「ブレイクショット」
システム暴走により、高速で大気圏降下を余儀なくされたリベレーター。多大な損害を出す中、艦体のコントロールを取り戻したCICはTXソナーで捉えたUFO二機に対し、BS(ブレイクショット:指向性破壊波動放射)を初めて実戦で使用する。
地球、月間の高静止軌道上に移動したリベレーターは艦体の修理を進める。被害状況のデータ―を確認するロバートソンは、その酷さに口を閉ざすが艦長のランドーは艦の継戦能力が失われていない事を強調する。
「ブレイクショット」
艦内の各ステーションでは防熱処置の作業に追われた。一分を争う緊急事態だった…各ステーションに於いて確認の言葉が飛び交い管制員はCICへ状況を伝えた。
「艦内、隔壁全閉鎖!冷却材循環最大!」
「アンドロイドはデッキより退避、二次エアロックまで走れ!」
{待てっ、搬入ベイ、解放されたままだ!外郭閉鎖できない、ボーディングブリッジの残骸の撤去を急げっ‼ }
“{CICより全艦、 間もなく本艦は大気圏に突入する、総員衝撃に備えっ‼ }”
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「‥‥繰り返す、衝撃に備えよっ‼」ランドーは艦内へ発した。
「アブレーション、フィルム冷却システム起動、艦首冷却材放出穴開口……艦体防熱処理準備完了!」と動力管制のマーク少尉が発した。
操縦航法管制の飛鳥大尉は制動システムは全開のまま、操縦桿はアップトリム最大で固定した。
「進入角度20…対気速度……」と言い掛けて、中島大尉は顔を歪め、続けて発した。
「対気速度、14㎞/sec (50000㎞/h) !」中島は額から汗を垂らした。
(対気速度が早過ぎる…これはマズいかも…)
飛鳥大尉は高度をカウントした。
「現在、高度750㎞、…500㎞まで68sec …」
各科管制員はコンソールに身を潜めるように、ただ沈黙した。しかし…
緊張と沈黙を破るように火器管制のフスター大尉がTX機関の異常動作に声を発した。
「TX機関、ブレイクショット(指向性破壊波動放射)シーケンスへ移行 ‼ 前方のUFO二機に ターゲットロック!」
ランドーの後ろのアドミラルシートに身を沈めていた私は思わず半身を起こした。そして、動力室のシュミットを呼び出す。
「シュミット博士!まだ、操作員と09のコネクトは出来ないかっ⁉」
{09が最大稼働状態だ!この状態ではコネクトできないっ!}とシュミットは悲痛な声で叫んだ。
次の瞬間、艦体は何かがぶつかったような大きな衝撃を発し、CICを揺さぶった。
「ウァッ… ‼ 」と私は意図せず声を発した。
「大気圏突入 ‼ 」と飛鳥大尉の声が響いた。
CICは船が波にぶつかるように揺さぶられ全球モニターの映像がダウンし照明が非常灯へ切り替わる。
「艦外MC(モニター画像機)機能喪失! 合成開口画面ダウン ‼ ……計器確認へ移行するっ!」と中島大尉。
動力管制のバートル中尉はダメージを叫ぶように報告した。
「艦体外郭温度、2700℃…尚も上昇中 ‼ 冷却間に合わないっ!艦首、主翼前縁高温度、限界超えます‼ 艦外郭に熱損壊多数…セントラルデッキ艦首シャッター損傷、デッキ内温度上昇!」
CIC内にアラートが反響する。
「地上最接近点、高度6000…現在、ベーリング海上空、最接近点は日本上空です ‼ 」コンソールに顔を着けるように飛鳥大尉が言った。
各科員が声を上げる中、ランドーはキャプテンシートに身を沈めていた。
(出来る事はやった…後はTX機関の暴走が収まるのを待つしかないのか…)
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
一方、TX機関の動力室では人工生体脳(AQB-09)が発熱を起こしカプセル内は温度が上昇、循環液には気泡が発生していた。
「循環液のクーリングが間に合わない程の発熱…09はもう限界を超えている……んっ?」シュミットはモニターでエネルギーの循環を監視している時, “Thing X” のエネルギーの偏りを確認した。
「エネルギーの循環が弱まっている!…エネルギーが “Thig X” に集中保持したままだっ⁉ これは…09の制御バイパスが閉じられていく…!」
