「謎のUFOとエディ・スイング」
機動宇宙軍作戦司令の山元一等宙将と通信を終えたロバートソンは自分の気持ちに整理が付かず、艦内通信チャンネルを開いてTX機関動力室に居るシュミットを呼び出す。一方、CICではドローンミッションの監視が続けられる中、大きく迂回しながら月の裏側へ入るUFOを確認した。引き続き対空警戒強化を指示する艦長のランドーは突然気分を崩しCIC後部の艦長室へ入る。メディックのS・マーティン軍医の診察を受けるランドー。
診察が終わり軍医と入れ違いで部屋に来たのは航法管制科の飛鳥大尉だった。
「謎のUFOとエディ・スイング」
「クソッ、何てことだっ ‼ 」
私は壁のグローブボックスへ走り、中から電子煙草のカートンを取り出すと包装を破いて一つを取り出すと残りを引き出しに放り込んだ。
電子煙草のカートリッジを加熱器に差し込もうとするが、私の手は震えて中々入らなかった。
「クソォーッ‼ 」私は叫ぶと加熱器とカートリッジを机の上にバンッと叩き付けた後、脱力したように椅子へ腰を落した。そして、机に肘を着き両手で頭を覆った。軍帽がずれて机の上に落ちた…
(未だかつて…このような事は…無かった…ソマリアや台湾でも…)
私は頭を上げるとスゥーッと深く呼吸をした。モニターを立ち上げると艦内の通信回線を開きTX機関の動力室と繋いだ。
「シュミット博士、TXソナーは09(人工生体脳AQB-09)と繋いだままでエディ・スイングを私の部屋に連れてきて欲しい……頼む。」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
CICの火器管制ではTXソナーが月の裏側へ回り込むUFOを捉えていた。
「UFO探知! TXソナーが異常反射をしています、地表で接触したタイプと同じものです!」とフスター大尉は艦長のランドーに報告した。フスターの横には既に次の当直のフスター少尉(妹)がサブシートに座り状況を確認していた。
「どこへ向かっている⁉」ランドーはエリアから身を乗り出した。
「恐らく、月の裏側の月面基地のようですっ!」と言うとフスター大尉は次を言った。
「ドローンからは重暗号通信のため画像は直接確認できません…」
「クソッ……」とランドーはエリアの手すりを握る手に力が入った。
「TXジャマ―を何時でも発信できるようにして措けっ、引き続き対空警戒を怠るなっ!」そう言うとランドーは後ろに下がりキャプテンシートに身体を落した。その時、半身を捩らせた…
(うっ…どうしたんだ…⁉ 身体の調子が……こんな時に…)
ランドーはフスター大尉とSAIへ自室へ戻る旨を伝えるとCICから出ようとしたが足がもつれた。丁度、エアロックが開いた時、当直へ向かっていた操縦航法管制の飛鳥大尉と鉢合わせ、彼女にもたれ掛かる形になった。コンパートメントから出て来た警護のアンドロイドは直ぐにランドーを支えた。
「艦長っ! 大丈夫ですかっ⁉」と飛鳥は心配そうにランドーを見るとSAIにメディックを呼ぶよう指示を出した。
CIC後方の艦長室でランドーと艦内衛生科のS・マーティン軍医(中佐)は椅子に掛けて向き合っていた。
一通りの手順でランドーを診たマーティンは診察器具の通信ソケットを机のモニターのモジュラージャックから抜いた。
「問題はない、ストレスです。まあ、あれだ……最近艦内がゴタついたからな……まともに睡眠は取れてますか?」とマーティンはランドーに聞いた。
「私が寝てたら話が進まないじゃないか。」とランドーは言った。
「話⁉ フフッ…アハハッ……」とマーティンは吹き出した。
「何か?」
「いえ、艦長は古典的なアメリカンヒーローみたいだなってw…まあ、それは置いといて、少しはSAI等に任せて体を休める時間を取って下さい。」
そう言い残してマーティン軍医は部屋を出て行った。入れ替わるように航法管制の飛鳥大尉が部屋の前に立っていた。
ドアの開いた入口の前で彼女はマーティンの方を見ていた。
「入れ、何か有ったか?」とランドーは彼女に聞いた。
飛鳥は部屋の中へ入り軽く敬礼をした後、ランドーに近づくと具合を聞いた。
「艦長、大丈夫ですか?」
ランドーはハァ?と言う顔をした。
「君の心配する事じゃない。私より艦に気を配ってくれ…エリアに戻れ、飛鳥大尉。」
