「ブラックバード」
月と地球の静止軌道上でリベレーターの修理が進められる中、TX機関トラブルの原因究明が行なわれる。GE(ジェネラルバイオエレクトリック社)のシュミットは暴走が起こらないようプログラムの変更を艦長のランドーに約束する。
艦体の修理が進む中、ランドーは索敵のため航空隊に電子戦機SF-51R、通称ブラックバード二機を月軌道に向けて発進させる。そこで得られたデータ―には敵性異星人の基地と思しきものが記録された。
ランドーから報告を受けたロバートソンは偵察に対し反撃の無かった事に疑問を持つ。
「ブラックバード」
艦内ではアンドロイドによる復旧作業と並行して、死亡者の宇宙葬が行なわれた。死亡者は厳密に言えば機関トラブルによる事故死だったが、トラブル経過の中、艦の戦闘行動を鑑み戦死者として扱われた。
宇宙葬は地上の海軍とは異なり遺体を艦の外に投棄せず艦内の保冷庫の一部区画を霊安室として使用された。主な理由は、そのまま宇宙空間に投棄すれば遺体は朽ちずに障害物として軌道に残り続けることが懸念されたからだった。
葬儀はSAIによって聖書の一節が読み上げられ、その後、弔銃が発射された。
その後、喪に服す間もなく乗組員たちは復旧作業へ戻った。CICでは順次修理の終わった索敵機器により周囲の監視が行なわれる中、今回の機関トラブルの原因についてGE社のシュミット博士、操作員のエディ・スイング、火器管制員のマーベリット・フスター少尉を交え精査究明が行なわれていた。
各持ち場で様々な意見が出された後、結論は次のようであった。
トラブルプロセスは先ず、軍総本部から送信された情報がデータリンクを介してSAIとTX機関で共有化され、その情報に基ずいて当該機関のサブシステムであったAQB-09は自律的にTX機関を起動、但しこの時はアイドリング状態だったが索敵システムのTXソナーは起動していた…その時、偶然にも地球低軌道に居るUFOを探知。二機の内、一機を共有化された情報と照合した結果、極めて敵性の強い存在と判断…この時点で艦統合AIとTX機関がシステム上位互換によりSAIがTX機関の下位に位置ずけられた。 結果、CICではSAIとのリンクでコントロールが出来なくなり操艦不能に陥った。
その後、AQB-09は情報強度を分析、強度選定を行った結果、ブレイクショット(指向性破壊波動放射)のシーケンスを起動。これにより艦のTXエネルギーは索敵のTXソナーを残しシャットダウン。防御フィールドを発生できなかった本艦は大気圏降下によるダメージを受けた。
また、ブレイクショット発射直前の状況について動力室に居たシュミット博士の陳述は次の様だった…
「TX機関とサブシステムAQB-09のエネルギー制御バイパスの解除と操作員との再接続はブレイクショットの発動に対し、AQB-09側に何らかの限界が有ったのかも知れない…AQB-09の異常発熱も視覚的にそれを示している、と言える。不可解なのは制御バイパスを操作員側へ切り替えたのが “誰なのか” という部分だ。」
続いて操作員エディ・スイングの陳述…
「操作カプセルに入ったのはTX機関が09によって起動された後でした。09の最大稼働時はコネクトが出来なかった……その後、機関の動力発生源である “Thing X” が私に制御バイパスを開いたのです。その時、私は驚きました…」
私はそれらの陳述を聞いた後、深く息を吐いた。そして、シュミット博士とエディ・スイングに次のように問うた。
「それは “Thing X” 自体が何らかの意思か志向性を持っているという事かね?」と私。
「考えられるのはそれしか残っていない…」とシュミットは呟いた。続けて次のように述べた――、
「AQB-09との制御を切ったのは機械的思考制御の09では “Thing X” が無理と〈判断した〉のだろう…勿論、それをこの場で立証する事は出来ないが。」
艦長のランドーは今後の対処について語った。
「AQB-09が勝手に機関を起動しないように制御プログラムを変更して頂きたい。でなければ次も同じ事が起きる…」
「分かった、操作員が “Thing X” に制御バイパスを開いていない時は起動させないようにして措く。」とシュミットは答えた。
時間を掛けた原因究明は終り、殆どの者が部屋を退出した後、エディが一人残ってランドーに次のように言った。
「あのUFOには人間が乗っている、戦ってはいけないっ!」
「どっちだ?UFOは二機いた…」とランドー。