次に“Thin X” と操作員エディ・スイングとのバイパスが開放されると操作カプセル内で液体に浸かったエディの身体はビクンッと痙攣した。シュミットは “Thin X” が格納された台座へ振り向いた時、異常な光が広がって行くのを見た。
それは台座を透過し動力室の壁を突き抜けた。
「これは…ブレイクショットかっ ‼ 」公試記録を思い出したシュミットは思わず叫んだ。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
リベレーターに大きな減速Gが掛かった。大きな岩にでもぶつかったような衝撃がCICを襲った。
シート前方に身体を押された航法管制の飛鳥大尉は反射的に操縦桿の最大アップトリムロックを解除し、制動モーターと熱核推力のリバースを調整した。
「艦長ぉ!コントロール回復しましたっ‼ 減速可能です!」と飛鳥大尉は後ろを見て叫んだ。
「何っ⁉ SAIは回復したかっ?火器管制、コントロールはっ?」とランドー。
「TX機関動力コントロール回復っ! 防御シールドを展開する!……あれっ?、」とフスター大尉。
「大尉、TXソナー以外はコントロールできないっ! ブレイクショットシーケンスは続いているっ!」と隣にいる妹のフスター少尉が発した。
この時、明るい光の様なものがCICを透過した。
ランドーは動力管制のバートルにTX機関のエネルギー状態を確認させた。
「TXエネルギー高密度塊、動力室から艦外へ拡大していますっ‼ 」とバートル。
「ターゲットの距離はっ⁉」とランドー。
フスター少尉はTXソナーを確認した。
「もう目の前です、ターゲットに動き…」少尉が言い終わる前にランドーはブレイクショットの指示を出した。
「BS、ファイヤッ(放てっ)‼ 」とランドーは叫ぶ。
リベレーター艦首前方に集中した光の壁は拡散するようにターゲットへ向けて放射された。距離、僅か2.5km‥‥ターゲットの二機のUFOはTXソナーレンジから消えたがそれ以外は確認できなかった。
◆
減速に成功したリベレーターは大気圏を越え、再び宇宙空間へ出た。しかし、戻るべき軌道ドック「しきしま」もリベレーターの暴走、出渠で相当な被害が出ていた為、更に高軌道上に艦を進めるしかなかった。
統合機動宇宙軍の宇宙艦は殆どが地上で建造された小型艦でリベレーターを収容できるだけの大型の艦は「しきしま」以外には無かった。
地球、月間の静止軌道でリベレーターは損傷個所の修理をしなければならなかった…
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
私は自分の部屋でダメージコントロールから送られたデーターに目を通していた。
「艦体外郭に35箇所の熱損壊、艦首デッキシャッター熱損壊により開穴、艦橋PAR、QR、QCCS、…物理系の索敵及び通信システムは壊滅的状況か。 格納デッキは戦闘攻撃機SF-51、4機がアスレティングワイヤー(固定索)切断でクラッシュ……」
その後に目を通した時、私は大きな溜息を吐かざるを得なかった。
「デッキ作業アンドロイド他16体喪失…負傷者25名、行方不明者2名……そして…」
私は引き出しから電子煙草を取り出し、深く吹かした。
「死者…確認できた者だけで13名…」
(戦う前から我々は負けている…)私は心の中で呟いた。
ドアの外でランドーの声が聞こえた。
{ランドーです、提督}
「入り給えっ!」
室内へ入ったランドーは軍帽を脱ぎ敬礼した。私は彼に用件は聞かなかった、恐らく追加の損傷個所を報告しに来たのだろう…
「艦の具合はどうか?」と私は彼に聞いた。
「現在、必要箇所に絞って修理を行っています。完全な復旧はドックか地上でなければ不可能です」
「不可能か…フフフッ」私は思わず笑った。
「提督?」とランドーは訝しがる。
「すまない、君の口から不可能という言葉が出たものでな、つい…」
それを聞いたランドーは進み出て私と顔を合わせると次のように言った。
「本艦の継戦能力は失われていませんっ!」
※今回のエピソードに対応するSFローファンタジー作品『カインの使者』はEp:22 カインの使者第二章「アベルの攻撃」にその時の状況が描かれています。https://ncode.syosetu.com/n4402ex/22
両方の物語をお楽しみ下さい。
作者 天野 了