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機動空母リベレーター  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第一部 [火星、月地球 間軌道戦闘編 ]
12/47

「ニアミスと合議」

空間転移座標の精度不良により危うく衝突しかけるリベレーターと軌道ドック「しきしま」。林二等宙将の機転とリベレーター航法士たちの操縦で何とか危機を回避する…

軌道ドック「しきしま」の通信会議室で機動宇宙軍本部のカーネル・リードマン大将と作戦司令部の山元 葵一等宙将を前に合議を行うロバートソン准将(提督)とランドー艦長。TX機関の改修は見送られ、現状での戦闘運用を任される二人だった…合議の終わり、山元はランドーに個人的な事を頼んでモニターから姿を消す。

その後、「しきしま」のCICを訪ね、林稔二等宙将と地球の技術力とTX機関について話しあう。


「ニアミスと合議」



軌道ドック「しきしま」のCICでは各科員は緊急時対応に備えていた。リベレーターがどの辺りの空域に出現するかは「しきしま」のPARフェイズドアレイレーダーやQR(量子レーダー)では捉えられなかったからだ…



(艦のシステムが統一されていないのはマズい……いや、SCV-01(リベレーター)が特殊過ぎるだけか…)



「周辺の磁気反応には注意せよ!」と林は航法科員に発した。林は何故か嫌な予感がした。


(見えると見えざるでは、こうも感覚が違うものか…〈汗〉)



現在、既に量子ステルスなどで目視や通常のPARでは確認と捕捉出来ない。同時に探知補足の技術も進化しているが今回は最先端の技術が全く通用しない。




CIC内の緊張により停滞した空気は管制員の声によって破られた。



「磁気反応!リベレーター、後方距離500 ‼ 突っ込んで来るっ‼ 」


林は既に振り返る事をせず発した。


「総員衝撃に備えっ、前進スラスター全開っ ‼ 」





ドック内の接続ベイで待機していた乗組員たちを加速Gが容赦なく襲う…





    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥





リベレーターCICでは操縦航法管制の飛鳥大尉が顔を引きつらせながら操縦する姿があった。横に居た副官のルカ・中島大尉も同様に慌てた…目視で「しきしま」の巨大な艦体が迫りつつあった。



「前方、「しきしま」‼  制動モーター全開、反動減速最大へっ ‼ 熱核エンジン、全リバース ‼ 」と飛鳥大尉は叫んだ。


側で中島大尉は冷汗を吹き出しながら、この時点でやっと距離をカウントし始めた。


「距離450、350、220、130…クソォッ、止まれっ!止まれェーッ ‼ 」中島は喚くように言う。




1000mを超える巨大な艦体の「しきしま」と812mのリベレーターは既にくっ付いているように見えた。




「80、71、60、50……62、85、140、距離、離れたっ ‼」と青い顔で中島は飛鳥へ叫んだ。すぐさま飛鳥は制動を解除、距離4000の位置で「しきしま」との速度を合わせた。



他の管制エリアの者はフゥ~ッと大きく息を吐きコンソールに身を埋めて脱力した。



上で見ていた艦長のランドーは顔色を変える事も無く、ただ一言呟いた。


「余計な報告書が増えたな…」




後ろで状況を見ていた私は軍帽を脱ぎフゥ~ッと息を吐いた。幾筋もの汗が顔を伝って流れ落ちた。




飛鳥大尉はリベレーターの主翼をドックポジションへ下げた後、中島大尉の頭を叩いた。


「距離のカウントの途中で余計な言葉は挟むなっ!中島大尉 」





大幅に軌道を逸脱した両艦は元の軌道へ戻す作業が双方で行われた…





       ◆





数時間後、「しきしま」へ移乗した私とランドーは通信会議で機動宇宙軍本部のカーネル・リードマン大将と作戦司令部の山元 葵一等宙将を交え、実戦評価の報告とSCV-01リベレーターの運用状況を報告した。


実戦評価に於いては概ね了承されたが運用状況を聞いたリードマンは厳しい顔をした。対して艦長のランドーはTX機関の改修を要望した。その間で私と山元一等宙将は同じ事を考えていた。



(改修を行っていては間に合わない……現状に合わせた運用を考えなければ…)



{問題のTX機関…GEバイオエレクトリック社か……軍総本部には伝えて措くがこれには時間が掛かる。政府との契約が絡んでいるからな。当然、追加予算の話も出て来る…}とリードマンが言うと山元一等宙将は待っていたように次のように進言した。


