『〈あまてらす〉の超次元戦闘』
最新鋭艦〈あまてらす〉の艦長、五十鈴一等宙佐はロバートソンに今から実戦運用を見せると言い、慌てるロバートソン。
超次元空間に入った〈あまてらす〉は地球防空圏内で発見した敵性UFOに対し離脱勧告を行う。しかし、それを無視した為、3機の敵性UFOを破壊する。それは僅かな時間で行われた。その間、〈あまてらす〉の艦体はガントリーに接続されたままでロバートソンを更に混乱させる。
〈あまてらす〉の在る地下ドックから地上へ戻ったロバートソンは赤松三等宙将を交え昼食を摂る中、五十鈴一等宙佐が〈あまてらす〉について詳細を語る。
『〈あまてらす〉の超次元戦闘』
五十鈴一等宙佐は次のように私に問い掛けた。
「提督、この艦の公試運用は既に完了しています。実際に飛んでみますか?」
私はあまりに簡単な問い掛けに驚いた。小型とはいえ艦艇を出すには複雑なシーケンスを経なければならない。
「そんな簡単に艦を出せるのかね?! 緊急発進でも機関の始動から実際、動き出せるまで時間が掛かる!」私は思わず声を大きくした。
五十鈴宙佐は落ち着いて答えた。
「〈あまてらす〉は超次元を連続航行出来る艦です。それがどのようなものか今からお見せします。」そう言うと彼女はドックの管制AIとリンクし発信許可を得た。そして、特殊なヘルメットを装着すると両手を前方の感応スティックの上に被せた。コックピットの照明は薄暗い赤色になったがそれ以上、壁面には何かを映し出すようなものは無かった。
「〈あまてらす〉ドックエリアクリヤ!地上管制、超次元追尾システムコネクト………提督、飛びますよ!」
「待てっ!ドック内だぞ、時空機でも安全距離が必要………」言い終わらない内に彼女が私の言葉を遮った。
「ミッションによっては移動しなければなりませんが本艦はこのまま超次元空間へ入ります。」と五十鈴宙佐は前を向いたまま返した。
機関のエネルギーが高まっているのか、ビィイイイイイイーンンンッという低い重低音が次第に大きくなって行くのが分かった。
(もう、訳が分からないぞっ?!)私は少なからず不安を覚えた。
「ブレイク、ナウッ!」
五十鈴宙佐が発すると同時にさっきまでコックピットを包んでいた機関の音は消えた。
(何だっ、どうなったのだ?)と私は思った。
五十鈴宙佐は姿勢を変えることなく私に伝えた。
「提督、〈あまてらす〉は既に超次元空間に移行しています。申し訳ないのですが艦と同期している私以外、この状況は物理的にお伝えする事は出来ません。 これより第一次(火星圏)、第二次(月、地球圏)の防空哨戒に入ります。………高次元走査開始、第一次、第二次サイトON…………………第二次防空圏内に敵性UFO確認、種別並びに所属はケンタウリ、反銀河連合と確認。数、およそ三! 退去メッセージを発信………」
なんとも異様な光景だった。戦闘と言うより彼女が密室で独り言を呟いているようにさえ感じた。
暫く間が空いた。五十鈴宙佐は次のように発した。
「警告に従わない場合、船を破壊する!繰り返す、地球圏内より直ちに離脱せよ!………………敵性UFOから応答及び退去行動無し。これより自衛権を発動をする、ターゲットinサイト、ロック! 兵装、指向性破壊波動放射を選択、ファイヤッ!…………敵性UFO消滅確認。12:07ミッションコンプリート、RTB………」
その後、再び例の重低音がコックピットを包んだ。
“ブゥゥーンンンンーー”
音が低くなっているのが分かり、暫くして音は消えた。
「〈あまてらす〉主機停止。ドックよりエネルギーコンタクト、APS(Auxiliary Power System : 補助動力システム)そのまま。」そう言うと五十鈴宙佐はヘルメットを外し私の方を振り向いた。
「終った………のか?」と私。
「はい、これで終わりです。提督」彼女はニッコリ笑みを浮かべて返した。
◆
艦から降りた私は地上へ上る前にドック管制室を訪ね〈あまてらす〉の発進の状態を聞いた。管制員は〈あまてらす〉の監視映像記録を私に見せた。
そこで私が見たものはガントリーに接続されたままの〈あまてらす〉だった。
「動いてないじゃないかっ?! 五十鈴艦長、これは一体………」
狼狽する私を見て彼女はクスクスと笑い、私の手を取ると管制室から連れ出した。
地上へ上がったところで赤松三等宙将が私たちを迎え、工廠内に在る特待室へ案内し、そこで食事を摂った。
「どうでしたか、ロバートソン提督。」と赤松。
「何というか………不思議な感じです。〈あまてらす〉は本当に宇宙艦なのですか?」と私はさっき見たものにまだ確信が持てないような感じで答えた。
赤松三等宙将は横に居る五十鈴一等宙佐の方を向き説明を促した。
食事をしていた彼女はナイフとフォークを置くと私の方を見て説明を始めた。
「御一緒の時は説明が足りなかった事をお詫びします。〈あまてらす〉はSCV-01(リベレーター)の機関(TX機関)と同原理のものですが出力の仕方が基本的に違うのです。〈あまてらす〉の艦体は勿論、それ自体が機動性を有する物ですが超次元のゲートと考えた方が分かりやすいかも知れません。」
「しかし、艦は動いていない!」と私はまだ納得がいかなかった。
「ロバートソン提督、超次元空間は場所や時間の概念ではなくて、何処にいても一つで繋がっています。そのエネルギーの強度に依っては物理距離が必要になるかも知れませんが………〈あまてらす〉の特殊推進システム、動力源のオモヒカネはSCV-01(リベレーター)のTX機関のヒヒイロカネのように艦内部には有りません、艦体にコーティングされているのです。この力は外側と内側へ放射が可能です。」と五十鈴一等宙佐は語った。
「……………」私は黙った。
「………提督は自分の艦を残念に思っていますか?」
それを聞いた赤松三等宙将は立ち上がり、五十鈴一等宙佐に注意した。
「五十鈴、貴様、失礼な事を言うなっ!」
赤松の声は怒気を発していた。
「赤松宙将、五十鈴宙佐の言う通りだ。もし〈あまてらす〉のような戦い方が出来ればリベレーターでMIA(missing in action : 作戦行動中行方不明)やKIA(kield in action : 戦死)を出さなくて済んだんだ。」
私は自分の思いを確かめるように赤松に言った。
「赤松宙将、改めて貴国の技術の高さを知った思いだ。大変心強いと思っている。今後とも宜しくお願いする。」
そういって私は赤松宙将と互いに握手を交わした。
◆
府中基地の統合機動宇宙軍作戦司令部の山元 葵一等宙将が私を訪ねたのは、それから暫く経ってからだった。




