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USSF機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター戦記』第四部 [ 最後の夢編 ]
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『生ける亡霊たち』

艦長室で不可思議な体験をしたランドーは管制各科士官を直ちにリモートで招集し、その後に異常な出来事が無かったか確かめる。数名の者に該当する事が分かったランドーは、生前、防衛省副大臣の和泉が言っていた”死者の復活“の情報を管制科員へ送るが、状況が整うまで秘匿するように命じる。

一方、混乱を極めるアメリカ社会の舵取りを任された、大統領のハワードはホワイトハウスの執務室で報告書と格闘していた。クラウディアが持ってきた司法省の報告書を見たハワードは、法廷で元副大統領のエバンスと国防省の元長官のマッカーシーが変死を遂げたことを知る。彼等の遺体は異形を伴っていた…


『生ける亡霊たち』




アリゾナ、エドワーズ統合機動宇宙軍工廠の専用ドックに鎮座するSCV-01〈リベレーター〉。



艦長室で不可思議な体験をした艦長のランドーは艦の中央作戦室に入り、現在休養に入っているCIC管制科員たちをリモートで緊急招集した。この中には操縦航法管制のアスカ、火器管制のフスター少佐、副官のマーベリット大尉、動力管制のバートル大尉と副官のマーク中尉がそれぞれスクリーンに映し出された。現在、艦内で作業を行っているアスカを除き、各員休養中で外出している者もあり、制服の代わりに私服を着用していた。



全員が揃ったところでランドーは各管制科員に生活上で何かしらの変化が無かったか問うた。全員、質問の意味が分からず首を傾げたが、その中でフスター少佐が声を上げた。


{ 現在、本国に居ますが、アメリカを発つ前に少し不思議な事が有りました……… }


「話してくれ、どんな細かい事でもいい。」、とランドー。


{ 空港のロビーに居た時に、中島少佐に肩を叩かれたんです……、妹のマーベリットも横に居ました。 }


(やはり何か有ったな…)、とランドーは思った。


「中島少佐は消えたのか?」


{ 一瞬で消えました、多分、私とマーベリットも疲れていたんだと… }、とフスターは自信なさ気に証言した。


「ありがとう、フスター。他の者はどうだ?」、ランドーの問い掛けにバートル大尉が声を上げた。


{ 自分も……、言うかどうか迷ったのですが、フスター少佐の先の証言で自分にも同じ事が……、亡くなったエディに会いました。}


(エディ……)、と心のなかで呟くランドー。


「マーク中尉とアスカは?」


{ 私は有りません。 }、とマーク。しかし、アスカは違った。


{ 艦長が先に艦内監視モニターにTXエネルギーフィルターを掛けた事はSAIリンクで確認しています。私は艦内を調べましたが、艦内には艦長が見た幻視体が多数存在しています… }、アスカの言葉を聞いたフスター少佐はスクリーンに迫り出すようにランドーに尋ねた。


{ 艦長っ、何が起きているんですっ?! }



ランドーは腕を組んでウウーンッと唸った。宇宙では戦闘に追われていた為、カインの避難民救出以外の事、日本防衛省副大臣のMr.和泉が語った事は、自分を含め、大統領と補佐官、リードマン大将とカートライト提督、ロバートソン少将以外、艦隊に居た者は知らなかった。ランドーは和泉の語った”死者の復活“を話すかどうか迷った。



暫くしてランドーは重い口を開いた。



「皆、これを見てくれっ、艦長室の監視映像だ。」、そう言うと彼はデーターを参加者各自の端末へ転送した。全員の目が端末のモニター画面に釘付けになった…



「これは先日、私が体験した事だ、……量子他、物理系フィルターでは捉えられなかったが、TXフィルターで、その存在が確認された……、君たちには言ってなかった事が有る。これはカインの救出にも関係している、詳しい情報はニューラリンクを介して各自に送るが、これは秘匿せよっ!………環境が醸成されれば政府から発表されると思う、恐らくだが…」、ランドーはそう言って各人に情報の秘匿を命じた。アスカ(SAI)にも同様に命じた。




       ◆





アメリカ政府を奪還したハワードは国内の問題と外交で非常に厳しい立場となっていた。


政府においては各省庁の再編成と防衛力の問題、また、戦略核の使用で外交は壊滅的だった。核を使われた当事国の日本政府は、今回の件がアメリカの反対勢力による偶発的使用である事を承知していたが、事情を知らない国民の怒りは日本各地で暴動を引き起こすに至っていた。

政府は火消しに走りながらも、防衛省副大臣の和泉の情報をいつ国民に発表するか考えていた。政府は外務大臣を渡米させ、国務省と会談を持ち、カインの秘密情報の開示の時期について話し合った。しかし、アメリカ国内も混乱しており、情報の開示は先送りとなった。日本以外の国に置いてはアメリカとの交渉をほとんどの国が拒否した。



アメリカの経済は実質破綻していた。先ず、経済を下支えしていた軍産複合体の各メーカーが物を作れない状態で、その裾野である中小の関連企業の多くが倒産した。これに連動する形で大量の失業者と新規の就業を控えていた者が、就業の窓口を閉じられ路頭に迷った。