{将軍、我々戦場の実務者には時間が有りません。ここはロバートソン准将とランドー艦長に運用を一任します。今後、GE社では類似のTX機関が開発されれば、リベレーターはTX機関運用のモデルケースになります。}


{ウム…了解した。ロバートソン…}とリードマンは私の方を向いた。



「はい将軍、何か?」


{次の進攻目標(月)だが、ここで見られるUFOは例外的なものだ。軍総本部からの詳細なデーターはリベレーターのデータリンクを介して暗号で送る。よく見て置いてくれ、ランドー、君もだ。}とリードマンは二人に言った。


私は一つの懸念点を挙げた。


「この戦闘に他の異星人のUFOが入って来た時はどうされます…政府と長年交渉を行っているプレアデスも他の敵性異星人と同システムのUFOです。判別できなければ誤射の可能性は否定できません…」と私。


{…これも軍総本部を通して政府に働きかけてもらうしかない……その間に発生する問題は本部が負う。君たちの現場の活躍に期待する!}とリードマンはそう答えるとモニターから消えた。




リードマン大将が消えると山元一等宙将は私に言った。



{ロバートソン准将、作戦立案が出来たら報告を……准将、私は正直に言います。作戦司令部が行なう承認は書類の認証印の様なもの……現場で戦っている貴方たちの方が、より柔軟に現状に対応できる。ランドー艦長、リベレーターを頼みます。}


「お任せください、司令!」ランドーは立ち上がると司令に敬礼した。


ここで山元一等宙将は個人的な話を持ち出した。


{これは私個人のお願いなのですが航法管制科の飛鳥 麗大尉によろしく、と伝えて下さい。彼女は私と同じ空自の宇宙作戦群の出身なので…}


「は、はあ…?」とランドーは何となく答えたが私には分かっていた。乗組員の親族が誰なのか、どのような関係なのか把握しておくのも私の仕事の内だった。


(飛鳥大尉は司令の姪御さんだ。組織上直接、姪だと言えないのは辛い所だな…)


「大丈夫ですよ、司令。大尉にはよく伝えておきます。ご安心ください」私がそう言うと山元司令は安心した感じでモニターから消えた。








通信会議室から出た私たちは警護に伴われて「しきしま」のCIC入口へ立つ。直ぐにエアロックが開いて林稔二等宙将が出て来た。


「大変だったな、中へ入ってくれ。」そう言うと林は二人をCICへ招いた。


私はCICの窓からリベレーターを見ながら彼に言った。

「林二等宙将、今回はすまなかったな、もう少しで貴艦を損傷させるところだった…」


すると林はフフンッと薄笑いを浮かべて返した。


「今回は勘が働いた。リベレーターも上手く回避してくれたしな…必要な物の搬入はもうすぐ終わる。思ったほど弾薬の消費は無かったな。殆ど(から)で帰って来ると思っていた。」


「航空と地上戦闘以外、本艦は巡航ミサイルしか使わなかったからな…TX機関のお陰で戦死者も出なかった。早い内に次のTX機関が出来ると良いが…アレは本来量産の利く物じゃない。」と私は歯がゆさを感じながら林に言った。



ランドーは思い出したように言った。


「TX機関は人間が関わらなければ最大の能力が発揮できない……帰りに操作員(エディ)を外したら散々な結果です。操作員を何とか出来ないものでしょうか…」


「…君が代わりを出来るかね?」私は少し皮肉を込めて彼に言った。


「それが出来れば……TX機関は操作員に同期するように作られていますから…」ランドーは遠くを見るように呟いた。



林は私に問うた。

「我々の技術は進んでいるのか…それとも――、」

彼が言い終える前に私は答えた。

「ライト兄弟の飛行機に現代の熱核エンジンやアビオニクスを詰め込むようなものだ。」


林は短い溜息を吐いた。

「技術的乖離…か。異星人から見れば我々の技術は原始時代にも及ばない…TX機関は魔法の杖だな。」


「まあ、唯一戦える、我々が作った物はTR-3Dくらいか…これもリバースエンジニアリングだがな…敵のそれと比べて性能は落ちるし…普通の人間が扱える物じゃない。」と私。




そんな話の中、ドックの搬出デッキ科員から声が有った。



“{デッキステーションよりCIC 、SCV-01(リベレーター)への資材搬入完了!}”



「そろそろ、お暇するとしよう。林二等宙将、感謝する!」私とランドーは揃って彼に敬礼すると「しきしま」のCICを後にした。







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