「敵の目的」
戦闘の後、急ぎ実戦評価が行なわれた。そこでは各科の評価が示された。評価を終えた後、ロバートソンとランドーは敵が破壊行為に及ばなかった理由を考える。
動力管制のバートル中尉はTX機関動力室を訪れ、今回の戦闘で特に異常が無かったかを聞いた後、操作員のエディ・スイングに求愛を告白する。生まれて初めて異性の感情を理解するエディ…
提督室でランドーの報告を受けたロバートソンは今回の戦闘の敵の目的を洞察する。
「敵の目的」
月高軌道上における戦いが終わった後、ランドーは直ちに各科士官を作戦室へ招集し実戦評価を行った。
この評価は厳しいものだった…特に航空隊に関して敵UFOに対し、攻撃が無効化されてしまった事。TX機関のフィールドリンクが攻撃には役に立たず更にはTXジャマ―を一時的に弱めた事でUFOの動きを封殺できず攻撃の機会を失った事が挙げられた。
航空団を率いるライトニング少佐は憤った感じで艦長のランドーに意見を述べた。
「UFOが月の表側に出た時に何故TXジャマ―を弱めてしまったのですかっ!これによって戦闘機隊はUFOを捉えることが出来なかった……近くに待機させて置いた制空戦闘爆撃機ファイヤーフライ四機も敵の月面基地の攻撃のための戦術オプションだったのに本艦の直掩任務を負わされた。UFOが高機動で動き回っている状態で重装のファイヤーフライはまともに戦う事も出来なかったっ!CICの判断ミスではないのですかっ⁉」
いつもは冷静なライトニングは激しくCICを非難した。それに対しランドーは冷たく言い放った。
「場を弁えろっ、ライトニング少佐! 君の意見は聞いていないっ、ここで話す事に個人的な感情を持ち込むなっ!」とランドーは言った。
続いて火器管制のフスター大尉が自科の評価を行ったが、航空隊とは対照的に明るい顔をして次のように報告した。
「今回の戦闘では重粒子砲の有効性が確認できました。本砲は対異星人戦闘では初めての使用でした…TX防御フィールドによってUFOの動きを完全に止めた事も効果を上げた一因です。ただっ……防御フィールド最大の状態でもUFOのカミカゼ攻撃でフィールドを破られかけたのは今後の防御上の課題として残ります。」
続けてマーベリット少尉が探知系の評価を報告した。
「TXソナーは月面から飛来したUFOを捉えていましたが、超次空間から本艦へ接近した別のUFOは捉え切れていません。向うがTXソナーと同じ類のビーコン(異常波)を出していなければ、こちらでは探知できなかった…」
「対抗策はっ?」とランドーは聞いた。
「こちらも同位空間(超次元空間)に入っていなければ難しい…この場合、TX戦術オプションが有効に機能するかは前例がないので何とも言えません。」とマーベリットは答えた。
少し間を置いて、続けて操縦航法管制…
「戦闘時に於いて艦内には特筆すべき事は有りません。 しかし…実際には行われなかった、戦闘中の超次空間の展開は現在まで運用例が無いので試験的な実施が必要です。超次空間への移行は公試時でも長距離ジャンプにしか運用されていませんから…」と飛鳥、中島両大尉は述べた。
最後に動力管制のバートル中尉が報告した。
「TX機関から放射されるエネルギーは防御をベースとしてソナー、ジャマ―へ移行する訳ですが、この切り替えの時、機関に相当な負荷が発生します。操作系を考慮すれば急激な指向性、出力変化は極力避けた方が良いかも知れません…」
「運用制限か……」と苦々しい表情でランドーは呟くように答えた。
◆
各科の評価を終えた後、私とランドーが部屋に残り互いの意見を述べた。
「今回、これだけの激しい戦闘で損耗しなかったのは一応評価できるのではないかと思います。」とランドーは言った。
「一応…だな。機材や人員の喪失が無かった事がせめてもの慰めだろう……敵は最後のカミカゼ攻撃まで本気で攻撃していないように感じた。」と私。
「その辺りは敵に事情が有るのかも知れません。」とランドーは答えた。私はモニターに資料を映し出して異星人に関する部分を調べた。
「攻撃してこなかった…いや、出来なかった理由は彼等が銀河連合所属の異星人だった可能性が有るな。プレアデスやシリウス系の異星人だ、彼等は地球に対して物理的破壊行為は禁止されている。」と私は答えた。
「月面の異星人は彼等と組んでいる? と言う事ですか?」とランドーは訝しそうに聞いた。
「そう考えなければ、今回の戦闘は説明が付かない……だが、何故最後にカミカゼ攻撃のような事をしたのか…その理由を考えなければならん。」と私は彼に答えた。
「考えられる事は……月面上空から飛来したUFOは揺動で、本来の目的は超次元空間から接近したUFOに有ったのではないか……という推論が成り立ちます。彼等はTXソナーに似た波動を本艦へ向けて放射、その後は現場から居なくなっていますから…」とランドーは言った。
私は電子煙草を一本吹かして暫く考えた。
「TXソナー、…か。艦長、艦内のシステムに異常が出ていないか精査してくれ。これは何かある。」
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TX機関動力室でエディはカプセルから出て肺に溜まったコネクティングバイオリキッドを床のグレーチングに吐き出した。その後、併設されているシャワー乾燥室へ入り体に着いた液体を洗い流し、髪と身体を乾燥させた……クローゼットから新しい肌着と上着を着けると乾燥室から出た。
「どうだ、気分は?」とシュミットが言った。
「問題ありません」と彼女。
そんな中、動力室にバートル中尉が入って来た。
「ご苦労様です。」そう言うとバートルは二人に軽く敬礼した。
「何か? ああ、君はエディが好きなんだったなw」そう言ってシュミットは笑った。
バートルは少し顔を赤らめて次の事を話した。
「今回の戦闘で本艦は敵のUFOからTXソナーに似た波動の干渉を受けています。こちらではシステムに異常は無いですか?」とバートル。
「特に異常は確認できんな……エディ、何か気が付いた事は有るかね?」とシュミットはエディの方を向いて聞いた。
「あれはTXソナーと同じ指向性の波動です。この艦を調べてたのでしょう。破壊的な波動は感じなかった…」とエディは言った。
「ありがとう、エディ。艦長へ報告しておくよ…」そう言うとバートルは入口の壁に在る艦内インターフォンへ走り、CICへチャンネルを開いて報告した。
「動力室、特に異常なし。操作員のコメントではTXソナーと同じ指向性の波動だったようです……艦を調べていたのではないかと…」
{CIC、了解した…}
通話を終えたバートルはエディの方を向いた。何となく雰囲気を察したシュミットは「じゃあっ…」と一言残すと動力室を出て行った。
バートルはダダッと彼女に走り寄り、手をギュッと握った。
エディは思わず手を引いたが彼は手を離さなかった。
「君に会った時から…ずっと好きだったんだっ、お姉さんっ!」
「お姉さん?(私、中尉さんより若いんだけど…)」
エディは自分が作られてから初めて異性の感情というものを理解した。
「私……少し変わった人間だけど…私でいいの、中尉さん。」とエディは少し含羞んで見せた。
「もちろんっ!♥」そう言いバートルは彼女に迫った。
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提督室でランドーの報告を聞いた私は一人考えていた。
(奴らはこの艦を調べて一体何をするつもりなんだ…嫌な予感しかしない。この艦には彼等が採るものはないはずだ、なのに調べた……TX機関かっ‼ それしか考えられない! “Thing X” は彼等にとってもエキゾチックマテリアルなのかも知れない……これはマズい事だっ!)




