛けられるんだっ!? それとも、五十鈴艦長、貴方は血管症を患っているのか?」、とマーティンは五十鈴に聞いた。
五十鈴は虚ろな目で小さく顔を横に振り、それ(血管症)は無い、と答えた。
「リベレーターの様な戦闘艦を超次元に移行させたのは、私自身初めての試みだった、………これは相当な無理が有ります………」、そう言うと五十鈴はランドーの方を向いて言った。
「リベレーターは長時間、この次元に留まる事は出来ない、………保ってあと一時間………、この間に作戦を終わらせます。」、そう言うと五十鈴は再び身体を起こし、超次元とリンクする為にヘルメットを装着し直した。
軍医のマーティンはランドーと一緒に〈あまてらす〉の艦橋に残った。
五十鈴はTXソナーでドラコレプテリアの機動要塞をスキャンし、敵性異星人たちの高次元意識体に向けてBS(ブレイクショット:指向性破壊波動放射)による攻撃準備を行った。
「………、ウェポンズレデイ、ターゲット、ドラコレプテリアの高次元意識体、………オールターゲットマーク、ターゲットロック、………BS、ファイヤッ!…………高次元意識体、全ターゲット、デストロイッ、………第2目標、敵要塞、物理制御網、………第2射、ファイヤッ!」
ランドーとマーティンは、ゴーグルと一体化したヘルメットを装着した五十鈴の戦闘を、後ろから眺めるしか出来なかった。
しかし、その様相は五十鈴自身が語った、リベレーター側でやる事は無い、と言った事を確かなものにしていた。
………………………………
その頃、リベレーターCICでは、ヴァンガードかアークロイヤルのものと思われる救難信号を受信していた。
火器管制のマーベリット大尉がTXソナーに反応する、物理正弦波を確認した。それは敵性異星人の機動要塞の存在波長に被る形で小さく発信されていた。
「アークロイヤルのものではないですかっ!? フスター大尉っ」、航法管制のイングリット大尉は火器管制の方を向いて叫んだ。
「ハッキリとは分からないけど、この波長はSOSコールに似ている………」、とフスター大尉は言った。
マーベリットの横に居るフスター少佐はCIC全員に聴こえるよう、声を大きくして発した。
「通信を傍受しても、絶対に開くなっ! これは艦長命令だっ!」
それを聞いたイングリット大尉は顔を歪めた。
(友軍のSOSシグナルを無視しろって言うのっ!、あの五十鈴とかいう女艦長?、アークロイヤルにはスコット提督が居るのよっ!…………こうなったら、)
イングリット大尉は自分のメインパネルを火器管制のマーベリット大尉のパネルにリンクさせ、密かに、この一次受信の記録を自分のメインパネルのメモリーに移した。
ここでCICに〈あまてらす〉の五十鈴艦長から声が入った。
{超次元戦闘終了、これよりリベレーターはドラコレプテリアの機動要塞近傍の三次元空間に転移するっ!航空団、陸戦団突撃隊、発艦準備せよっ!}
次にランドーの声が入った。
{ランドーだ、これより私が指揮を行う。航空団、SSA-29Eファイヤーフライ全機発艦準備、救難輸送機及び内火艇はイギリス艦艇の乗組員救助に備えっ! 陸戦突撃隊、準備せよっ!}
SCV-01リベレーターは現時空間に現れると、直ちに電子索敵と有視界戦闘へ入った。
SAIは作戦チャートに従い、先ず航空団のファイヤーフライを発進させ、それと同時に偵察機SF-51Rブラックバードを情報収集のため発艦させた。
既に〈あまてらす〉のBSで動けなくなったドラコレプテリアの機動要塞を戦闘爆撃機
ファイヤーフライで更に念入りに叩いた。
そこへ陸戦団の輸送機四機が到着し、要塞の大破孔から突撃隊、二個師団を送り込んだ。
これらの攻撃の最中、内火艇と救難輸送機は捕らわれているイギリス防空軍のヴァンガードとアークロイヤルに接近していた………
◆
