「時空の語り部」
提督室を訪れたシュミットとTX機関操作員のエディ・スイング。そこで彼女はロバートソンに世界の真実を語り出す…驚愕の事実を知るロバートソン。
ドローンオペレーションが終了した事を受けたロバートソンはCICへ戻ると艦長のランドーの他、火器管制員のフスター大尉、少尉に限り情報の暗号解除を許可する。
「時空の語り部」
私の前に進み出た彼女に次のように言った。
「地表近くで我々が接敵…いや遭遇したUFOについて君は何かを知っているのはないかと私は感じている。出来るだけの事を教えてもらいたいのだ。」
「言っても…誰も信じない。」エディは頑なな態度を示した。私はシュミット博士の方を見て尋ねた。
「彼女は貴方を信頼しているか?」と私は聞いた。
「私はTX機関開発と同時に彼女とも長い付き合いだ。この機関は普通の機械じゃない…人間が在って初めて力の発生が可能になる。お互いの信頼でここまで来たと…私は思っているがね。」とシュミットは言った。
「では、私も貴方がたの中に入れて欲しい。これは提督ではなく私個人としてだ。」そして次のように二人に言った。
「私はこの艦を艦長のランドーと共に任されている。多くの乗組員たちと敵性異星人に対して戦闘を行わなければならない事は分かって欲しい…我々には戦闘に際し、その根拠が必要なのだ。火星の時はそれがあった…しかし、エディ…君は我々に警告した。地表近くで遭遇したUFOには人間が乗っていたと、そして彼等が争いは好まないと…」
エディは椅子から腰を浮かし私に近づくと手を伸ばして私の手の甲に重ね、しばらく目を瞑った。
「暖かい…貴方にはテキサスに家があって家族もいる……いつも心の片隅に置いている……そして、その思いをこの艦と重ねているのが分かる。」そう言うと彼女は離れて椅子に付いた。
「心の中が…見えるのかね。確かに私の思いだ。テキサスの事はどうして分かったのだ?」と私は聞いた。
シュミットは立ち上がるとエディの後ろに付き、彼女の肩に手を置いて言った。
「提督、TX機関と彼女の事に付いて、この艦の者は余りに知らなさ過ぎる…TX機関は機械的なものじゃない、人の意志を “Thing X” によって具現化するものだ。空間の中に遍在するあらゆる情報を包括する事が出来る。勿論、提督、貴方の記憶もです。エディが “Thing X” と共鳴するため特別に生成されたのは貴方もご存知だと思います。」
「確かに…私やランドーの様な軍人はどうしても戦闘運用として物を見がちだ…そして、君の先の言葉で躓いた…いや、人間を思い出したのかも知れない…」
それを聞いたシュミットとエディは互いに顔を合わせると頷いた。
「提督、お話しましょう。私はTX機関の管理責任者として、この艦に乗ってはいますが飽くまでも一企業の人間で軍の行動には関与しなかった…しかし、今が関与すべき時だと思う。」とシュミット。
「感謝します、博士。」そう言い私は軍帽を脱ぎ頭を下げた。
私は機動宇宙軍本部から送られたデーターを机の上のモニターに映し出し、二人に見せた。
私はエディの方に向き直り、次の事を訪ねた。
「実際には起きていない十二年前の事象と現在の世界との繋がりに付いて、君が分かっている事を話して欲しい。それは我々が SSFP(Space Strike Force Program:宇宙打撃軍計画) を立ち上げた理由にもなっている……私個人の考えだが実際に起きていない事が重要視されるなら、この世界は別の世界と重なっていると考えている。私は科学者ではないのでうまく表現は出来ないが…」
エディは次のように答えた。
「貴方の考えている事は正しい……十二年前に起きた事象は確かにこの世界では無かった。だけど、その世界でリベレーターは月に進攻して彼等の月の都市を壊滅させた…それは酷い惨状でした。その戦闘の最中に彼等は一機のUFO?を発進させて超次元的な空間で私たちが持つ “Thing X” と同じ物を爆発させて――その後、その世界は…いえ、全ての世界が消えました。完全な消滅です…その消滅と引き換えに生成された世界がいま私たちが居る世界です。」とエディは答えた。
彼女の言った事を聞いた私は全身の毛が逆立つのを覚えた。
(艦内で起きた乗組員の悪夢は…そういう事だったのかっ!)と私は感じた。彼女は私の思いを察したように次のように言った。
「魂は波動で繋がっています…消滅した世界は断末魔の叫びです…私自身、その世界の事は余り触れたくない……だけど火星の戦闘のような事があるとどうしても、その時の魂の記憶が浮き上がって来る…」
(地球へ帰還する時にTX機関の様子がおかしくなったのはその為か…)と私は確信した。
「恐らく、軍総本部もその事を…タイムゲートチーム(時空戦部隊)の情報で知っているはずだ。だが何故、この世界でも彼等を追おうとしているんだ? SSFP まで立ち上げて…」私は考えた。
「この世界にも同じものが在ります。私たちが所有する “Thing X” と彼等も同じ物を現在所有しています。それは違う世界を消滅させた物とは別の物です…」と彼女。
彼女の話を聞いていた私は頭の中が混乱していた。
(一体……この世界の構造はどうなっている?)
