「反逆者とTR-3D」
“ Thing X ” を月の潜入者に渡した事で艦長のランドーから激しい責めを受けるエディ。CICではロバートソンが火器管制科のフスター大尉の具申を受け、核兵装をオープンファイヤ状態へ移行しなければならない状態へ追い込まれる。
TX機関動力室ではエディに対する尋問が続くが口を閉ざすエディにランドーは腰のハンドガンを抜くと威嚇射撃を行う。その際にエディを庇おうとしたバートル中尉の肩を撃ち抜いてしまう。その場に崩れるバートル…
ランドーは航空隊のライトニング少佐にTR-3Dの発進準備を命令しエディを連れて準備を始める。
「反逆者とTR-3D」
ランドーは通話回線を切るとSAI(艦統括AI)を呼び出し、警報発令時の問題の有った艦内モニター映像を動力室のマルチモニターに映すよう命じた。この異常の発見は丁度、ランドーが艦内モニターにTXソナーのフィルターを掛けるよう命じた後だった。
「敵のUFOが一端、月の裏側へ移動した時には既に潜入者を送り込んで居たんだっ!」とランドーは言った。
問題のモニター映像が映し出された。
そこには “Thing X” を格納したカプセルの前に立つ一人の影の様な存在だった。その影は少ししてからTX機関動力監視コンソールの方を見ていた。マーベリット少尉は映像を戻すとエディーが動力室に入る様子が映っていた。
「室内にはエディと此の影だけのようです…映像を進めます。」とマーベリット少尉は言い、正体不明の影と台座に収められているヒヒイロカネを拡大して映し出した。
映像が進むにつれてヒヒイロカネは台座の中から消え、正体の分からない影の者の手に現れた。
「これは…テレポーテーションの能力! エディ、君なのかっ⁉」とシュミットは驚くように彼女を見た。
「………… 」エディは答えなかった。
艦長のランドーはSSG(Shipboard Security Guard)とシュミットを退室させ入口のエアロックを閉じた。
「どうなるか…分かってるんだろうな、向こうと何を話したっ!何かを取引したかっ!」ランドーは言葉でエディを威嚇したが尚も黙っていた。
「このポンコツが……」そう呟くとランドーの顔は暗くなった。そして腰のハンドガンを抜いて素早くエディの頭部右側に銃口を向けた。既にトリガーに指が掛かっていた。
“ バンッ ”
それは一瞬だった。バートル中尉がエディの前に飛び出した為、ランドーの撃った銃弾は彼の左肩を撃ち抜いた。軍服の破れた布と血煙を撒きながらその場に崩れるバートル――、瞬く間に彼の軍服は血で染まり、流れる血で床を濡らした。
直ぐ傍にいたマーベリット少尉は驚きで目を見開き身体が固まった。ランドーは銃をしまうと急いで彼に駆け寄り止血をしながらSAIに衛生兵を呼ぶよう指示した。
「バカ者がっ!なぜ飛び出したっ、これは威嚇射撃だっ‼ 」と彼の耳元で叫ぶランドーだった。エディは彼に近づこうとしたがランドーはエディを払い除け憎悪の目で彼女を睨んだ。
「お前のせいで…何人の人間が死ぬか、その目に焼き付けろっ!」
◆
CICでは艦長が戻るまで私が指揮に着いた。幸い月の表に出て来たUFOは再び月の影に隠れたが、警報を期にTX機関の動力系統はダウンしたままだった。
「フスター大尉、警戒はそのままっ!兵装を物理兵器に切り替えろっ、TX系統は恐らくダメだっ!」
「了解、全艦コンバットポジション、レベル1を維持っ!索敵探知系はPAR、QR(量子レーダー)を継続っ、 射撃管制室、物理系兵装を全て準備せよっ、巡航ミサイル、SSLBM、S‐AAM装具展開っ!」フスター大尉は管制室に指示を出すと私に聞いた。
「ミサイル核弾頭の準備をっ!」とフスター。
「ウッ……」私は一瞬迷った。
「急いで下さい提督、有効な戦術オプションは我々には残されていませんっ!」フスター大尉は既に叫んでいた。私は彼の具申を飲む以外に無かった。
「やむを得ん……核兵装、オープンファイヤの状態へ移行っ! 急ぎ巡航ミサイル、SSLBMの弾頭換装せよっ!」
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ランドーはバートル中尉の処置をマーベリット少尉に任せるとエディの手を引っ張ってセントラルデッキのステーションへ向かった。