「どっちも…彼等は争いを好まない。」
「そんな事が分かるのか、お前に⁉」とランドーは彼女を詰めた。
「私は感じるんです…」とエディは自分の発した表現に少し戸惑いを感じながら答えた。
「とてもスピリチュアルだな…」そう言うとランドーは大きな溜息を吐いた。
その後、再び部屋に戻って来たシュミットに手を引かれると彼女は部屋を出て行った。
「ポンコツめっ…」とランドーが呟くと私は机を手の平でバンッと叩いた。
「艦長っ ‼ 」私は思わず大きな声で彼に叫んだ。
◆
CICに戻ったマーベリットは自分の管制エリアへ戻った。隣では兄のマーベリックがアンドロイドと一緒にコンソールパネルを見ながら点検を行っていた。
「どうだった…」とマーベリックは作業をしながら聞いた。
「まあ…私のせいじゃなかったから少しホッとしている。」
それを聞いたマーベリックは振り向いて妹に忠告した。
「マーベルそれ、お前の悪いところだぞ……誰かの責任じゃなくて結果は共有し合うものだ。」
「…修理状況は、索敵はどうなっているの?」とマーベリットは話を逸らした。
「一応、完了した…索敵は艦長がブラックバード(SF-51R電子戦機)を航空隊に要請した。そろそろ月の周回軌道に入る頃だ。」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
艦長のランドーから電子戦機の発進を命じられたライトニング少佐はSF-51R電子戦機、通称ブラックバードを二機発艦させた。
本機は量子ステルスを機能させ反時計回りで月の周回に入り、途中TX機関のエネルギーフィールドのリンクを受けTXソナーで月面を走査する。
周回軌道に乗ったブラックバード二機は燃料(推進剤)の消費を抑えるため熱核エンジンをアイドリング状態にし慣性飛行を行った。月面からの高度、約100㎞…
「何も見えない…」と後席の電子管制員のD・ボマー少尉はパイロットの J・オブライエン中尉に伝えた。
「そろそろ真裏に回り込む。TXソナーの反応を見落とすな…リベレーターCICとのリンクは出来てるか?」とオブライエンは後席のボマーに言った。
「後方4700にデルタ2が付いて来ています。情報通信リンクでリベレーターと繋がっています…システムオールラジャ!」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
CICでは修復された全球モニターにデルタ1の走査映像が映し出されていた。
「現在、デルタ1は月赤道上、経度180を通過しようとしていますが何も確認できません。」と火器管制のフスター少尉(妹)は報告した。
「観測を続けよ、絶対に何かあるはずだ。反応を見逃すな!」とランドーは観測の継続を指示した。
モニターに経度が表示され180を過ぎようとした時、映像に変化があった。
「確認!……これは…直径約三キロの円形の構造物です‼ 映像クローズアップします」そう言うとフスター少尉はその部分を選択マークで囲い最大ズームで映し出した。
映し出されたものはソナーの反射で詳細は確認できなかったが形状は巨大なドームと推定された。
「TXソナーが透過しない……地表で攻撃した時のUFOと同じ材質なのか⁉ よしっ、良くやった。直ちにブラックバードにRTSサイン(Return To ship:帰投)を送れ!」
◆
二機のブラックバードが艦に帰投した後、ランドーは提督の部屋を訪ね、月面の偵察結果を報告した。
私はモニターに写っている映像を確認したが何か腑に落ちなかった。
「確かに何か在る…が、気になる点がある……何故、反撃してこなかったのだろう?」と私は映像を見ながら呟いた。
「敵の防空態勢が整ってなかったのでは?」とランドーは言った。
私は腕を組むとしばらく考えた…
「敵は我々と同じ、“Thing X” の同位体金属を使っている。地表近くでブレイクショットを撃った時に何故反撃してこなかったんだ………私の推論だが敵は攻撃性の武器を持っていないか、或いは積んでいなかったのではないか…」
これに対しランドーは薄笑いを浮かべて次のように言った。
「提督は敵のUFOが探査船か何か、とでも言いたいのですかw」
※このエピソードで最後にロバートソンが言及したUFOはSFローファンタジー作品『カインの使者』に登場する円盤で次元探査船です。
『カインの使者』:https://ncode.syosetu.com/n4402ex/
作者 天野 了