「月面攻撃と逃亡者」
TR-3Dにエディを搭乗させ月面基地を攻撃するランドー。しかし、月の裏側に在る敵基地の上空でUFOが立ちはだかる。ランドーは重粒子砲(Gravity Cannon)によりそれを撃破すると、次のターゲットに月面基地へ矛先を向ける。この時、エディはランドーの機体の前に自機を重ね、攻撃を妨害する。
攻撃に失敗したランドーはリベレータへ帰還するが、その途中でエディの搭乗するTR-3Dは高次元へと姿を消してしまう。
「月面攻撃と逃亡者」
「さあっ、こっちへ来るんだっ!」
エディはランドーに引っ張られてブリーフィングルームへ入った。
ブリーフィングルームにはライトニング少佐他、数名のパイロットが居たが黒いパイロットスーツの二人を見ると敬礼し、直ぐに部屋を出た。残ったのはライトニングだけだった。
「艦長、TR-3Dの整備発進準備は完了しました。この機体は殆どSAIによってアンドロイドが整備を行ったのですが大丈夫でしょうか?」とライトニングは少し心配そうに言う。
「この機体は全てAI自動工場で作られている、寧ろ人間の手が入らない方がいい。大丈夫だ」とランドーは答えると室内中央にホログラムで現在のリベレーターの位置とターゲットの月の裏側に在る敵の月面基地を浮かび上がらせた。
「攻撃は時計回りで行う。ターゲットには恐らく5秒も掛からないだろう…TR-3Dには固定武装の重粒子砲(超重力粒子砲:ブラックホール砲またはグラビティーカノン)が搭載されている。これは光子結晶金属や高エネルギー物体に対して有効だ。敵の態勢は高エネルギー体の大型UFOと “ Thing X ” の同意金属で造られたUFOだ。後者に関しては分からない部分もあるが他はTR-3Dで効果的に攻撃できるはずだ。 何か言う事は有るかっ?」とランドーはライトニングとエディに向かって言った。
「運用が初めてなので……バックアップ(電子戦機:SF-51Rブラックバード)は付けなくて良いですか?」とライトニング。
「速度差が違い過ぎる、TR-3Dだけで十分だ。 エディ、お前は何か言う事は…」とランドー。
「……… 」エディは黙った。ランドーはヘルメットのバイザー開放部を掴み引き寄せると次のように吐いた。
「反逆者の汚名を返上する機会を与えてやろうというのにっ…!」腹の底からひねり出すような声でランドーはエディに吐いた。
(私はもう二度とこの艦には戻らないっ ‼ )とエディは心の中で叫んだ。
横で見ていたライトニングはランドーの殺気に顔が青ざめて行った。
「よしっ、TR-3D出るぞっ!」ランドーはエディを引き摺りながらハンガーへ向かった。
◆
CICのモニターにランドーが映り、サブ画面にエディが映し出された。
「ランドー、TR-3Dを出すのかっ⁉ 攻撃許可は出していないぞっ!」と私はモニターに向かって叫んだ。
「提督、そのような悠長な事は言っていられないっ!この状況を招いたのは貴方の対応の遅さですっ! 私は出ますっ ‼ 」
「くっ……」最早、私には返す言葉が無かった。二機のTR-3Dはリベレーターを離艦し、少し離れた所で目の前から消えた。
「フスター大尉、TR-3Dを監視しろっ!QR(量子レーダー)で追えるかっ!」と私は火器管制に発した。
「イケます、両機ともレンジ内!……おかしい、TR-3Dの高次元飛行なら補足できないはずだが…」全球モニターに映し出されるレーダー反応を見ながらフスターは首を傾げ訝しがった。
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リベレーターを離れたランドーはTR-3Dを高次元飛行に移行しようとしたが次元の境界層に強力な妨害波動を見つけ出した。
「クソッ…無理に突っ込めない、先回りされていたかっ⁉ 高次元からの攻撃は出来ないが三次元空間でも十分な機動性を出すことが出来る……エディ、速度を上げるぞっ、付いて来いっ ‼ 」とランドーはエディに呼び掛けた。
パイロットとの同期で飛翔するTR-3Dは電光の如く月の裏側へ回り込んだ。
TR-3Dのセンサーは月面の基地と上空に滞空するスターシップクラスのUFOの存在を直接パイロットの思考へ送った。それはHMDの様にターゲットマークを表示するでもなく正確にその位置情報をパイロットの意志の中に組み込んだ。
「上空にいるUFOを攻撃する、続けっ ‼ 」とランドーは叫んだ。
ランドーの後ろに付いていたエディはハッと自分の意識に映るものが在った。
(あのUFOには志門が居るっ!)
エディはランドーの前に出ようとしたが遅すぎた。
UFOはTR-3Dの進行上に光の大きなシールドの様なものを展開したが、TR-3Dから発せられた重粒子砲のビームは容易くそれを貫いた。続けて放たれた数本の光線はUFOを何度も貫通した。
(志門っ‼ )エディは意識の中で叫んだ。
被弾したUFOはふらつきながらその光を弱め、船体の三分の一が本体から分離するのが見えた。
(脱出したっ、志門はあの中にいるっ!)
「破壊したぞっ!次は月面の基地だっ!」ランドーはTR-3Dの向きを変えると月面に向かって一気に降下を掛ける。重粒子砲を放とうとした瞬間、エディのTR-3Dが射線を塞いだ。
「何をするっ、どけぇっエディッ!」ランドーは叫びながらも射線を確保しようと更に高機動を繰り返した。それは、さながらハンドライトを手首で捻って照射ポイントを変えるような速さだった。
エディは必死になりながらも、自分の意識を志門へを送った。
“ 今のうちに逃げてっ ‼ 早くっ… ”
高機動を繰り返すTR-3D…その間、下に見える月面基地に変化が有った。直径約3㎞の巨大なドームは眩い光を放ち始めた、それは秒を追うごとに輝きを増した。
暫くの間、ランドーの攻撃を妨害するエディだったがランドーは僅かな機動の隙を突いて月面都市へ重粒子砲を放つ。しかし、ドームの回りには強力なシールドが展開しているのか、ビームは拡散し無効化されてしまった。
「ここまでかっ……クッ!」
これ以上の効果的な攻撃が無理である事を悟ったランドーは機動を止め、エディのTR-3Dと対峙した。
「リベレーターへ帰投する…」ランドーは無表情になり小さな声で言った。
TR-3D二機は通常の三次元基準飛行に切り替え、リベレーターを目指した。
「これで…我々には戦う術が失われた。」とランドーは脱力した感じで言った。
(……… )
「お前は何も言わないのか…酷いものだ。 お前は軍人じゃないから艦に帰って軍法会議に掛けられる事もないだろう…政府と開発企業の契約の中で裁かれることになる。 だがっ!」
ランドーがそう言っている間、エディは高次元の妨害波が消えた事に気が付いた。
「帰ったら私が処断してやるっ!」
(アクセレーションッ ‼ )
エディの乗ったTR-3Dは “ ブンッ ” という重力音と共に一瞬光を発し、ランドーの前から消えた。
「………………… 」
ランドーは何も言わず、ただ悔しさと悲しみが入り混じった表情を浮かべた。コックピットの外には月の裏側から出たのか、遥か遠くに地球が見えた。
◆
リベレーターCICではフスター大尉が月の裏側から出たTR-3Dを確認した。
「提督、TR-3Dを確認しましたっ!…一機だけですっ、エディ機確認できずっ!」
私はその報告を聞き、軍帽を深く被るとアドミラルシートに倒れ込むように腰を落した。




