『権威の失墜と脱出』
ワシントンの反勢力を鎮圧した大統領ハワードとリードマン。その後、エドワーズ基地からホワイトハウスに送られた、反勢力の軍事行動経緯とその被害について纏められたリポートを見たリードマン、そしてハワードは恐怖する。それはアメリカの権威の失墜を表していた。
一方、日本の防衛省日立宇宙工廠の大深度地下に閉じ込められた赤松司令は、緊急脱出経路を使い洋上脱出を試みる。脱出は成功し、赤松らは大気の放射能濃度を測るが、その値は思った以上に低い数値を示していた…
『権威の失墜と脱出』
直ちにエドワーズから飛び立ったリードマンとハワードらは、ワシントンを包囲している統合機動宇宙軍のCP(Command Post:戦闘指揮所)を尋ねた。指揮を執っていた統合機動宇宙軍本部の副官のボイス中将は、先ずリードマンに状況を報告した。
「降伏勧告を出し、ホワイトハウスから出て来るようメッセージを出しているのですが未だにその様子はない…」、と彼は言った。
「向こうに反撃能力は無い筈だっ、メッセージを送ってからどのくらいだ!?」、とリードマン。
「半日は経ちます……」、とボイスは歯切れの悪い感じで答えた。それを聞いたハワードは苛立った。
「何をやっているのだっ!! これは国を取り戻す戦争なのだぞっ、警察の取り締まりごっこじゃないっ!」
「しかし、司法省が…」、尚も云おうとするボイスにリードマンは肩を掴んで後ろに下がらせた。
「ボイスッ、君はエドワーズへ帰れっ!此処の指揮は私が執るっ。帰ったら反勢力の軍事行動の経過を報告せよっ、直ちにっ、だっ!!」、リードマンが厳しくそう言うと彼は逃げるようにCPを後にした。
ハワードは不機嫌な感じでリードマンに言った。
「軍人は現場で国の意思を行動で体現するものだっ!ここまで堕ちていたか……、リードマンッ、戦闘員をホワイトハウス内へ突入させろっ、全員拘束せよっ!!」、とハワードは吠えた。
「承知しましたっ!!」、そう言うとリードマンはCPの副官を呼び出し、チームを編成させると直ちにホワイトハウス内へ突入させた。
反撃能力の無いエバンスの他、各省庁の役人や兵士は数分も経たない内に拘束を完了した。
アメリカ合衆国の反勢力を主導し、新政権樹立を企てたエバンスと国務省、戦争省(旧国防省)の他、それに加担したエネルギー省の者は厳しい取り調べを受ける事となった…
ハワードは国家緊急事態法を発令し、軍や政府機関の動きを厳しく制限した。この事によって、国民には前大統領の生存か知られ、国内は激しく混乱した。それは直接、アメリカ経済を揺さぶった。このセンセーショナルな出来事は、世界の通信状況が回復すると同時に広がって行った。当然、ある国ではアメリカを救世者、また別の国では世界を混乱に貶めた悪魔と罵った。
………………………………
ホワイトハウスでリードマンは、エドワーズ基地のボイス中将から送られてきた、地上の反勢力の戦闘行動の経過と被害について纏めたリポートに目を通していた。彼はあるところを凝視したまま身体が硬直した。ハァ、ハァッと息が荒くなり額には幾筋もの汗が流れた。
執務室で各省庁の再編を話し合っていたハワードとクラウディア他、各省庁の高位の責任者たちの所へリードマンが現れた。全員がリードマンの方を見ると、彼は報告書を持った手が激しく震えているのが分かった…
(これは……)
そう思ったハワードは他の者を執務室から退室させ、青ざめた顔をした彼を呼んだ。
「……何か有ったな、報告したまえ。リードマン…」
「SCV-01〈リベレーター〉から出る時に、ランドー艦長が地上で核が使われた可能性が有る、と言っていたのを覚えていますか…大統領…」、彼がそう言うとハワードはンンッ…っと少し考えると次のように返した。
「通信撹乱用の核兵器、HEMP(High-Altitude Electromagnetic Pulse:高高度電磁パルス)か戦術用核兵器を使ったのかっ?!」
「………奴ら反勢力は………戦略核を…」、リードマンが言い終わらない内にハワードは椅子から飛び上がった。
「おいっ、今なんて言ったっ!!…」
「戦略核…です…」
「何処でっ、誰がっ、どこに向けて使ったっ?!」、ハワードは激しく動揺した。
リードマンは手を震わせながら、エドワーズから送られて来た報告書を読んだ…
「場所は北緯26度18分14秒…西経175度11分16の位置より……」
「我が軍なのかっ!?…………」
「USN…オハイオ級戦略原潜、SSBN-853〈アラスカ〉から発射…されました、………弾着地点は、…………統合機動宇宙軍、………」、言い詰まっているリードマンからハワードは報告書を奪い取り、顔に貼り付けるようにそれを見た。
「にっ…にっ、日本の、……日立………工廠にっ、……にっ…にっ、2発…だとぉおーっ!!!!!!」、報告書はハワードの手から滑り落ち、床に散らばった。
ハワードはまるで酔っぱらいの千鳥足のように、フラつきながら執務室の壁に行くと、手を突き、壁に爪を立て大きく頭を項垂れた状態でその場に膝を崩した。
”キィイイイー……“、と彼の爪が壁の木を引っ掻く音が沈黙の執務室に響いた。
