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機動空母リベレーター  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター』第一部 [火星、月地球 間軌道戦闘編 ]
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「欠陥品」

TX機関の不具合が発生したSCV-01リベレーターは地球へのEAT(到達予定日/到着予定日)が大幅に遅延していた。軌道ドック「しきしま」でリベレーターの帰還を待ち続ける林稔二等宙将とTX機関の動力不安定で混乱するリベレーターCICの各科員たち…


地上では統合機動宇宙軍作戦司令部の在る日本の府中基地内に於いて、作戦司令である山元 葵一等宙将と統合機動宇宙軍本部のカーネル・リードマン大将との合議が行なわれていた。


「欠陥品」



地球軌道ではリベレーターの帰還を待つ宇宙ドック「しきしま」の姿が在った…



「もう、作戦時間はとうに過ぎている……EAT(到達予定日/到着予定時刻)は六時間も遅れているぞ!通信管制、リベレーターからのQCC(量子暗号通信:Quantum cryptograph)は未だか⁉」


林稔二等宙将はドックCICのキャプテンシートに座り足を組んで考えていた。



(まさか、やられたのではあるまいな……いや、ロバートソンとあの(ランド―)艦長だ…何かの…)




林がそう思っていた時、通信管制に声があった。


「リベレーターより入電! 暗号コード、リベレーターを照合確認!」


林は腰を上げ通信管制の方へ走った。




「何と言って来た⁉」と林は管制員に聞いた。


「TX機関、不安定ナリ、航行二支障無クモ、当艦出現位置二注意サレタシ!」と管制員は伝えた。


「やはり何か有ったか…各科、リベレーターの入渠に備えよ! 航法科員は緊急対応に備え ‼ 」




“{リベレーターが間もなく入渠する、各科配置に着け!}”



ドック艦内に発令が響いた。




      ◆




リベレーターCIC…




「TX機関、エネルギーレベル不安定になっています!」動力管制のバートル中尉が航法管制へ向けて叫んだ。続いて火器管制エリアに居たフスター大尉と少尉も悲鳴を上げた。


「火器管制系にも異常! TX高次ソナー、及びジャマ―のレンジが安定しない。防御フィールドも同様!索敵、探知にPAR(Phased Array Radar:フェイズドアレイレーダー)とQR(Quantum Radar:量子レーダー)を追加します!」


脇に居た妹のマーベリット・フスター少尉は青ざめた顔で注意した。


「兄さん…大尉、高次から攻めて来る敵にPARやQRは役に立たないよ!」

「今は無いよりマシだっ ‼ 」と兄のフスター大尉はモニターを注視したまま返した。




操縦航法管制の飛鳥も焦っていた。TX機関の不具合を聞いた副官等もCICへ駆けつけ、各担当エリアで状況を確認していた。



「TX機関のコース自動算定に異常……数値が安定しない!」


飛鳥は統括エリアに居る艦長のランドーの方を向き、続けて報告した。



「艦長、当艦の転移座標がズレる可能性が有ります!」悲痛な声で叫ぶ飛鳥。



ランドーは顔色を変えず次のように下令した。


「慌てるな、原因は分かっている。各科現状待機せよ! バートル中尉、TX機関動力室と繋げ!」



バートルは動力室と繋いだ。統括エリアのモニターに動力室の様子が映し出された。溶液で満たされた操作用カプセルの中でエディが苦悶の表情を浮かべ身体は痙攣を起こしていた。



「………壊れたか」ランドーは一言呟くとシュミット博士を呼び出した。モニターにシュミットが映った。



「この機関は欠陥品かっ⁉ 公試時にはこんな事は起こらなかった…早くその“ポンコツ”をカプセルから出して09(人工生体脳:AQB-09)で機関を再起動させろっ!」ランドーは無表情に怒鳴った。




