「リベレーター出撃 ‼」
SCV-01リベレーターは全ての補給準備を終え、軌道ドック「しきしま」を出渠する。戦闘運用に於いて初めて超次元航行を実施する。CIC各科の管制員たちは緊張に汗をにじませる…
「リベレーター出撃 ‼」
{本艦は14:00時に軌道ドック「しきしま」より離脱する。各科配置に着け‼}
(急がないと…)
ジールは急いで自室へ戻ると戦闘用の気密服を纏った。
◆
CICでは当直以外の者も各科のエリアへ行き、発進の様子を見守った。主任士官、副官、そしてSAI(艦統括AI)によって作業を行うアンドロイドたち…
動力管制エリアのバートル中尉とマーク少尉は艦内エネルギー系統をチェックし終わった。
「TX機関及び熱核融合炉…艦内エネルギーライン正常…異常なし!」
続いて火器管制エリアのフスター大尉と少尉もチェックの報告をした。
「通常レーダー及び量子レーダーは起動中、SAR(合成開口レーダー)処理をメインモニターへ表示、TX系統、高次ソナー、索敵及び攻撃防御フィールド波発信準備よし、舷側重粒子砲出力ライン正常、AAM、AAG、巡航ミサイル、近接防御システム…セーフティー解除。航空団1個分隊、陸戦第一師団待機よし!」
航法管制エリアに就いている飛鳥大尉と副官の中島大尉も航行コースの最終チェックを行った。
「航法動力、TX機関へスイッチよし!緊急状況及び大気機動実施まで熱核エンジン、反応アイドリング状態を保持…コースTX機関による自動算定。超次元航行による目標地点入力よし!目標地点、火星北極点の高軌道上…高度600㎞。」
その状況を統括エリアから艦長のランドーと私は見下ろしていた。
「SAI、軌道ドックの管制室へ繋いでくれ」私はSAIに軌道ドック「しきしま」の林 稔二等宙将と繋ぐよう指示した。
直ぐ、モニターに林 稔二等宙将の姿が映った。
「いよいよだな、ロバートソン。どうだ、気分は?人類史上初の異星文明との戦闘は…こういったトリッキーな事はアメリカ人が得意だろうw」
私は皮肉を込めて彼に返した。
「それは君にそっくり返そうか…今回は奇襲攻撃だからな。アメリカ人は一発目は相手に撃たせるんだ、優しいからな。」
それを聞いた林二等宙将は吹いた。
「確かになw…上手くやってくれ!リベレーターはTX機関を搭載した最初で最強の艦だ。これで何か有ったら後が続かん。」
「リベレーターのニ番艦SCV-02(フリーダム)の建造は進んでいるのか?」と私は彼に聞いた。
「現在、地上で機動母艦「アトランティス」と並行して建造が進んでいる。重力場の制御技術がもっと早い段階で確立できていればリベレーターの建造期間も短縮できたのだが……リベレーターは最初の艦だけに問題も多い。」
「与えられた物で戦うしかない……そろそろ時間だ。そちらに任せる」
私はそう言うとモニターを閉じた。
「発進(射出)五分前、各科待機せよ!」
艦長のランドーは全艦内に通達した。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
軌道ドック「しきしま」の管制室ではリベレーターの射出シーケンスが開始された。
「リベレーターへのエネルギーライン及び搬入ベイ接続ロックアウト……パージッ!」
「ガントリーロック一次解除、二次はそのまま…リニアトラクティングシステム、起動準備よしっ‼」
「ドック前進スラスター起動!反動減衰速度に合わせ!…速度、プラス6%で固定」
「速度プラス6%……スラスター停止、速度固定よし!」
「射出準備完了!」
「リニアトラクティング起動と同時にガントリー二次解除……カウント、40、39、38…」
カウントが行なわれる中、林二等宙将は管制室の窓越しにリベレーターの方を向き敬礼する…
