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機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第一部 [火星、月地球間軌道戦闘編 ]
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「月の潜入者」

リベレーターへ潜入した、この世界を創った者〈風早志門〉と意識感応で対話を行うTX機関操作員のエディ・スイング。彼との意識の対話の中でエディは “ Thing X ”(ヒヒイロカネ)を渡そうと決める。その時、彼女は志門に一つの誓約を求める。


CICではSAI(艦統合AI)が艦内の異常を検知し艦長のランドーと火器管制科のマーベリット少尉、動力管制科のバートル中尉は武装してTX機関動力室へ急行する。


「月の潜入者」




CICでは各科全員が次の動きに備えていた。



操縦航法管制の飛鳥大尉は中島大尉とアンドロイドに持ち場を任せると自室へ戻って行った。CIC内はやや落ち着いた雰囲気になって行ったが火器管制のマーベリット少尉はこの時間に或る事を考え艦長のランドーに自分の意見を具申してみた。


「何か?」とランドーは彼女に聞いた。


「はい…艦内のモニター映像にTXソナーのフィルタリングを掛けてはどうでしょうか。敵が進入した場合に量子ステルスを施していれば我々は気が付けません…月面のドローンオペレーションの時に得られたTXソナーの反射データ―ではUFOの内部構造を観ることが出来ました、艦内モニターの映像にも応用可能です。」とマーベリットは答えた。


「そのような事は聞いていなかったぞっ⁉ 何故もっと早く言わなかったっ、その時の処理をした画像を出せっ!」そう言うとランドーは火器管制の方へ走ると記録されている画像を覗き込んだ。


「これは反射データーからシグネチャーマッピングで合成処理を行ったものです。リアルタイムな画像であれば更に鮮明に映し出す事が…」マーベル少尉が言い終わらない内にランドーは艦内モニターの映像にTXソナーのフィルターを掛けるよう命じた。




   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥




TX機関動力室でエディは、この世界のベースを創った者の意識に注意していた。



(居る、彼はもう来ているっ!……彼はセントラルデッキだ……何かのステルスコーティングの様なもの? 見えなくなった…)


エディは更に深度を下げて彼の意識を観ると、やっと彼の存在を浮かび上がらせた。それは物理的な形というより意識としての形だった。




(彼はデッキ下方へ移動…通路を通って……今、動力室の前に居る!)



彼がエアロック(ドア)の前でずっと立っているのをエディは感じた。


(一体何をしているの?……あっ、そうか! 見えないけど勝手にドアを開けると入口を固めている歩哨に気付かれてしまうんだ )



エディは少し考えると椅子から立ち上がり動力室から出た。その時、彼女にはハッキリ彼の意識の形がドアの横に立っているのが見えた。エディは一瞬立ち止まり彼の方を向いた。そして、歩哨へ軽く敬礼をした後、自身の行動が不自然にならないよう、一端動力室から少し離れた自室へ戻った。






自室へ戻るとエディはベッドに腰を下ろし両手を組んで顔の前に持ってくると目を閉じて集中すると意識を彼へ向けた。


(彼は…09の方へ…裏側の方に回り込んだ、何をするつもり?……何かの装薬をバイオリキッドの循環チャンバーにっ!   あぁっ…ダメだ、09が停止する!)



エディは自室を飛び出すと再び動力室へ走った。彼女は入口の歩哨に目礼し動力室へ入った。そこにはヒヒイロカネ(“ Thing X ”)を格納したカプセルの前に彼の意識が立っていた。




エディは艦内モニターカメラに注意すると自分の存在を気付かれないよう、入口の近くの何時もシュミットが座っている監視オペレーターシートの影に身を潜めた。





エディは彼の意識に問いかけてみた。




(それが欲しいの?  貴方がヒヒイロカネを欲しがっているのは知っているから、これ以上機械は壊さないでっ!  貴方の名前を教えて)




エディの見ている意識の形は答えた。



[ 風早志門…]



(風早志門〈彼は日本人なのっ⁉〉……貴方の気持は理解している…貴方は自分の奥さんや知り合いの人達を地球へ連れ戻したがっている。あなた方の技術ならそれは簡単に出来るはず……一体何処から連れ戻そうとしているの?)




[ 霊(令)子世界……全てを支えている創造の淵源だ。僕たちはそこへ逃げる…君たちはもう追って来れない……その代償として、僕たちも二度とこの世界には戻れないんだっ!   だけど、このカインの剣の同位体が有れば往復できる……僕には地球に連れ戻さないといけない人が沢山いるんだっ!   お願いだっ、この同位体を譲って欲しいっ!]




それを聞いたエディは一つの条件を志門に提示した。


(もし、ヒヒイロカネを貴方に渡してしまえば地球は敵性異星人に対して力を失う事になる…その時にあなた方は私たちを護ってくれますか?)




エディの条件に対し志門は暫く沈黙したが意を決したように答えた。


[ 必ず護るっ、約束する! この世界は僕とミカの命で創ったんだっ ‼ ]




彼、志門の意識の奥にある深い決意にエディは同期し、大きく心を揺さぶられた…



(志門さん、これは今の世界を創ったあなた自身の誓約です。どうか私たち(地上の人間たち)を忘れないで下さい…争いはこれで終りになります)



彼女はそう言うとヒヒイロカネが格納されたカプセルのカバーを開くことなく、テレポーテーションの能力で直接それを志門の手に送った。



この時、艦内の照明が一瞬暗くなった。




      ◆




CICでは艦内モニターの映像にTXソナーのフィルターを掛け監視していた。ここでSAI(艦統括AI)が乗組員コードのない人影の発見確認と同時に艦内の異常な電圧低下を検知し、更には月の裏側に隠れていたUFOが表側へ出て来た為、全艦に警戒警報を響かせた。



SSG(Shipboard Security Guard)は直ちに武装し発見場所へ走った。CICでも銃火器保管庫が火器管制のフスター大尉によって開かれ、科員は各自武装した。



艦長のランドーと火器管制科マーベリット少尉、そして動力管制科のバートル中尉はハンドガンを取るとSAIが指示する場所へ急行した―――場所はTX機関動力室…



   ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



既にSSGは動力室に来ており、ランドー達はその者をかき分けてヒヒイロカネ(“Thing X” )を格納したカプセルへ駆け寄った。そこには……



「ウワァアアアアーッ ‼ ‼ ‼ 」 大声で叫び取り乱すランドー。マーベリット少尉とバートル中尉は最早、声さえ出なかった。“Thing X” は丸ごと消えていた。



ランドーは辺りを見回しエディの名前を叫んだ。



「エディッ、エディーッ ‼ 」ランドーはエディを見つけるとそこへ走った。エディはシュミットと一緒に監視オペレーターの操作卓の所に居た。




今にも殴り掛かりそうな勢いで迫るランドーをマーベリット少尉とバートル中尉は必至に押さえた。



「艦長、待ってくださいっ! モニターの画像を調べなければっ!」とマーベリット少尉は叫んだ。

ランドーは荒い息使いで入口のインターフォンへ走り、身体を震わせながらロバートソン提督を呼び出した。


「提督…今から言う事を落ち着いて聴いてください………“ Thing X ”が……奪われました」ランドーは自身の自制心を確かめるように報告した。




{なにっ⁉…何だとぉーっ‼ }艦内回線を通じてロバートソンの悲痛な叫び声が響いた。






このエピソードはSFローファンタジー作品『カインの使者』第二部とリンクしています。

◆第22章「終わりを告げる者」https://ncode.syosetu.com/n4402ex/33

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