「それはこの世界線の四年前に彼等、月のUFOが日本に来た時期と重なります。」とエディは言った。
「重なる?」と私は訝しんだ。
「十二年前の世界は消滅して新しく私たちの世界を作った訳ですが、その時に消えなかった世界が一つ残っていたんです。その世界には “Thing X” の同位体が存在し、その世界は私たちの居る世界と重なりました。今、その同位体は彼等が持っています……」
「彼等はまた世界を消滅させようと…」私が言い終わる前にエディが割って入った。
「それは大きな誤りです。彼等にその意思は有りませんっ! 一部の異星人(プレアデス系異星人)たちは何度もその事を政府に進言しています。これ以上、時空に干渉しないよう警告を出しているのも政府が彼等に対して疑念を深くさせないためです。」
「軍、いや政府は危険な芽を摘んで置きたいのだろう……しかし…」私は腕を組み、目を閉じた。
(そもそも彼等との対立は何が原因なのだ…?)
私を見たエディは答えた。
「争いの元凶となる事象が遥か昔に起きました……これは人間の創成期の話です。これを今持ち出しても現状を変えるのは難しいと私は感じます。それを変えれるのは現場にいる…提督、あなた方です。」
「ウゥ~ン……間もなく月面基地の詳細な情報が入ると思う。私は軍総本部を通じて彼等との交渉を勧めるつもりでいる。難しい話だが月面で陸戦隊を出す様な事は絶対に避けたい! 相手が人間なら尚更だ。」
エディと話しあいの中、CICから声が有った。
{CICランドーです。提督、ドローンオペレーション終了しましたっ!}
「了解した、そちらへ行く!」
私は二人に部屋で待つように言うと提督室を出てCICへ向かった。
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「どうだっ⁉」と私。
ランドーは全球モニターを指して説明した。
「ドローンは敵基地の周囲に散らばって、いま走査を終えました。月面の環境によって想定していた時間より早く終わってしまいましたが全機、敵基地のドーム外周に沿って情報を取得できたと思います。画像として確認できれば評価しやすいのですが…」とランドーは画像の確認を匂わせる発言をした。
私は暫くの間、腕を組んで立ち尽くした…
(エディから必要な事柄は聞けた。ドローンが走査した画像は彼女の発言を裏付けるものになるだろう…作戦司令部へデーターを送る前にランドーには見せておく必要があるか……後、火器管制員もだ。)
「艦長、このオペレーション情報は君と火器管制員であるフスター大尉、少尉に限り暗号の解除を許可する。暗号の解除キーコマンドは私が持っている、フスターを連れて私の部屋に来てくれ。」と私は彼に伝えた。
それを聞いたランドーは表情にこそ出さなかったが、日が差したように顔色が変わった。
〈SCV-01リベレーター乗組員の参照資料〉
●准将JC・ロバートソンの経歴
テキサス生まれ1990年、2008年(18歳)、空軍へ勤務、2019年(29歳)より宇宙軍へ移籍。軌道プラットホーム(機動空母リベレーター)SCV―01の指揮を任されたのが2026年。全く未知の新造艦のため、約8年もの公試期間が費やされる事となった。公試期間終了後、正式運用は2032年より開始。
性格は温厚で冷静。リベレーター艦長R・ランドーと特殊推力機関の操作に携るE・スウィングの出自を知る艦内では唯一の人。指揮系統の都合上、これらの事は秘匿されている。




