「“Thing X”(ヒヒイロカネ)」
TX機関動力室へ戻ったエディは “Thing X”(ヒヒイロカネ)との交感でエネルギーの流れを自身へ向ける。その中で月面の異星人の都市へ自分の意識を飛ばせるか試み、月面で確認した数人の者の意識を観る、その中に十二年前に現在の世界を創った男性が居るのを見つける。
月面に向けて飛翔するスターシップクラスのUFOをTXソナーで確認したCIC内は緊張した空気に包まれる。
「“Thing X”(ヒヒイロカネ)」
TX機関動力室へ戻ったシュミットは09のプログラムをエディがカプセルへ入った後の二義的コンタクトへプログラムを戻した後、動力室を出て用意されている自分の部屋へ戻りベッドで身体を休めた。
エディはカプセルに入るため衣類をすべて脱ぎ、全裸になるとカプセルに入った。カプセルのカバーは自動で閉鎖され、彼女の足元からは彼女と09、そして “Thing X” とコネクトするためのコネクティングバイオリキッド(生体接続情報伝達溶液)がカプセル内を満たしてゆく。彼女の鼻と口から僅かに気泡が出て行った。身体は液体で満たされ、必要な酸素も同時に供給された。
彼女は “Thing X” と同期すると目を瞑り意識を広げた。この時、彼女は自分の意識を “Thing X” によって広げているのではなく“Thing X” の力を自分の中に取り込むことにより、生体でそれを行う事が出来るようになっていた。当然、艦のCIC火器管制や動力管制には “Thing X” の出力として表示されなかった。
先にリベレーターが大気圏へ突っ込んだ時、何故 “Thing X” が自分に制御バイパスを開いたのか彼女は“Thing X”と 同期する中で問いかけた。
“ヒヒイロカネ、貴方はなぜ自分から私にコントロールを繋いだの…”
『貴女ノ身体デ私ヲ開放シテ欲シイカラ……私ノ意思ハ貴女ノ意思……私ト同ジ…』と“ヒヒイロカネはエディにイメージの言葉で語った。
“貴方は幸せかしら…”
『貴女ハ幸セカシラ…』 ヒヒイロカネは同じように言った。
エディはヒヒイロカネが自身の映しである事を確信した。今まで “Thing X” と同期する中で互いの意識が別々のものではなく、深いところで実は一つではないかとエディは感じるようになっていた。
エディは一つの試みを行った。
“もし、目に見えない意識の底流で全てが繫がっているなら……月の人達とも意識を繋げれるかも知れない…”
エディは月に意識を集中した。
暫くして青紫の映像が目の内側に写ると、それは次第に鮮明度を増し色の着いた映像となった。それでも、音声まではよく分からない……エディは月へ降りたUFOの中と搭乗員を探した。
UFOの中は金属だったが、何か自分と共鳴?しているのか空気が振動している感じがした。搭乗員は…居たっ! 何かが指し示している訳ではないが先のUFOと波動がとても近い事でそれが分かった。
エディはその者に問いかけたが反応はなかった。ただ一人を除いて…その者 (女性)は男性と一緒に貫頭衣の様なものを羽織っていて私の呼びかけに対し、僅かにンッ?といった感じで反応した。
エディは二人の周囲を注視した。周りには計測器の様なものが置かれていて…二人の横にある台にはヒヒイロカネと似たような…形ではなく、それが持つ本質の様なものがエディと共鳴した。その振動はとても強く、一瞬エディはウッ…となった。
“これは…出力型のヒヒイロカネ? この女性の意志が剣から大きく出力されている、私のヒヒイロカネとはエネルギーの方向が逆だ…”
エディは周りに者たちの意識を観た。
“この力を攻撃的に使おうという者は一人?以外は居ない…殆どの者がこの基地、いや都市の存続と平和を求めている……んっ、この男の人はっ⁉”
エディは貫頭衣の男性以外でもう一人の男性の意識を注意して観た。
“メガネは掛けてないけど眼は余り良くない、今は補正されているみたい…地球に家が在って子供もいる…この人の奥さんは……横に居るこの人だ!この男の人は月の女性と結婚したんだ………エッ、これはっ ‼ 十二年前に今、私たちが居る世界を作った人なのっ⁉ まさか…… ”
この時、エディは自身にへ意識を向けようとしている者を感じた。敵性は感じなかったが、この感覚は火星の戦闘で感じた高次の意識体、彼女は直ぐに意識を閉じた。
エディはカプセルの中でゆっくりと目を開いた…
(もう少しで、見つかる所だった…あれは……プレアデス?)