ステーションへ入ると、そこに待機していたライトニング少佐にTR-3Dの発進準備を命じた。
「TR-3D ‼ しかし艦長、パイロットは航空団には…」ライトニングが言い終わる前にランドーは答えた。
「私とコイツだっ! 直ちに準備せよっ!」そう言うとランドーはエディを引きずるようにTR-3D専用のパイロット準備室へ進んだ。
室内のコンポーネントへ入ると特殊なパイロットスーツが用意されている。それは黒色で身体の各部位に機体とコネクト(同期)するためのニューラリンクシステムが付いていた。
ランドーは先ずエディにそれを着させ、次に自分も身に着けた。ニューラリンクシステムには体内電位を交換するための特殊な針が有り、エディは身体の痛みに顔を歪めた。
「お前を庇ったバートル中尉の痛みはこんなもんじゃない……いいかっ、私とお前は過去にTR-3Dの操縦適性を何回か行っている。操縦の仕方は覚えているな、忘れたとは言わせないぞ。お前の脳幹にはニューラリンクを行うためのチップが埋め込まれている。機体と同期すれば嫌でも思い出すだろう…」とランドーは言った。
◆
TR-3Dの専用ハンガーでは作業用アンドロイドが整備を進めていた。基本となるエネルギー源は他の戦闘攻撃機SF-51Gや制空戦闘爆撃機SSA-29Eファイヤーフライと同様のマイクロ融合炉だが、出力の仕方は従来の噴進式と大きく異なっていた。
作業アンドロイドに混じってライトニング少佐とハミルトン大尉は機体のコックピットや動力部を見て回った。
「コックピットには操縦桿やデジタルパネルの様なものは無い…これが人類史上初めての地球製UFOですか…」とハミルトンは言った。
「リバースエンジニアリングだ…それでも、まだ完全じゃない。操作する人間が機体に追いつかない…実用に漕ぎつけるまでテストパイロットが何人も亡くなった、と俺は聞いているが……こいつの最大の特徴は小型のサイクロトロンで発生した電磁気エネルギーを次元共鳴音響パルスに変換して機体自体を高次元化させることが出来る。 この機体は光速を超える……言わば時空機だ。」とライトニング。
「この機体のパイロットは我々航空団には知らされていませんね、少佐」とハミルトンはライトニングの方を向いて訝しがった。
「一応、機体を預かっているのは航空団だが……これは艦長とTX機関操作員エディ・スイングの専用機らしい…」ライトニングは腕を組んで俯いた。
ハミルトンは驚いた、空母の艦長は航空機のパイロットなのが定石ではある。しかし、艦長自ら航空機に乗る事は先ず無いからだった。
「艦長自らこれにっ? 艦長は普通の人間なんですかっ⁉」とハミルトン。
「どうだろう……人間もこの艦の乗組員の数では三分の二、残りはアンドロイドだからな…色んなものを掻き集めないと結局勝てないんだろう。そこに甲乙は付けていられない。」とライトニングは呟くように答えた。
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パイロットスーツを着込んだランドーはエディの手を引っ張ったが彼女は拒み彼の手を解いた。
「まだ反逆を重ねようというのかっ!」と凄むランドー。
「最後に中尉さんと話がしたい…」とエディはポツリと呟いた。ランドーはフゥ~ンッと言う顔をして入口にある艦内の通信チャンネルを開きメディックと繋いでバートルを呼んだ。
映像はSAIのリンクを通して看護アンドロイドの視覚でバートルを映し出した。横になったバートルの顔は青ざめて額に汗が浮き出ていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい、中尉さん。私のせいで…」エディの頬には気が付かない内に涙が流れていた。
{…気にしなくていいよ…そのパイロット服は……TR-3Dか? 気を付けて…あれは…}バートルがそう言い掛けたところでランドーはモニターを “ ブチッ ” と閉じた。
「その辺でいいだろう…今からブリーフィングを行う。」
そう言うとランドーはエディを引っ張ってパイロット準備室を出た。




