「システム暴走!」
突然警報を発したリベレーター。軍本部からデータリンクを介して入力された情報により、人工生体脳AQB-09は自動でTX機関を起動させる。CICは艦の操作系を完全に切り離され、各科員は復旧と手動への切り替えを試みる。
火器管制のTXソナーの画面には二機のUFOが確認され、その内一機がTXソナー波に異常反射している事、また艦がそれを追っている事を火器管制のフスター大尉は艦長のランドーに伝える。
TX機関により動き出したリベレーターは軌道ドック「しきしま」の係留ラインを破壊しながら離脱し、進行方向のベクトルを地球の地平線へ合わせる…
「システム暴走!」
統括エリアには既にランドーの姿があり、私は叫んだ!
「何事かっ⁉」
「火器管制、TX高次ソナーに異常反応!TX機関に異常が出ていますっ ‼ 」とランドー。
「何っ⁉、ドック内だぞ! 誰かTX機関を動かしたか、マーク少尉、動力室を…」私が言い終わらない内にモニターにシュミットの姿が映った。
{CIC、何が有ったっ⁈ TX機関が勝手に動き出している!そちらで操作したかっ?}とシュミット。
「こちらでは操作していない、今どういう状況かっ?」と艦長のランドーはシュミットに向かって叫んだ。
{今、制御バイパスを調べている……! 新しい情報をデータリンクで繋いだな! こいつだっ‼ 09が自律的にTX機関を起動させた!}とシュミット。
「操作員が制御できないのかっ⁉」と私は呼びかけた。
{クソォ…タイミングが悪い!今、カプセルに入った所だ。09は操作員不在を認識してデータリンクの情報に基づいて自発的に機関を起動させた。一体、どういったデータ―なんだ……この状態では操作員と09のコネクトには時間が掛かる!}シュミットは悲痛な声で言った。
危険を感じたランドーは動力管制のレオン・マーク少尉に艦全ての動力系ラインを切るように指示したが…遅かった。
「ダメですっ!操作系応答なしっ ‼ 」マーク少尉は艦の統合AIであるSAIを呼び出そうとした。
「SAI、SAI 応答しろ! クッ……ダメだっ!ランドー艦長、艦のシステムが乗っ取られています ‼ 」マーク少尉は青ざめた顔でランドーに報告した。
(システムの上位互換か…クソッ!)
状況を察したランドーは急いで各管制エリアに対しシステムをチェックさせたが、全てのコントロールはシャットダウンしていた。
操縦航法管制の中島大尉が声を発した!
「TX機関、推力を発生させようとしています、艦体が動き出します ‼ 」
「しきしまと通信は可能かっ⁉」とランドー。
「通信系ダウン!」と中島は返した。ランドーは直ぐに発光信号でモールスを打つように命じた。
‥‥‥‥‥‥‥‥
「しきしま」CICはリベレーターの発光信号を確認した。管制員は直ちに林稔二等宙将に報告した。
“ 直チニ本艦トノ接続ヲ解除サレタシ、本艦ハ制御ヲ喪失セリ、間モナク動キ出ス ! ”
これを聞いた林は直ちに搬入ベイとエネルギーラインをロックアウト、パージさせようとしたが、その時、ドックにズシンッ、と鈍い振動が伝わるのを感じた。
林は反射的にCICの窓から見えるリベレーターの方を向いた。
「引きずられるぞっ! ガントリー非常解除だ、急げっ‼」と林は管制員に叫んだ。
「全ガントリー、非常解除っ!」と管制員。
同時に全てのガントリーのロックシャフトが爆発ボルトによって外され、その振動はCICに伝わった。
CICの外に見えるリベレーターはパージが完了していない搬入ベイやエネルギーラインを圧し潰し、引き千切りながらドック内を前進した。
「ダメコン(ダメージコントロール)、被害状況報告急げぇっ ‼ 」林は既に喚いていた。
◆
リベレーター艦内は騒然となった。当直を離れていた士官たちも其々のエリアに走り緊急対応を行う。
特に酷かったのは搬入ベイの接続部でエアロックが開放したまま艦が動いてしまった為、艦内の大気圧は急激に減圧しつつあった。デッキステーションでは数えきれないほどの警告表示が発され、作業用アンドロイドはSAIリンクが切れた後、自律AIに切り替え復旧に当たったがSAIの統括を失った事で作業効率は大幅に低下した。
リベレーターはエネルギーラインや搬入ベイ等の残骸を撒き散らしながら「しきしま」を離れた。
CICでは艦体のコントロールだけでも取り戻そうと、動力管制と操縦航法管制の科員が機器と格闘していた。
「本艦は何処へ向かっているんだっ⁉」とランドーが叫ぶと火器管制のマーベリット・フスター少尉は高次ソナーのモニターに表示されている奇妙な反射波を指摘した。
「高次ソナー(次元包括レーダー)に異常反射を確認!本艦はそれを追っていますっ ‼ 」
フスター少尉は続けて報告した。
「UFO二機確認、内一機はソナーの異常反射を起こしています!」
ランドーは火器管制エリアに走りモニターを確認した。UFOの一機はソナー波の透過で高エネルギータイプと分かったが、残る一機は高次ソナー波の異常反射を示していた。
「こいつはTXの同位体で出来ているのか…高次元体ならTXのソナー波は反射しないっ!」とランドー。
操縦航法管制の中島大尉が艦のコントロールを何とか手動に切り替える事に成功した。続いて動力管制のマーク少尉とバートル中尉も熱核系の手動へ切り替えを報告。
リベレーターは既にTX機関が主翼をコンバットポジションに展開させていた。
中島の横にいる飛鳥大尉は直ちに制動モーターと熱核推進で艦体に逆進を掛けたが全く手ごたえが無い……リベレーターは物理操作を無視するかのように目標へ進んだ。
中島大尉はリベレーターの速度ベクトル(ベロシティベクトル)を全球モニターに投影させた。ベクトルの示す方向は地球の地平線と重なっていた…
「回避だっ、軌道修正っ‼」ランドーは叫んだが、その声も空しくリベレーターはデッドラインへ進んだ。
「舵が効きませんっ、制動モーター、熱核推力による減速軌道変更出来ないっ ‼ 」パイロットシートから身を乗り出すように飛鳥大尉が叫ぶ。
これは、もう…、と考えたランドーはTX機関で防御フィールドを展開できるかバートル中尉に尋ねた。しかし、彼は首を横に振った。TX機関は完全に人の手を離れている――、ただ、その状況をモニターに映し出すだけだった。
ランドーは全艦内に通達した。
“全乗組員に達す!一次エアロック付近に居る者は艦中央部へ退避せよっ!本艦は間もなく大気圏へ高速突入するっ‼ 防御フィールドは無いっ ‼ 繰り返す……”
艦内にはアラートが鳴り響いた。