暫くしてシュミット博士が動力室へ入って来た。後ろに動力管制科のバートル中尉を伴っていた。
彼はシュミット博士と何か話しているようだったが、カプセルの中からは制御用の電気パルス以外のものは伝わらない。
シュミットは会話の中で笑っていた、何か面白い話でもしているのか…博士と私はこの艦にTX機関が搭載され、公試期間を終えた後からずっと中尉にお世話になっていた。彼はこうして時々、私たちの様子を見に来てくれる。それは彼がこの艦の動力管制を行っているからだ、と私は思っていた。
彼は私のカプセルに近づくと胸ポケットからメモ用紙を取り出し、ペンでメッセージを書いてくれた。そして、それを私の目の前に持ってきた。
[ いつもお疲れ様。君のお陰で、この艦の安全は保たれている、私は貴女に敬意を持っています。]
それを見せると彼はメモを裏返して別のメッセージを書き、自分の胸から両手でゆっくり突き出すように上目使いで私の前に持ってきた―――メッセージは次のようだった。
[ エディ、今度時間が合う時に付き合って欲しい ♥ ]
私はその内容にビックリして大きく口を開けると、体内に残っていた空気がゴボッと音を立てて出て行った。
(彼は私に求愛しているの…?)
私は彼の意識を観た。その思いは身体を貫くほどの熱い滾りだった。驚いた私は、彼に “もう少し待って…” と手振りで示した。
彼は少しガッカリした様子でカプセルを離れ、動力室を後にした。
暫く時間が経った後、“ビィイイイイイーッ” という電気パルスが伝わって来た。
(緊急事態! TX機関コンバットポジション ‼ )
◆
バートル中尉は急いでCICへ入った。動力管制エリアへ走りシートに座っていたマーク少尉に何が起きたか聞いた。
「何が有ったっ⁉」
「月面に向け、高エネルギー体UFO二機が月の裏側へ飛翔中! 火器管制連動でTX機関がコンバットポジションへ移行 ‼ 」
(これはプレアデスなのか…?)
火器管制エリアのマーベリック・フスター大尉がUFOの識別を統括エリアに居る艦長へ報告した。
「高エネルギー体、光子波動をTXソナーが検知。識別は不可っ!」
「大きさはどうか⁉」とランドーは聞いた。
「これは…地表近くで接敵した物より大きい、スターシップクラスと思われますっ!」とフスター大尉は答えた。
「これは何か動きが有るな……TXジャマ―、重粒子砲はコンバットポジション!」とランドーは発した。
「了解……重粒子砲射撃管制室へ、全砲門コンバットポジション!」とフスター。
動力管制のバートル中尉はTXジャマ―のコンバットポジションを指示し、それはTX機関動力室のエディにも伝わった。
TXエネルギーは “Thing X” へ蓄積され始めた。エネルギーは放射の程度により防御フィールド、ソナー、ジャマ―、そして最大の破壊効果を持つBS(ブレイクショット:指向性破壊波動放射)と段階的に分かれている。
エディはカプセル内からコネクティングバイオリキッド(生体接続情報伝達溶液)を経て “Thing X” へジャマ―の制御信号パルスを送った。
カプセルの中でエディは違和感を感じていた。
(ヒヒイロカネからのエネルギーの直接放射は破壊波しか生まない……この使い方は本来の使い方じゃないのかも知れない…)
〈SCV-01リベレーター乗組員の参照資料〉
● スタンリー・バートル中尉(動力管制)
● レオン・マーク少尉
動力管制オペレーター。リベレーターのTX機関及び通常推進機関である熱核融合推進システム、艦内エネルギー調整、並びにダメージコントロールを行う。
通常は SAI(艦の統合AIシステム)がそれら全般を行うが冗長性維持として動力系のオペレーターを配置している。二人はCIC管制に就いているが非常時の場合、航空団の現時空間戦闘機:3次元で機動可能なロケット戦闘攻撃機SF-51GムスタングⅡ、及び制空戦闘爆撃機SSA-29Eファイヤーフライに搭乗する事が許されている。*宇宙機の製作メーカーはノースロップグラマン、ボーイングエアロスペース…これら航空機(宇宙機)はアメリカ宇宙軍戦術科学工廠(SFTS)の主導で各メーカーによって開発される。
二人とも出身はミズーリ州。アメリカ空軍戦術士官学校で優秀な成績を残し、後にSSFPへ選出される。




