『風早来門、行方不明になったはずのパイロット』
ロバートソンは日立宇宙工廠で統合機動宇宙軍作戦司令の山元葵一等宙将と対面しTR-3Dの回収を急ぐよう迫られる。
一方、ランドーは消滅した世界線では行方不明となった宇宙域戦術部隊のパイロット、風早来門三等空佐の接触の機会を伺っていた。何とか接触に成功したランドーは風早空佐の自宅で十二年前の出来事を探ろうとするが…………
『風早来門、行方不明になったはずのパイロット』
私は工廠内の官舎で工廠を訪れた作戦司令部の山元葵一等宙将と対面した。
「こうして、実際に対面するのは何年ぶりですかね、ロバートソン提督。」と山元は懐かしい表情で私に言った。
「FFSP(Space Strike Force Program : 宇宙打撃軍計画)が統合機動宇宙軍に再編されて以来だと記憶しています………実際、こうして改めて会うと司令はとても綺麗な方ですね。」と私は少し花を添えた。
それを聞いた山元は顔を崩した。
「後で奥さんに伝えておきましょうかw………まあ、冗談はその辺で。 先ずは火星と月の戦闘、ご苦労でした。〈あまてらす〉は如何でしたか?」と山元はロバートソンに尋ねた。
それを聞いたロバートソンはため息混じりに山元に答えた。
「あれはズルい、まるでポーカーでAのカードを隠し持っていたようじゃないですか。日本で言うところの後出しジャンケンです………」と私。
「提督、貴方がそこまで言うのは一応〈あまてらす〉は合格、という事ですね。」と山元は返した。
「合格なんてものじゃない!就役がもっと早ければリベレーターは出なくても良かったんじゃないですか?」
私の思いは複雑だった。現にリベレーターでは運用中に死傷者を出している。そして、〈あまてらす〉の性能は現在建造中のSCV-02(フリーダム)と建造計画に含まれている3番艦インデペンデントや機動母艦アトランティスにも改修を示唆する。
聴いた山元は少しきつい顔をした。
「提督、貴方らしくもないっ。これは就役時期の問題でSCV-01(リベレーター)はFFSPの流れで建造されたものです! 我々がしなければならない事は、それらをどう運用して行くかっ!、です。」
山元はロバートソンの言葉を聞いて不満を顕わにした。
「申し訳ありません、司令。運用中に亡くなった者を考えると、つい………(汗)」と私は自分の言葉を反省した。
山元司令は取り直すとエディ·スイングとTR-3D捜索の件を尋ねた。
「ランドー艦長が捜索に出ましたが、まだ報告は有りません。」と私。
「急がせなさいっ、政府とメーカーの間でトラブルが起きている。もし、機体の情報が第三国に渡るような事があればメーカーは機体の供給を停止する、とも言って来ている。 もし日本に降りていたらBRICS(ロシア連合)のSVR(対外情報庁)の動きも考えられる。」
◆
一方、ランドーは前の消滅した世界で行方不明になった宇宙域戦術部隊のパイロット、風早来門と接触する機会を伺っていた。直接、ベースに行けば彼に会えるが内容が内容なだけに場所を選ぶ必要があった。
彼は既にパイロットから退いており、基地内の仕事にシフトしている事は既に分かっている。しかし、いつも彼が帰って来る時間は安定しない。
「時間の読めない人物だな、毎回帰宅時間が違う………」
家の近くに車を止め監視衛星とリンクしているランドーに通信が割り込んできた。
{ランドー、ロバートソンだ。}
「提督、どうしましたか?」とランドー。
{ 捜索を急いでくれ、TR-3D喪失でメーカーと政府の間で問題が起きている、山元作戦司令から聞いた。それと他国のスパイには注意しろ!ここは日本だからな。}
「その事は承知しています。 あっ、帰って来たか………提督、通信を閉じます。」ランドーは通信を閉じ、ニューラリンクにより頭の中に映し出される監視映像に注意を向けた。
「今日は早い時間だ、足取りも確かだ(酔ってない)、よしっ、では行こう!」
ランドーは車を移動させ風早来門の家の前に来た。周囲は新興住宅地のようで道幅も広く綺麗に整えられていた。陽が沈んで周りの家の窓は電灯の灯りを映し出していた。
(綺麗な所だな………こんな風景を見たのは何年ぶりだろう。家庭………か。自分には関係ないな。しかし、)
呼鈴のボタンに手を持って行く彼は更に思った。
(巨大な宇宙艦の艦長が………このシチュエーションは合わないな)
ランドーか呼鈴のボタンを押すと中から声が有った。
中から年配の女性が出て来た。そしてランドーを見ると少し驚いた表情を見せた。
「風早来門三等空佐のお宅ですね。私はR・ランドーという者です。空佐とお取次ぎ願いたいのですが。」
ランドーがそう言うと女性は少し待って下さい、と言うと一旦中へ走り、再び出て来た。
ランドーは女性に伴われて奥の部屋へ通された。畳の間に台が有り上には夕食が並べられていた。風早来門はそこに居た。彼は直ぐに立ち上がり、ランドーに握手した。
「私を空佐で呼んだ所を見ると君は軍属かな?何処のベースかね。」と風早は言った。
この時、ランドーはどうしたものか、と考えた。
(恐らく日本では情報管制で末端の隊員は統合機動宇宙軍の存在は知らされていない…………階級は空佐であって“宙佐”ではない)
「私はR・ランドーです、三沢から来ました。実は空佐にお聞きしたい事が………」
ランドーがそう言いかけた時、襖をガラッと開けて小さな女の子が「ジイジィ〜ッ!」と言いながら来門の下半身にしがみついて来た。そして、ランドーが目に入ると首を傾げる仕草をし、近づいて次のように言った。
「せんそうダメ、みんななかよし!」
ランドーはその言葉にエッと驚いた。身なりは私服で言葉以外では軍人だと分からないはず、だった。
「これっ、果南失礼じゃないか!」と来門は女の子を叱った。
「ごめんなさいね、ランドーさん。」隣にいた風早空佐の奥さんであろう女性は女の子を連れて部屋を出ようとする。
ランドーと女の子はお互いに見えなくなるまで見つめ合った。ランドーは女の子の顔を何処かで………確かに見た、という感じがした。
(輝くようなプラチナブロンドの髪と紫色の瞳………日本人じゃない。)そう思ったランドーは風早空佐に尋ねた。
「お孫さん………ハーフですか?」
そう言うと来門は少し得意げな感じで答えた。
「私の孫だよ。息子の嫁はとても綺麗でね、何か分からないけど光に乗って来たんだよ。」
部屋に戻ってきた女性は来門の頭を軽く叩いた。
「ごめんなさいね、ランドーさん。うちの人、たまに妄想癖が出るんですよ。」
(パイロットで妄想癖が出てたら搭乗許可が下りないだろっ!)とランドーは訝しく思った。そうしている間に来門は一枚の写真をランドーに見せた。
「息子夫婦の写真だよ、嫁と孫は似てるだろう。」と来門。
ランドーは覗き込むように写真を確かめた。そして、写真の中の女性を見た時、写真を来門から取り目を細めて更に見入った。
(間違いないっ、これは月の者だっ!)
ランドーの視覚からニューラリンクチップのメモリーに記録されている、TSC-A(重機密通信)が解除された時の月のドローンオペレーションの映像が頭の中でイメージとして再現される。そして、それは100%の照合適合を示した。
(あの時の………月面基地に居た女性じゃないかっ!)
ランドーは写真を来門に返すと十二年前の事を聞いた。