敵の機動要塞の中に突入した陸戦第1、第2師団は其々が要塞の反対方向へ展開していった。
第1師団を率いるフレデリック少佐は初めて見る敵の要塞内で慎重に歩みを進めていた。TXソナーで得られた情報はリベレーターからTIDIL(Tactical Digital Information Link:戦術デジタル情報リンク)で送られていた。クルーガーはそれを確かめながら進んだ。
突撃隊の任務は敵の排除とリモート爆薬の設置だった。彼等のすぐ後を情報収集隊の者が続いた。
今回は火星と違い、要塞という迷路のような所で、ランダーの様な大型の機動兵器は使えないことから、各自機動スーツを着込み、電磁ライフルとポータブルグレネードという軽装備だった。
通路を進むにつれて、敵の死体が、そこかしこに見られるようになった。
後ろに付く兵士が彼に言った。
「少佐、こいつら、本当に死んでるんですかっ?」
動かない敵の身体を確かめながらクルーガーは部下に答えた。
「ブレイクショットで高次元意識体は破壊できているが、………ここに転がっているのは物理体だ。ロボットの様に自動で動き出す可能性も否定できんな………各自、慎重に進めっ!」
突撃隊は爆薬をセットしながら、さらに奥へと進んだ。
……………………………
先発攻撃を終えた航空団の戦闘爆撃機SSA-29Eファイヤーフライはリベレーターへ帰投中、偵察機SF-51Rブラックバードとすれ違った。
ファイヤーフライに搭乗していたライトニング少佐はブラックバードの J·オブライエン大尉(中尉より昇進)に呼び掛けた。
オブライエン大尉のインカムにライトニングの声が入った……
{こっちの仕事は終わった!後は任せるっ、オブライエン!}
「ラージャ、敵に動きがあれば直ぐに連絡しますっ!」
パイロットシートの後、電子管制シートに座っているD·ボマー中尉(少尉より昇進)は大尉に言った。
「他の者は艦を降ろされたってのに……我々はラッキーでしたね、大尉。」
「…………」、オブライエンは黙った。
(明日も生きていれば、………の話だがな。残った俺たちか、艦を降ろされた奴らか、……どっちがラッキーなのか…)
……………………………
リベレーターCIC。
「艦長、敵要塞内の進攻及び調査は問題なく進んでいるようです。」、とマーベリット大尉が報告した。
指揮統括エリアにいるランドーは下方の火器管制エリアを見下ろすと、次の事を聞いた。
「救助活動はどうなっている、現状報告を頼む!」
「了解……現場のマーティン中佐と継なぎます。」、マーベリットはチャンネルを開き、全球スクリーンにマーティン中佐のヘルメットカメラの映像を映し出した。
「マーティン中佐、生存者は確認できたか?」、とランドー。
{………、ランドー艦長。今から話すことを落ち着いて聞いてくれ。TXソナーのリンクで分かっていたが、やはり生存者は居ないようだ………艦内で大規模な銃撃のあった事が分かった…}、いつもは丁寧な言葉遣いの彼の声は緊張の為、端々が荒く尖っていた。
「艦内で銃撃っ!? 仲間同士で撃ち合ったというのかっ!」、ランドーはエリアから身を乗り出すようにマーティンに問うた。
そのやり取りを聴いていた、航法管制のイングリット大尉はランドーの方を向いて叫んだ。
「ヴァンガードとアークロイヤルからは救助シグナルが発信されていました! 何故もっと早く救援に行かなかったんですかっ!」
それを聞いたマーベリット大尉は大きな声で、それを否定した。
「まだ、救助シグナルと分かったわけじゃないっ!」
「シグナルを解析すれば解るでしょっ!」
イングリットはこの時、自分が感情に走っている事に気が付かなかった。そして、彼女は凡そ軍人とは思えないような行動を取った…
自分のメインパネルのメモリーに移した救助シグナルのデーターを開いた。
その瞬間、CIC全てのエネルギーがダウンし、闇に包まれた。




