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USSF機動空母リベレーター戦記  作者: 天野 了
『機動空母リベレーター戦記』第四部 [ 最後の夢編 ]
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『奇跡の前兆』

日立宇宙工廠の大深度地下から脱出に成功した司令の赤松らは、遠く離れた対岸の工廠と隣接する科学技術特区上空へドローンを飛ばし、観測を行う。そこでは奇妙な現象が確認された。一方、この騒乱による影響は既存の経済システムを破壊し、アメリカとロシア連合は新たな経済の枠組みを模索していた。この中に於いて世界中の兵器生産工場が自ら稼働を停止する、という奇妙な出来事も起きていた。アリゾナのエドワーズ統合機動宇宙軍工廠へ帰還したSCV-01〈リベレーター〉で艦長のランドーは自室で休んでいた時、奇妙な体験をする…


『奇跡の前兆』




対岸の黒い煙を確認した赤松は、双眼鏡を取ってそれを見入った。


「……まだ地上は燃えているのか?双眼鏡では水平面しか確認できんっ、ドローンを準備してくれっ!」、赤松の指示で隊員たちは直ぐにドローンを飛翔させた。ドローンのカメラ映像は操縦者のヘッドゴーグルとモニターに映し出される…


海上を抜け、陸上に入ると至る所で黒い煙が昇っていた。ドローンは日立宇宙工廠の敷地上空に入ると、そこには巨大なクレーターが出来ていた。赤松の思っていた通り、地上施設と浅深度地下の施設は完全に破壊されていた。


「山元司令…」、モニターを見ていた赤松は呟いた。



ドローンは工廠上空をパスし、隣にある科学技術特区へ入った。ここには官民の科学研究所や工場、先端航空機試験用の滑走路やロケット打ち上げ施設、また従事する者の居住区が有った。ここで得られた技術的ノウハウは当然、秘密裏に隣の日立宇宙工廠へ渡された。



暫くドローンは特区の上空を飛んでいたが、パイロットは、アッ!と声を上げた。


「どうしたっ!? 何か見つけたか?」、と寺坂はパイロットに聞いた。


「皆、モニターを見てくれっ!!」、と叫ぶパイロット。赤松他、五十鈴と寺坂、他の隊員たちはモニターを囲む様にして映像を注視した。そこに映し出されたものは…



「何なんだっ、この薄い光はっ?!」、とパイロットは冷静さを保ちながら、その声は震えていた。横に居た寺坂は大気の放射能の影響か問うたが、パイロットはドローンに搭載されているガイガーカウンターの示す数値は低い、と答えた。寺坂はモニターの所へ行き、五十鈴宙佐にBSのインターセプト時に大気浄化を組み込んだか尋ねた。五十鈴は首を横に振った…


「確かに超次元エネルギーを使うBS(Break Shot:指向性破壊波動放射)であれば放射能汚染を除去することは出来ます、……でも、今回は大気や放射能にインターセプトしていませんよ、寺坂さん。」、五十鈴の言ったことに寺坂は頭を捻った。彼は他の隊員を分け入るようにモニターに近づき、画面を凝視した…


特区の地上には確かに黒い煙に混じって、本来そこに在ったであろう建物の輪郭や道路を行き交う人の影が薄い光として蠢いていた。念のため、寺坂はパイロットにドローンを工廠上空へ戻すよう言った。…そこにはさっき何も見えなかった、ただのクレーター跡にはっきりと施設の影が薄い光として現れていた…



(一体、何が起きようとしている…?!)、と寺坂や五十鈴、赤松らは思った。



これらの現象は政府にも伝えられ、爆心から被害が及んだ地域においては、無事な者は退去させ、完全に封鎖した。



      ◆




アメリカ独立新政府と地上の反対勢力の戦いは短期間で限定的だったが世界の経済を壊すに十分なインパクトだった。株価は暴落し、多くの工場が停止、物資の流通も停滞した。元々、資源産出国の多いロシア連合は反勢力に操られていた政府を倒し、新たな経済の枠組みを模索していた。対してアメリカは工業生産の他、貿易に依存していた経済は破綻した。経済の中核を成していた軍産複合体の各メーカーは著しく生産能力が低下して行った。商務省は直ぐにホワイトハウスへ報告を行った。