「………我国は、……もう誰からも相手にされないっ、………トイレの悪臭のような存在になってしまった…」、とハワードは震える声で吐いた。
「……大統領」
「フッ…フフッ……笑えるだろっ……一度ならずも二度まで………、同じ日本だなんて……何が『自由と平和』だっ………」
壊れたように床に崩れたハワードをリードマンは、ただ見守るしかなかった…
◆
一方、日本防衛省日立宇宙工廠、大深度地下ドックでは地上とのアクセスが完全に遮断し、エネルギー供給も完全に断たれていた。あまてらすシステムも限界出力でBS(Break Shot:指向性破壊波動放射)を放った後、システムはダウンしたままで〈あまてらす〉からのエネルギー供給も出来ない状況だった。
大深度地下に在るエネルギー管制センターでは発電用のGTG(Gas Turbine Generator:ガスタービン発電機)により、辛うじて照明を得ていた。
ドック内の損害程度を調べていた隊員がセンターに戻ってくると司令の赤松へ報告した。
「縦坑は全て全壊っ、エネルギーラインも同様です…」
「完全に生き埋めにされたか、……GTGは保ってあと一日程度だ。………洋上への緊急脱出経路は生きているのかっ?」
「まだ調べていませんっ、経路は10km近く有ります、…」、と隊員は答えた。
「そこから出る以外にあるまいっ!ここに居ても仕方が無いっ、各員、脱出の準備を行えっ!地上は恐らく高濃度の放射能で汚染されている筈だっ、防護服とガイガーカウンター、それと観測用の小型ドローンを忘れるなっ!!」、そう言って隊員に指示を出すと赤松は技術士官の寺坂の方を向いて発した。
「寺坂っ、〈あまてらす〉の五十鈴宙佐に艦を降りるように伝えてくれっ!」
「司令、〈あまてらす〉は動力を喪失していますっ、現在、五十鈴宙佐を救助しているところですっ!」
「了解したっ、センター内各員は準備の出来たものから緊急脱出経路へ進めっ!!」
………………………………
〈あまてらす〉艦橋コックピット内では五十鈴宙佐が脱出に手間取っていた。灯りを完全に失ったコックピット内で五十鈴はハンドライトで周りを照らし出し、手動でエレベーターカプセルのエアロックを開け、床のパネルを開いて更に緊急脱出用エアロックを開き、シャフト内を覗いた。ハンドライトの光はシャフト奥の闇に吸い込まれた。
(艦底部まで15mか……、電柱を降りるようなものね…)
五十鈴は注意深くエアロックに下半身を潜らすと、片手でエアロックの縁を持ってぶら下がり、口に咥えていたハンドライトを、もう片方の手で取るとシャフト内の壁を照らした。壁にはメンテナンス用のとても小さなタラップが確認出来た。
(これで下へ降りれる…)、そう思い五十鈴は再びハンドライトを咥えると、ぶら下がった身体を振って空いた手でタラップを握った。
何とかタラップを伝って艦底部へ降りたが、問題はここからだった。本来なら手動で開放出来るはずのエレベーターシャフトのボトムキャップが開かなかった。手動ハンドルはまるで固まったように動かない…
(ウッ…クッ…、ダメだっ、動かないっ!? BSの大出力放射で金属同士がコールドウェルドしたのかっ!?)
そう思っていた時、ボトムキャップの外側から、ガンッガンッと叩く音がした。
「誰かっ…誰か助けに来てくれたのっ!?」、と五十鈴は大声で叫んだ。
”「五十鈴宙佐っ、今からボトムキャップをレーザーで焼切るっ、離れて居てくれっ!!」“、とキャップの向こうから寺坂二等技術宙佐の声が響いた。五十鈴は直ぐにそこから離れた。
”バシュウウウー…“
飛び散る火花を避けるように五十鈴は肘を上げて顔を隠した。暫く時間が掛かったあと、ボトムキャップは下に落ち、寺坂が顔を出した。
「ありがとうっ、寺坂さん、助かったっ!!」
「五十鈴宙佐、ドック内から脱出だっ、急げっ!」
救出に当たった隊員たちと共に二人は、あまてらすのガントリーを滑るように下った。下では赤松司令が待っていた。
「皆、行ったぞっ、君たちも急げっ!!」、赤松がそう言うと全員、ガントリーの先にある緊急脱出坑へ走った。長さ7〜9mの脱出用カプセルはリニア駆動で脱出坑へ滑るように入って行った。
脱出カプセルは上り勾配の斜坑を暫く走った、時間にして12分くらい………
カプセルはスピードを落としステーションの様な所へ着いた。自分たちが乗ったカプセルの前には、先に脱出した者たちのカプセルが縦列で並んでいた。ステーションの狭い階段を上がって行くとシェルターの出口のような所へ辿り着いた。先に来た者たちは放射線防護服を着用して私達を待っていた。赤松司令以下、私達も同じ様に防護服を着用し、先頭の隊員がドアを慎重に開け、カウンターで放射能濃度を確認した。
「アレッ………???、こんなものかっ?」、と隊員は溢すように言う。
「どうしたっ?!」、と赤松はその隊員に聞いた。
「いやっ、………レベルは高いのですが、僅かです。」
隊員がそう返すと寺坂は機器を点検した。異常は無かった…
「機器に異常は無い……、取り敢えず出てみよう。」、寺坂は先頭に立ってドアの向こう、小さな島の展望台のような場所に出た。
遥か彼方の対岸を見ると、黒い煙が立ち昇っている…




