『指揮権の問題』
作戦の説明は超次元空間に及ぶ。この時、〈あまてらす〉の艦長、五十鈴一等宙佐はランドーにリベレーターの指揮権を自分に託すよう申し出る。それを聞いたランドーを初めとする下士官たちは其々に呟く。ロバートソンは提督として、指揮権を〈あまてらす〉の五十鈴艦長に託すようランドーに提言し、それは全員に受け入れられた、かの様に見えた。
新たな出撃に備え、乗組員の手で艦の最終チェックが行われる。
『指揮権の問題』
ランドーは五十鈴の方を向いて言った。
「超次元空間は高次干渉(量子の共振)から我々を守る、………通常空間での高次ジャマーやTXジャマーは………例えで言えば、描いた絵に落書きされない為に、絵の表面に薄いビニールで覆う様な感じだ………この解釈で、間違ってないですね。」
五十鈴は次のように答えた。
「概ね、その理解で間違いはありません。超次元は私たちの存在を書き換える事は出来ない、………言い方を変えると、超次元は存在を支える根本的な次元です、これは如何なる高次や物質次元の干渉も受付けません!但し………」、と五十鈴は言葉を止めた。
「人間自身が持ち込めば話は違ってきます!蟻塚も針の一穴で崩れる、と言う諺があります。例え、超次元空間に居たとしても、高次干渉と繋ぐような行為は絶対にしてはいけないっ!…………ランドー艦長、この作戦は慎重且、確実に行わなければ、我々もヴァンガードやアークロイヤルの様になります。〈あまてらす〉はSCV-01の動力では有りますが、それだけに留まりません、………ランドー艦長には本当に言いにくいのですが…………指揮権を私に託して頂けませんか…」、と五十鈴は言った。
ランドーはエッ、という顔をした。
「何故っ?! 貴方と私の共同艦長で良いのでは?」、とランドー。
「超次元作戦でリベレーターの出来ることは殆ど無いからです………航法も火器管制、動力管制も………既に〈あまてらす〉はリベレーターとのシステムリンクは完了しています。SAIとのイベントドリブンも同じく………」、五十鈴が言い終わらない内にフスター少佐が割って入った。
「火器管制もやる事が無いって、………我々は何をするんですかっ?!」、と少佐は不満をぶち撒けた。横に居た妹のマーベリット大尉が彼を制止した。
「兄さん、少佐、やめてください……」
「お前は黙れっ!」、と少佐は尚も毒づいた。
暫く、横で彼等の話を聴いていた私だったが、話が指揮権に及ぶと、他に収める者が居ないので、私は口を開いた。
「ランドー艦長、皆も………先ず、落ち着け。今回の作戦は通常空間で行うものじゃない。五十鈴艦長は自艦〈あまてらす〉で何度も防衛任務を熟している、私も運用オブザーバーとして、それを見ている、………私は彼女に任せようと思う。ランドー、艦長の意見はどうか?」
ランドーは腕を組み、俯いて暫く考えた後、顔を上げて答えた。
「リベレーターの任務は攻撃と、捕らわれたイギリス防空軍の艦の奪還です。もし攻撃だけなら本艦が現場へ行く理由は有りません…………、ロバートソン提督、私は貴方の提言を支持します。 が、攻撃を終えた後、現場での、イギリス防空軍の艦の回収の時は指揮権を私に戻して下さい。」
それを聞いた私は五十鈴艦長の方を向いた。彼女は頷いた……
「ウムッ、それでいい。他の者はどうだ?」、と私。
全員、私の意見に賛同したが、航法管制のイングリット大尉は内心、快く思ってはいなかった。これが後に重大な危機を招こうとは、ただ一人、五十鈴を除いて考えも及ばなかった。
各員、五十鈴艦長と握手を交わしたが、イングリットと握手をした五十鈴は高次意識で彼女の考えが分かった。
(彼女はイギリス防空軍の艦の奪還を、固く自身に誓っている………だけど、SCV-01の指揮権が私に移った事には相当な不満がある、………理由は……)
五十鈴は、その先を観る事に生理的な嫌悪感さえ覚えた。
(明らかなヘイト………人種差別!)
五十鈴はフゥーッと大きな溜め息を吐き、イングリット大尉に次の様に言った。
「大尉、昔の海軍の話だけど、私たちはイギリス海軍のネルソン提督に敬意を持っているわ。提督の遺髪の一部は、海自の呉潜水艦隊司令部に、今も大切に保管されているの。」
遠回しな五十鈴の言葉に対し、イングリットは、その意図に気が付かなかった。
「我が大英帝国海軍の魂は現在も続いています、新興の海軍とは違います!」、そう言って彼女は手を解いた。
(これは何か嫌な予感がする。………彼女から目を離してはいけないっ!)、と五十鈴は感じた。
「各員、発進準備に備えっ!基準時刻設定は明日、08:00より開始する。 各自散開!」、ランドーは発し、皆を退出させた。
◆
翌日より、艦の最終チェックが行われた。
SAIとリンクした作業用アンドロイドは既に規定の作業を完了し、待機用コンパートメントに格納され、後は通常運用アンドロイドと乗組員が配置に着いた。
〈あまてらす〉を用いた初期運用のため、乗組員は勤務シフトを問わず、各々の担当部所をチェックした。
…………………………………
ランドーと私は五十鈴艦長と共に〈あまてらす〉の最終チェックを行った。
〈あまてらす〉のブリッジに初めて入ったランドーは、あまりの狭さに驚くと同時に、艦体のコントロールが五十鈴一人によって行われている事を知ると、更に驚愕した。
「これは、コンセプトも技術もFFSPの艦とは違うっ!何という洗練された艦だっ!」、とランドー。
私は更に付け加えた。
「それだけじゃない、運用方法も画期的、と言って良い。………FFSPのコンセプトは地上の空母打撃群を宇宙に移したものだ、………戦術は技術革新で進化する、かつて、ウクライナ紛争や台湾戦争でドローンが戦闘の主軸になった時のように……」
私とランドーが話している間、五十鈴艦長は操作用ヘルメットを被り、自艦をチェックしていた。それが終わると彼女はランドーの方を向き、〈あまてらす〉がリベレーターと共に、超次元空間へ入ると、どのようになるか説明した。
「ランドー艦長、超次元空間に入れば、次元とコンタクトしている私以外、外の状況を知る事は出来ません。私はリベレーターの目と耳になります。唯一、状況の判断材料となるのは、次元波動の周波数です、………が、それを目で見ただけでは、人間の脳は理解出来ません。現次元以上の空間では、見る、聴く等の器官による二次的認知でない事は、時空機TR-3Dを操縦出来るランドー艦長なら解ると思います。」、と五十鈴。
「五十鈴さん、いや艦長。貴方が指揮権を託して欲しかったのは、その部分ですね。私と提督は理解していましたよ。」、とランドーは返した。
そこで、五十鈴艦長は最大の注意事項を私たちに語り始めた。
いよいよ、新生リベレーターが出撃発進します!




