「ドローン」
ブラックバードによるドローン投下作戦は予定通り進んでいたがロバートソンは通信を重暗号通信へ切り替えを命じる。これによりドローンの走査画像の確認が出来なくなった艦長のランドーはロバートソンの指示に釈明を求める。
作戦終了までの時間、ロバートソンは提督室で自分の行った事に自問自答を繰り返し、遂には地球の宇宙機動軍作戦司令の山元 葵一等宙将へ通信チャンネルを開く…
「ドローン」
リベレーターから発進したブラックバードは月周回に入ると陰に入る前にリレーポッドを投下した。
「速度350kt、現在高度、500ft……グリッド1(通信リレー器)投下! 七分後に続けてグリッド2投下する。CIC、連携を確認せよ、送れ!」
{CICよりブラックバード、グリッド1リンク確認…RHAW(レーダー警戒受信)に注意せよ!}
「ラジャ、今のところ反応はない。オヴァ…」後席のボマー少尉はCICとの通信を一端切るとパイロット席に居るオブライエン中尉に呼び掛けた。
「CIC、グリッド1のリンク確認……中尉、奴らの防空体制はどうなってるんですかね? 前回同様で全く反撃が無い。」
「そんなこと知るもんかっ、言える事は、こっちの都合に良い、これだけだ……グリッド2、投下ポイントに近づくぞっ!」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
リベレーターCICはブラックバードの航跡を追い続けていた。
フスター大尉は全球モニターに映し出される予定コースを確認しながら、ミッションのプロセスをチェックして行く。
「ブラックバード、グリッド2投下………リンク確認!」それを確認すると後ろを振り向き、上のエリアに居るランドーに報告した。
「通信リンク形成完了、後はドローンだけです!」
ランドーはモニターを見ながら頷いた。後ろに居る私の方を振り返った…
「提督、順調に進んでいます、今のところ問題はないようです」とランドー。
私は「ウム…」と一言いうと頷いた。内心ではある種の不安で満たされていた。
以前にTX機関操作員であるエディ・スイングの言葉がどうしても脳裏から払拭できなかった。
(もし……彼等(敵)が “人間” ならどう戦えばいいのだ…)
私はランドーに通信をTSⅭ-A(重機密通信、レベルA)の暗号に切り替えるよう指示した。それを聞いたランドーはエッ?と言う顔をした。
「提督、我々は確認しなければなりませんっ!」とランドーは私の指示に釈明を求めたが、私は次のように返した。
「艦長、既に軍総本部から攻撃命令は出ている、しかし、この会敵は我々が人類で最初だ。慎重を期さねばならん!」私は語気が強めて彼に言った。
「……クソッ」ランドーは小声で呟くように吐くとフスター大尉に命じた。
「通信暗号化、TSC-A!」
それを聞いた全員がエッ、と言う顔をした。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
一方、ブラックバードでは通信の重暗号化を確認した。それを知ったボマー少尉はかなりガッカリした。
「初めて敵の顔が拝めると思ったのに…何でなんだっ、クソッ!」とボマー少尉はキャノピーを叩いた。
それに対し、オブライエン中尉は少尉に注意を促した。
「少尉、俺たちは任務を終えて帰る事が最大の目標だっ!通信が重暗号化されたのはCICの判断だ、お前が不満なら帰って艦長に言えっ! ドローンポッド、投下位置近いぞっ、高度を下げる!」
電子戦機SF-51Rブラックバードは極低空に侵入し、月のクレーターを縫うように飛行した。オブライエン中尉は月面に接近した為、操縦をAIオートに切り替えた。
「目標まで7㎞…高度75ft、対地速度下限速……ドローンポッド投下!」とオブライエン。
ブラックバードは月のクレーターの内周に沿って飛行し、ドローンポッドを投下した。HMDの合成開口画面で過行く下方でポッドのスラスターが起動するのが見えた。
ボマー少尉はポッドの月面降着を確認するとモニターでポッドのドローン格納ベイが開放されたか確認した。
「ポッド、月面へコンタクト、ドローン格納ベイ開放、SGD-A1(宇宙戦用陸上ドローン)AI起動確認!…ポッドより展開、グリッド2とリンク!」
「ラジャ、ボマー少尉、リベレーターへ信号送れっ!」とオブライエンはボマーへ発した。
「信号発信……CICよりRTSを受信!」とボマー。
「よしっ、RTS! 帰ったら盛大に打ち上げだ!」オブライエンは笑いながら言った。
◆
リベレーターCIC‥‥
「…ブラックバード、帰投します。ドローンとターゲットの距離、6,5km…推定到達時間は凡そ20分後です!」とフスター大尉は報告した。
「走査時間は?」
「TX機関のエネルギーリンクを受けて約20時間…と言ったところです。走査終了時には地雷として残ります。」
「重暗号通信のせいで、こちらから起爆が出来ないのは残念だ…」とランドーはチラッと私の方へ眼を向けて言った。
私はランドーに指揮を任せ、CIC後部の提督室へ戻った。
その後、部屋で自分の行った事が正しかったのか自問が続いていた。
(戦場に立つ者の目を奪ってしまったかもしれない……しかし、相手はTX機関と同等かそれ以上の運用技術を持っているとしたら…迂闊には手は出せない…何より彼等の正体が人間だとしたら…陸上戦闘は…恐らくパイロット無しでランダーを動かさざるを得ない状況を作ってしまう…いや、月面での戦闘自体を回避すべきか…)
私の頭の中は混乱していた。
(そもそも、人間の形に拘っているのか…火星の時は……ケンタウリ系異星人の地球奪略という根拠がハッキリしていた……! 今回の月の敵が過去にどのような事を行っていたかすら我々は知らないのだ。増して相手が人間なら、これは絶対に知らなければならない!)
私はSAIを呼び出して地球の作戦本部と通信チャンネルを繫げるか聞いた。
「SAI、地球の作戦司令部に繋げるか?」
{了解……地球軌道上の通信衛星を使用すれば可能です。但し、内容によってはレベル2の暗号通信に自動で切り替えます}
「承知した、機動宇宙軍の作戦司令、山元 葵一等宙将を呼び出してくれ。」
壁にモニターが映し出され、暫くして山元一等宙将が映った。地球時間では夜中だったのか山元一等宙将の顔には疲労の色が見て取れた。
{リベレーターの信号は定刻連絡で受け取っている……何か変化が有りましたか、准将?}
「我々は間もなく接敵します。軍総本部からリベレーターに送られてきた情報では不足している…もっと密度の高い情報が欲しい! 火星の戦いではケンタウリ系異星人の地球奪略という根拠(大義名分)で我々は動いた…しかし、今回はその根拠に乏しい。」
山元は暫く黙っていた。そして一言…
{軍人として有るまじき言動ですね…}そして次へ繋いだ。
{軍人は行けと言われれば行かなければならない…准将、貴方ともあろう方が何故、その様な事を今更いう訳ですか?}
「現在、ドローンで月面の敵基地を走査しています。間もなく敵の姿が確認できると思う。二十時間以内に入手した情報を重暗号通信TSC-Aでそちらへ送ります。それを見て私が出した要求を考えて欲しい。」
{分かった…考えて置きましょう}山元がそう言うと画像は消えた。
私はモニターを閉じると机の引き出しから電子煙草を取り出したがカートリッジは既に切らしていた。
「クソッ、何てことだっ!」