この言葉でモニターに映ったシュミットは僅かに黙ったが「分かった」と一言答えた後、画面は消えた。






暫くしてCICや艦内の照明は非常灯に切り替わり、間を置いて元に戻った。



CICではバートル中尉がTX機関のエネルギーが安定したのを確認したが、そのレベルはエディがTX機関を操作していた時と比べて極めて低い状態に留まっていた。



各科でエネルギー状態に合わせ再設定が行われる…



航法管制科ではTX機関から出力される低レベルのエネルギー状態での長大な飛躍は転移(ジャンプ)座標精度に問題が発生する可能性が懸念されたため数度に渡る短距離転移を艦長に具申し了解された。



結果、リベレーターの地球への設定されたEAT(到着予定日/到着予定時刻)は大幅に遅れる事となった。





       ◆




地球では統合機動宇宙軍作戦司令部の在る日本の府中基地で山元 (あおい)一等宙将と機動宇宙軍本部のカーネル・リードマン大将が機密通信で合議を行なっていた。



厳重に警護された地下の電子通信会議室には山元一等宙将とホログラムで投影されたリードマン大将の姿があった。


{SCV-01(リベレーター)の運用状況はどうだね……作戦に耐えるものか?}とリードマンは山元に尋ねた。


「現在、作戦を完了して帰還の途上にあります。火星のケンタウリ系異星人との戦闘結果は暗号 “J” が送られて来たことから概ね戦闘には耐えたと考えます。SCV-01が帰還した時、ロバートソン准将から実戦評価が報告されるはずです…」


{そうか……まだ安心は出来んな。火星攻略は今後の戦いの試金石に過ぎない。次の目標である月裏側への進攻準備を進めてくれ。今度の敵は今までのと違う……我々がSSFP(Space Strike Force Program:宇宙打撃軍計画)を進めた理由の一つだからな。}



ここで山元は空間にスクリーンを展開させその情報を再確認した。


「異星人の情報が他と比べて極端に少ない……アメリカ政府は彼等との接触は過去に無かったのですか?」と山元は聞いた。


{無い、全く無い! 宇宙軍情報部も中々、手掛かりが見つからないそうだ。ただ、軍総本部ペンタゴン特殊戦部隊の僅かな情報に依れば、十二年前に日本上空でUFOが墜落しかけ、その時に日本の宇宙域戦術部隊の機体が行方不明になったのが軍の宇宙進出の切っ掛けだそうだ…}とリードマンは言った。


「十二年前? そのような情報は裏でも聞いた事が無い……もしかして、特殊戦部隊と言うのは時空戦部隊ですか⁉ しかし、現実に無かった事がこの世界に脅威を及ぼしているというのは――?」




リードマンはポケットから煙草を取り出して火を点けると吹かした。




{君や私のような凡人が考えているほど、この世界は簡単ではないらしい。政府と長年交渉しているプレアデスも時空には手を出すなと言っている………十二年前の同じ時間にSERN〈欧州合同素粒子原子核研究機構〉で地球規模の強力な磁場変動が確認されている。何の因果か知らんがね…話が逸れてしまった、元へ戻そう。我々の次の相手はTX機関と同じ類のエネルギーを持っている。TX機関の特性は君も理解しているはずだが…}リードマンはそう言うとライターの蓋を閉じ、煙草と一緒にポケットへ戻した。



「超次元的なエネルギーですね。次元を包括出来る力だからこそ異星人の時空技術に対抗できた訳ですから…」と山元は答えた。



{良い答えだ。軍総本部(ペンタゴン)は十二年前の事象と最近の…四年前だったか?やはり日本へ飛来した一部のUFOを評価照合を行った。結果は同じ物でTX機関と同じエネルギー波動を確認したらしい…}



「……敵性対象ですか?」と山元は呟くように言った。


{山元一等宙将、我々の出来る事は判断ではなく行動だ!}とリードマンは語気を強めて言った。



「平和のために戦争の準備を怠るな……ですか。実にアメリカらしい考え方ですw」山元は皮肉を込めて冷笑した。それに気が付いたのかリードマンは次の事を彼女に切り出した。



{君の姪御さんもSCV-01に乗ってるそうじゃないか…よい作戦を立ててやってくれw ブアッハッハッハ…}とリードマンは笑いながら言う…


「(このタヌキがっ!)ただの航法士ですよ…」と山元は暗い顔をして答えた。








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