報告を見たハワードは報告書の内容を疑った。そこに書かれていたのは、必要な部品の調達や流通の問題ではなく、兵器の生産組立工場自体が生産を拒否している、と言うものだった。


「工場が?…拒否する???生産管理AIの故障なのかっ?!」、とハワード。報告書を確認して商務省の責任者とも話していた補佐官のクラウディアは次のように説明した。


「今から言う事は信じられないかも知れませんが、兵器関連の物を作ろうとした時に機械が止まるようです、勿論、AIもです…」


「これはアメリカの安全保障に関わってくる問題だっ、早急に原因を突き止めてくれ。」、そう言うと彼は話を変えた。

「カインの避難民たちはっ?」


「エドワーズに戻ったSCV-01〈リベレーター〉から降りて検疫を受けたあと、特設された文化教育サイトへ移動、収容しています。」




  ………………………………




アメリカ独立新政府が地上の反勢力政権を鎮圧した後、月面で待機していたSCV-01〈リベレーター〉は地上への帰還を下令され、カインの避難民6000名と共にアリゾナのエドワーズ統合機動宇宙軍工廠へ戻った。リベレーターは専用ドックへ降着し、避難民たちは一斉に艦を降ろされると、工廠内の航空機用ハンガーに仮収容され、検疫が行われた後に施設の建物へ移動した。


ランドー他、CIC管制科員たちはこの戦闘で亡くなった者たちが、弔銃が発射される中、艦を降ろされるのを見ていた。最前列にいた艦長のランドーは死者の棺が自分の前を通り過ぎると前に進み出て、その過ぎ行く棺に向けて敬礼した。他の士官たちも同じくそうした…



その後、リベレーターは修理改修作業に入った。地上支援整備と作業アンドロイドが艦に入り、修理が開始された。長期間の深宇宙航海と戦闘で艦体は至るところが損傷していた。SAIは全乗組員に対し、スケジュールを端末へ送信し、順次休養を取らせた。



ランドーはエディや和泉の死を悼む時間さえ無かった。ただ、この巨大艦を与る事の重責が彼を押し潰そうとしているのを彼は肌で感じた。


(この職責に人の幸せがあるんだろうか……自分は人工人として造られ、この世界最高最先端の戦闘艦の指揮を任された……それは造られた人間として栄誉な事だったかも知れない…………、だけど人間として当然在るはずの幸せは……無かった。たった一人の妹さえ失ったんだ…)、彼は胸中から弾けそうな自問の思いを押さえ込み、ドックに隣接している統合機動宇宙軍本部へ赴いた。



本部の司令室へ入り、そこで本部副官のボイス中将と初めて会見した。本来なら一艦長が本部へ赴く、という事は無い、…しかし、此処に立つべきカートライト提督やロバートソン提督(少将)らはもう居ないのだ。



警護の者に部屋の前まで案内されたランドーはドアの前に立った。


「SCV-01、艦長、R·ランドー大佐、参りましたっ!」


中から声はなく、代わりにボイス中将がドアを開け、彼を中へ招いた。


「そこへかけてくれ、先の宇宙大戦、ご苦労だった。」、ボイスはそう言うと、ランドーに執務用の机の横にある椅子を指して彼を座らせた。ランドーは話が長くなりそうな感じだったので先に自分の用件を申し出た。