(ロバートソン…貴艦の健闘を祈る)
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リベレーターCICへ「しきしま」から電文が伝えられた。
{「しきしま」より入電。“貴艦ノ健闘ヲ祈ル” }SAIはCICへ伝えた。
私はSAIに発光信号で返信を送る様に指示した。
「了解した。貴艦に感謝する!」
「しきしま」の通信管制が発光信号を確認し林二等宙将へ伝えた。
(発光信号とはな…だが、この場に相応しい)
その間にもカウントは進んで行った。
「3、2、1、ブレイクアウェイ! リベレーター射出!」
発令と同時に二次ガントリーロックが解除され、リベレーター両舷に接しているリニアトラクティングシステムが起動し、リベレーターの進向方向へ直線の光の線を輝かせた。
リベレーターの巨大な艦体が滑るように出渠して行く。
「しきしま」の管制員たちは窓際に並んだ。専任管制員の号令と同時に全員が敬礼する。
「リベレーターへ全員敬礼!……帽振れぇーっ」
◆
リベレーターの艦体が軌道ドック「しきしま」から出たところで操縦航法管制の飛鳥大尉は両舷の主翼を展開させた。
艦体両舷には前後に熱核エンジンナセルが四つ、一つのナセルに二基装備されており、合計八基が在る。そのナセルには流れるようなウイングボディーの形状で巨大な翼が両舷合わせて四枚、長いウイングレットで前後の翼が繫がっている。
軌道ドック「しきしま」の入渠中は丁度、俯せの人が手足を下方へダランと下げたような状態だった。
「両舷主翼、展開……コンバットポジション、既定位置へ!」
主翼は既定位置まで持ち上がるとゴォーンッという音が艦内に伝わる。
「主翼、固定完了、各動力伝達系…異常なし!」そう言うと飛鳥大尉は操縦桿を前後左右に振る。
同時に巨大な翼面の推力制御フラップやエルロンはそれに反応し遅れることなく正常に動作した。
火器管制エリアのフスター大尉は索敵をTX機関へ切り替える。
「PAR動作停止…火器管制システム、TX機関へコネクト……TXソナー、索敵レンジ内、3次、高次とも敵性反応無し…TX機関ステルス展開。防御フィールド、レベル2展開…」
統括エリアで各管制エリアを見ていた艦長のランドーは当直以外の者をCICから出した。
「これより巡航に入る。当直要員以外は各エリアへ戻れ!」
フスター大尉の妹のマーベリット少尉は管制エリアを離れる際、片手を上げて兄のマーベリックへ言った。
「兄さん…頑張ってね!」
「任せろ!」
マーベリックはチラッと眼を向け、片手を上げて合図した。
{これより本艦は火星へのジャンプを行う、降下部隊はそのまま待機せよ!}とランドーは航空団と陸戦団へ通達した。
リベレーターは地球軌道を四分の一周したところで軌道を離脱した。
リベレーターはTX機関によるコース自動算定でジャンプポイントへ航行した。
「超次元航行突入まで15秒…」航法管制の飛鳥大尉は額から汗を垂らした。
公試運転で既に複数回に渡り超次元航行はテストされ、安全性は確認されているが、それは艦がまだ兵装を装備されていない所謂、艦体だけの空虚重量で行われている。公試運転はメーカーの専任作業員とSAIとコネクトした作業用アンドロイドだけ……もしかすると、という疑念は完全には払拭できなかった。
此処、CICに居る者と艦内の戦闘運用に携わる科員たちは公使運転には直接携わっていない。直接、それに携った者は艦長のランドーとTX機関操作員のエディ・スイングだけだった。
(頼むぞ、エディ…)
動力管制のバートル中尉は祈るように彼女の名前を心の中で呟いた。
「… 3、2、1 ブレイクナウッ ‼ 」
飛鳥大尉は叫んだ。その声はインカムを通じて全艦内に響いた。