飛鳥は前に歩み出て先ほどマーティン軍医が掛けていた椅子に腰を落としランドーと向き合った。
「航法士の私はこの艦を大切に思っています。それと同様に貴方の事も……」飛鳥はランドーの目をじっと見た。
「……………」
沈黙が部屋を包んだ。
◆
CICでは先に得られたTXソナー波を異常反射させていたUFOの分析をマーベリット・フスター少尉が行なっていた。
「画像は見れないけどモニターに映し出されたソナーの反射データーは記録から……よし、取り出せた❣」
前回TXソナーで得られた画像と、今回、月の裏側へ消え、更にドローンのTXソナーリンクで得られたUFOのTXソナー反射データーをデジタルマッピングで合成立体化した。
「シグネチャーマッピングでは完全に同一の機体…完全な楕円形。TXソナーの反射から推察できるのは他の異星人のUFOのように高エネルギー体ではない事。TXソナーを反射している事はTX機関動力源の “Thing X” の同位金属と考えられる… 重力変調の影響を受けないので機体の変形や分離はないようね…」
マーベリットは横に居る兄の方を向いて言った。
「それはもう分っている、何がしたいんだ?」と兄のマーベリックは言った。マーベリットはその画像にTXスキャンを掛けると言った。
「スキャン? 火星戦で使った奴か…ソナーの出力を上げれば構造体の中身も見ることは出来るが……マッピングの画像で可能なのか? そんなこと思い着かなかったな。」とマーベリックは訝しんだ。
「TXソナーは物体の探知だけじゃなくて “”本質” を捉えることが出来る…データー量は実際の時と比べて全然落ちるけど何かを映し出すかも…」とマーベリット。
そう言うと彼女は画像にTXソナーでフィルターを掛けボリュームを調整した。すると、画像が次第に透けて見え搭乗員らしいものが複数確認できた。
兄のマーベリックはパイロットシートから立ち上がり、横の妹の席を覗き込んだ。
「これは凄いなっ ‼ このUFOは金属の塊みたいだ、複雑な機構は一切見当たらない。良くやった、マーベル ‼ 」
この時、二人はUFOの内部構造に着目したが、搭乗している異星人らしきものは見過ごされた…
火器管制の隣に在る動力管制エリアのマーク少尉はフスター少尉に注意した。
「ソナーのエネルギーを分散して使わないでくれ! まだ、ドローンが動いている。途中でリンクが不安定になったらどうするんだっ!」
「すみません…」と謝るとマーベリットは直ぐにモニターへリンクしていたTXソナーの出力を切った。
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私の部屋には動力操作員のエディ・スイングとシュミット博士が来ていた。
エディは先ほどコネクティングバイオリキッド(生体接続情報伝達溶液)に満たされた操作カプセルから出たばかりなのか、髪の毛は十分に乾いていない……彼女の眼は暗かった。
「シュミット博士、機関の起動中に無理を言って申し訳ない。どうしても彼女の意見…いや、地表近くで遭遇したUFOについて知っている事があれば聞きたいのだ。」と私は言った。
シュミットは頷いた。
「それは構わないが、確証はない…それでも良いなら。」
「ありがとう、博士。ではエディ、君が感じた事、思った事を此処で全て話して欲しい…」
エディはシュミットの前に出て私と向き合った。私は誕生をランドーと同じくする彼女の顔を再度確かめた。年齢は何歳とは言えない不思議な感じで目の色は碧玉、髪の色はエメラルドグリーンを基調とした明るいシルバーがかった色だった。表情は育った環境が反映しているのかランドーとは対照的だ…
ランドーと同じ遺伝子を持つ、言わば双子の妹に当たる彼女はクローニングから一年を経ずに現在の身体に成長し、二十年近くをジェネラルバイオエレクトリック社でTX機関の研究に自からの身体を提供し続けてきた。
(妖艶…いや、そんな表現すら当てはまらない。人間離れした雰囲気だ…)
〈SCV-01リベレーター乗組員の参照資料〉
● マーベリック・フォスター大尉(火器管制)
マーベリット・フォスター少尉♀
フランス宇宙軍からSSFPへ参加。情報処理と火器管制のエキスパート。過去に大学では時空間理科学を専修している。