「司令、SCV-01の修理回収中は戦闘に出れる艦は既にありません。基地周辺の航空戦力と防空能力の増強をお願いします。Δ-9の配備は出来ないのですか?」


ボイスは自分も椅子に腰を落とすとフゥ〜ンッと溜め息を吐いた。


「メーカーのロッキードマーティンはもう増産しない、いや、出来ないと言っている。…ランドー艦長、君はまだ聞いてないかね?」


「?、何か有りましたか…」、とランドー。


「世界の兵器生産工場が稼働を停止し続けている…」、ボイスがそう言うとランドーは腕を組んだ。


「あまてらすシステムのBS発射の影響ですか?」、そうランドーが聞くとボイスは手を振ってそれは違う、と答えた。


「日本政府の公式見解では当時の稼働戦闘システムがターゲットで生産設備は含まれていない、と言っている。……ハッキリとした原因は不明だ。」


「…………」、ランドーは無言で少し俯いた。


それに気が付いたボイスは、ランドーの用件を承諾し、可能な限り基地周辺の防空能力は増強させると約束し、艦に戻って休むように言った。





リベレーターに戻ったランドーはCICへ入ったが管制科員たちは居らず、代わりにアンドロイドが配置に着いていた。

後部の艦長室へ戻ったランドーは、制服を脱ぐと第ニ種艦内服の格好となり、倒れ込むようにベッドに身を横たえた。


浅い眠りの中、誰かが部屋に入ってきたような感じがした。視線を移動するとベッドの左脇にそれは腰を降ろした…、それは何処かで見た者だった。


”艦長、ありがとうございました………ゆっくり休んでください…“



ランドーは、きっと幻覚か幻視を見ているのだ…そう思った。


(自分は疲れ切っている…きっと幻を見ているのだ…)


彼は浅く片手を上げて、その幻覚へ合図した。確かな判断ではなかったかも知れない…、ランドーは呟くように言った。それは口で言ったのか、心の中で言ったのか自分でも分からなかった。


「大丈夫……下がってよし…中島少佐」


(エッ!? 中島…!)



ランドーは自分が手を浅く上げているのに気が付き、その時、ハッキリとした意識に戻った。


(自分は、……寝ぼけていたのか?しかし、この浅く上げた手は…??? 中島少佐の名前を自分は発した…)



中島少佐らしきものは既にいなかった。ランドーはそれが座っていたベッドの端を手の平でまさぐって確かめた……其処には微妙な温かさが残っていた。


再び半身を横たえた彼だったが妙に落ち着かなかった。


ランドーは起き上がって制服を着るとSAIを呼び出し、艦長室の映像を出すよう指示した。彼は腕時計を見て、自分が艦長室に戻り、ベッドへ横になったところから映像をスタートさせた。


そこに映っていたものは無かったが、確かに自分は何かに向かって浅く手を上げていた。ランドーは念の為、各種センサーフィルターを掛けてみた。赤外線、紫外線、画像コントラスト等……、彼はSAIにこの画像にTXフィルターを掛ける事が出来るか尋ねた。


「SAI、この画像にTXフィルターを掛けてくれっ、以前、カインの侵入者が艦内に潜入した時にやった筈だっ!」、対しSAIはこう返した。


{ フィルタリングの通常オプションには含まれていません。システムストレージを調べているので待って下さい……TXコンデンス、艦内監視システムとリンク… }


暫くしてモニターにフィルタリングGOのサインが出た。


映像を再生して、そこで見えたものにランドーは驚愕した。自分の横には複数人の人間の姿をした薄いモヤのような存在が確認できたからだ。


「SAI、艦内に高次反応は無かったかっ、侵入者の可能性はっ!?」


{ 100%、有りません! }


「んん~っ…どういう事だ?」、ランドーはそう言うと再びモニターに向き合い、画像を拡大、最大化した。薄いモヤのなかに見える人の顔……、確かに見覚えの有る顔だった。


「手前から中島少佐、…飛鳥っ!麗も居る!! それと…エディだっ!!」、彼は暫くそれを見入った。




幻覚ではない、映像という確かな証拠に彼の気持ちは大きく揺れた。まだ確かではないが、生前、和泉副大臣が言っていた”死者の復活“の言葉が脳裏を過ぎった。






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