「赤い惑星の戦い」
TX機関による超次元航行で火星の高軌道上へ出たリベレーターは直ちに攻撃を開始する。
「赤い惑星の戦い」
巨大な光球がリベレーターを包み、ストロボを焚いたように一瞬輝くと巨大なリベレーターの船体は跡形も無く消えた。
リベレーター艦体とCICに居た管制員には何の動揺も無く全球メインモニターには瞬時に火星高軌道上を映し出した。リベレーターの真上に緩い弧を描くように火星が現れた。
{目標地点到達、艦体及び各システムに異常なし!}SAIはCICの各エリアへ伝えた。
既に戦闘準備を整えていた火器管制のフスター大尉は兵装を展開した。各ウエポンエリアでは専任要員と損害や故障が起きた場合に備えてアンドロイド要員が配置に着いていた。
「全兵装コンバットポジション!TX機関、高次ジャマ―出力最大へ!」
TX機関は高次ソナーの情報を全球モニターに四角い敵性ターゲットマークとして表示した。その多くは火星の赤道に近いオーロラ湾に集中している。サブ画面に異星人の種類とUFOの情報が表示される。
艦長のランドーは現在の高度を維持しながら巡航ミサイルの発射を発令した。
「全目標に向け巡航ミサイルを発射せよ!」
「オールターゲットロック、アルテミス(極超音速多弾頭ミサイル)発射 ‼ 」
フスター大尉はターゲットを全ロックし発射ボタンを押した。
リベレーターからおびただしい数の噴射煙の尾を残しミサイルは火星の地表を目がけて飛んで行く。
全球モニターにはミサイルの軌跡が表示された。飛翔中のミサイルは途中で弾頭を分離し、吸い込まれるようにターゲットマークへ進んだ。そして、命中……ターゲットマークはイエローを表示する。
「……ミサイル全弾命中! ターゲットデストロイ ‼ 」とフスター大尉は叫んだ。
私は艦長の後ろで腕を組み状況を確認した。
(着弾…上手くいっているようだ。高次からの妨害波もTX機関が完全に封じている。一昔前なら物理攻撃自体が不可能だったからな…)
「大尉、周囲に敵性航空機(UFO)は居るか⁉」とランドーはフスターに聞いた。
「TXソナー(次元包括レーダー)に感無し、一機もいません。TX機関の高次ジャミングが有効に機能しています!」とフスターは答えた。
「よしっ!」とランドーは言うと次を発令した。
「これより本艦は大気圏降下を行う!」
直ぐさま航法管制の飛鳥大尉はリベレーターを180度ロールさせた。リベレーターの巨大な艦体はグワァーッと傾斜していく。今まで上に見えていた火星はモニターの下に見える形となった。
「ベクトル、コース進行方向へ合わせ!……艦体浮力ゼロ調整自動、大気飛行へ移行!」と飛鳥大尉は叫んだ。続いてSAIの補足が発した。
{艦内重力制御、火星重力に合わせ自動へ移行!}
「降下せよ、高度6000!」とランドーは指示した。
「了解、高度6000…対気速度300ノットで緩降下します!熱核エンジン、スタンバイ」
動力管制のバートル中尉は熱核エンジンの反応を注意深くモニターで監視した。
「エンジン反応安定、1番~8番ア・ゴウ!」
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艦中央のセントラルデッキに発令が響く。
“{航空隊及び陸戦隊、発進降下準備 ‼ } ”
( とうとう来たか…)
既に戦闘攻撃機SF-51GムスタングⅡのコックピット内で待機していたライトニング少佐は心の中で呟いた。
ランダー(地上戦用人型兵器、《 ABR:アドバンストバトルランダー、正式採用名称:SM4-A2 》)を搭載した宙兵隊の大型輸送機四機は既に射出体制に入っている。
ランダーは航空輸送に対応するため特殊な軽合金(一説には異星人の自動修復金属)で作られており、輸送時の形状は輸送機の投下機構に合わせ非常にコンパクトに出来ていた。それもあり輸送機一機当たり最大で12体(両)の搭載が可能となっている。
地上で機体を展開した時は脚部、アームが人間の身体のように動き、不整地に於いても脚部に装備された鋼製の動輪を駆動させることにより高速移動が可能となっている。特筆すべきは従来の装軌式車両では不可能だった山岳戦闘や遮蔽物の多い市街戦闘が有効に行える事だった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
機体が折り畳まれ輸送機内に格納されたランダーの狭いコックピット内でジールは自分の心臓の鼓動を強く感じていた…
(怖いの……私?)と自問する。そんな時、ライト少佐からインカムを通じて各機に通達が入る。
{各分隊は目標ごとに自動で投下される。着地したら量子ステルス装置を入れ忘れるな!ターゲットのマーカーはリベレーターのTX機関とのコネクトで自動表示される。もし、パイロットに何か有っても遠隔で操縦される、絶対に慌てるな。全員、訓練のレクチャー通りに行えっ ‼ }
{了解!}と各機のパイロットの声が聞こえた。
◆
リベレータは攻撃ポイントへ向け緩降下し高度6000を若干下回った所で艦を水平に立て直した。
TX機関の防御フィールドに護られている為、火星大気の摩擦や激しいや振動は無かった…
「速度、300ノット…艦水平!」と航法管制の飛鳥大尉は火器管制エリアのフスター大尉の方を向いて言う。
フスター大尉は頷くとセントラルデッキ艦尾側シャッターと艦底部の航空機発着艦ベイを開放させた。
「デッキステーション、シグナルグリーン…航空及び陸戦隊降下準備よしっ!」
統括エリアに居る艦長ランドーは後ろに居る私の方を向き、浅く頷く。私も同じく無言で頷いた。
「航空隊、陸戦隊降下せよっ‼」とランドーは発令した。
セントラルデッキではランダーを搭載した輸送機が四機が順次カタパルトで射出されて行った。続けて艦体底部の開口部から航空隊の戦闘攻撃機が投射された。
空中に投射された戦闘攻撃機ムスタングⅡはハミルトン大尉率いる三個小隊がリベレーターの直援に付き、ライトニング少佐の率いる残りの機はターゲットポイントへ向かう。ランダーを載せた輸送機は投下ポイントまで戦闘攻撃機が護衛に付いた。
ライトニングはコックピット内から自機の横に着く輸送機に呼び掛ける。
輸送機内でインカムを通しての輸送機のパイロットとランダーのパイロットにライトニングの声が入った。
{ 間もなく我々はターゲットへ先行し、対地攻撃を行う…宙兵隊の健闘を祈る!}
ライトニングは翼端を上下に振ると僚機と共に輸送機を離れた。
ライトニングはスロットルを前方へ押し込み速度を上げた。TX機関のエネルギーコンタクトを受けている機体はミサイルや誘導爆弾を満載しているにも拘らず軽々と速度を上げた。
(ひと昔前なら考えられない機動性だ…これがTX機関のエネルギーフィールドか…)
前面のレーダーモニターとヘルメットにマウントされたHMDが映し出すターゲットマークが明るく点滅し接近を知らせる “”プップップッ……”という音が聞こえた。
ライトニングは直ぐさま僚機へ指示を出した。
「全機散開、各自のターゲットを叩け、行くぞっ‼」
ライトニングは火器管制をAIオートに切り替えた。これにより接近したターゲットに対し撃ち損じることは無い。有効射程に入ればAIは兵装を自動選択しミサイルと誘導弾を発射投下する。