  ………………………………




ホワイトハウスの執務室でハワードは報告書の山に埋もれていた。裁ききれない問題の数々…



机の上に伏していたハワードの元に補佐官のクラウディアが来て、司法省の報告書を彼に渡した。彼女の顔は暗く、目の下には隈が出来ていた。


「すまないっ、シンシア、………君、寝てないだろう。」、そう言ってハワードは報告書を受け取り開いた。

「叛乱を起こしたエバンスと国防省のマッカーシーですが………」、と彼女は言い詰まった。


ハワードは報告書に目を通し、添付されている写真を見て固まった…


「彼等は法廷で死んだのかっ?! しっ、しかしっ、……これは彼等の遺体なのかっ?! どう見ても人間じゃないぞっ!!」、そう言ってハワードは報告書の先を読み進めた。


「……裁判中、司法長官に罵詈雑言を喚き散らし、………!! その後に身体が変容っ……その場で死亡っ!!」、ハワードはゴクリッと息を呑んだ。


机の上に肘をついて読んでいた報告書を持った手を、机の上にダンッと投げ出すハワード。暫く目を瞑り黙った…



ゆっくり目を開けたハワードはクラウディアの方を向き、他に報告は無いか聞いた。


「…有ります、保健省と商務省からです。……」、彼女が言うとハワードは報告を促した。


「まだ文書化はしていませんが、各省の長官から直接聞きました。先ず保健省ですが……」

「概ね、失業者が増えた事で衛生と健康状態が悪化したって話だろ!」、とハワードはタカを括った。


クラウディアはハワードに近づき注意した。


「大統領っ、話は最後まで聞いて下さいっ!……保健省の国民の健康状態、病院の使用率と入院者の統計が前年比を大きく下回った、と言う事です。特にここ最近、その傾向が著しいと…」


「悪い事ではないな、……次、商務省はっ?」、とハワード。


「国内産業の成長率は底を突いています。特に製薬関連が破綻、大手が倒産してます。それと通信関連が異常に落ち込みを見せています。他は大統領も知っていると思いますが、軒並み底を突いています。」、話し終えると彼女は腰に手を当てフゥーッと息を吐き、姿勢を崩した。

 

この報告を聞いたハワードはおかしな違和感を覚えた。腕を組み、俯いてンンッ…、と唸った。


「この報告は間違っていないかっ?どう考えても整合性が取れない部分が有る…、そもそも、大量の失業者を出している状態で、なんで健康が維持できているんだっ、そこいらには浮浪者が溢れて衛生状態も悪くなるし、そうなるとメディカルの使用率も上がって、当然医薬品の生産も上がるはずだっ!」、とハワードはクラウディアを詰めた。


「その辺りは各省長官の公式報告書を待って下さい…、私、先に言いましたよね、文書化はまだしてないってっ!!」、とクラウディアは不機嫌な顔で声を大きくして言った。


「いやっ、その……、すまなかった。シンシア、君も疲れている、奥で休んでくれ。」、そう言うとハワードは彼女を補佐官待機室へ戻らせた。



ハワードはその後、机の上に散らばった報告書を片付け、机の上をクリヤーにすると、先にクラウディアから受け取った報告書だけを机の上に置き、執務室を出て洗面所で顔を洗った。タオルで濡れた顔をゴシゴシと拭き、鏡に映った自分の顔を確かめた。


(疲れた顔をしているが…、血色は悪くない、何故だ!?ろくに寝てもいないのに…)


そう思いながら執務室に戻り、先の報告書を見ていた。ハワードは何気に左手でコーヒーのカップを持ち、口に近づけたその時、気が付いた。


(エッ、待て?…なんでコーヒーが有るんだっ?!机の上は書類しか無かった…)、ハワードは再びクラウディアを呼び出した。


「何ですか?大統領…」、と彼女。


「君がコーヒーを淹れてくれたのか?…ありがとう。」、ハワードがそう言うと彼女は首を傾げた。


「コーヒーッ?知りませんよ、私じゃないです。……大統領、…ハワード、貴方は疲れてるのよ。」、とクラウディアは笑った。


ハワードは左手に持ったコーヒーを見た。それはとても熱い、淹れたてのものだった。





固まっているハワードを横目に、クラウディアは執務室から出て、一旦、化粧室に入ると、そこで衣服を整え、髪をブラシでといた。ブラシを化粧台に置き、視線を再び鏡に移すと自分の背後にスーツを着た男が立っていた。彼女はその場に固まり、声さえ出なかった。自分の背後に立っていた男は彼女の肩に手を置き、次に声が聴こえた。



”シンシア…“



それは耳に聴こえたのか、それとも心の中で聴こえたのか彼女には分からなかった。


クラウディアは振り返って叫んだ!


「ジムッ!!」


誰も居ない化粧室に自分の声だけが響く…、彼女はその場に膝を崩した。彼女の気持ちを支配していたのは恐怖ではなく、三年前に起きた敵性異星人によるホワイトハウス襲撃事件で亡くなった、夫ジムへの遥かな追憶だった。







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