『戦いの終焉』
あまてらすシステムの放った高密度のBSは超光速で太陽系内へ広がり、敵性UFOを全て殲滅する。アトランティスの居る戦闘宙域に居たイギリス防空宇宙軍、SR-02〈バリアント〉、火星衛星フォボスで待機していた軌道ドック〈しきしま〉に置いてもそれは観測され、〈しきしま〉の艦長、林は人類の勝利を確信する。
一方、敵性UFOの消滅を確認したSCV-01リベレーターは再び月面へ降着し、ランドーはその損害を調べるが死傷者の中に和泉の名前が有ることに気が付く。更に追い打ちをかけるように、月面に墜落したTR-3Dのパイロット、エディ·スイングのKIA(Killed In Action:戦死)が救助に出ていたマーティン中佐によって報告される…
『戦いの終焉』
〈バリアント〉の損壊したCIC内では多数の負傷者が床に倒れていた…
操縦航法管制のシートに着いていたイングリットはセンターコンソールに伏して気を失っていた…
息苦しさでハッと気が付き、半身を起こすと直ぐに背部のヘッドキャノピーを取り出して被った。辺りを見ると数名の管制科員以外は床に倒れ、構造材は敵の攻撃で腐食変質し、損壊が広がっていた。下半身の膝から下を見たときイングリットは恐怖した。それは宇宙服もろとも石化し、軽石のようになっていて身体を動かすと“バキッ”と音を立てて崩れ落ちた。
「ウァアアアアーッ!!」、と彼女は悲鳴を上げた。
イングリットは破けた部分を慌てて気密テープで塞いだ。
(もうダメだっ…誰かっ、誰か助けてっ!!)
そんな思いの中、左舷から光の波のようなものが迫って来るのを彼女は見た。画像素子が損壊し、激しく画素を欠いたスクリーンがそれを映し出した。その光の波はバリアントを、そして戦域に浸透するようにして通り過ぎた。
(これはっ………)
次に遠くから管制科員の声が聞こえる…
“「TX波動確認っ、敵UFO動かなくなったっ!!」”
その声を聴いたあと、イングリットはシートにもたれるようにして再び意識を失った…
……………………………
光の波は火星衛星フォボスに待機していた軌道ドック〈しきしま〉でも観測され、波動特性から、あまてらすシステムが放ったものと判明した。軌道ドック〈しきしま〉CICでは火器管制が波動紋を検出、データストレージと照合して解析が進められた。
「林艦長っ、これは、あまてらすシステムのBS放射ですっ!!現時空間で放射、エネルギー密度アウトライヤーッ(無限上昇)!!」、と管制員は大声を発した。
「何っ、確かなのかっ!?」、そう言うと林はシートから立ち上がると火器管制の方へ走った。ドックステーション指揮官の山口も、確かめるためにそこへ走った。
「TXソナー最大レンジで敵の動きを調べろっ、急げっ!!」、と林は管制員にまくし立てた。
「ソナー分解能上げます、……」、と管制員。メインパネルのモニターに映し出された、敵性を示す赤く光る四角いターゲットマークは戦闘宙域から飛散して行く…、そして、それはやがて輝度を失い消滅していった。
「これはっ…、コントロールを失ったのかっ?!」、山口は管制員の背後から首を突き出すようにモニターに見入った。
「高次エネルギーで構成された敵のUFOはBSの放射で消えた、………山口、我々は、ーー勝ったんだっ!!」、林の言葉を聴いた管制各科員たちはシートから立ち、一斉に歓声を上げた。そしてお互いをハグし肩を叩き合った。
「航法管制っ、〈しきしま〉移動だっ、アトランティスの居る宙域へ全速で飛べっ!! 脱出ポッド及び避難艇に対し、誘導ビーコン発信、ドック要員は負傷者の収容に備えっ
!」、そう言うと林は山口の方を向いた。察した山口は笑顔で林に言った。
「分かってますよ、艦長。ランチの件…、半年と言わず貴方が此処に居る限りっ!」
それを聞いた林は何とも言えない嬉しい表情で山口の背中をバンッと叩いた。
………………………………
SCV-01〈リベレーター〉は敵UFOの消滅を確認し再び月面へ降着していた。
月面へ墜落したTR-3Dエディ機の捜索に出ていた救助用内火艇のマーティン中佐は目標ポイントに近づく…
リベレーターとデータリンクしたレーダー画面を見て、マーティンは墜落ポイントにかなり近づいた事に気が付き、コックピットキャノピーから外を伺った。しかし、太陽光の影に入った月面は真っ暗で何も見えない。そこに在るのは生命を否定する極低温と真空だった。
パイロットから声が有った。
「2時方向に磁気反応っ!! 中佐っ、クレーターの丘陵ですっ!」
「よしっ、注意して接近してくれっ!」
パイロットは内火艇のサーチライトを点灯し月面を照らし出した。月面にはまるで夜光塗料を塗ったように薄く青白い光を放つ破片が散乱していた。それを辿って行くと、月面に突き刺さった三角形の機体の一部と思われる大きな残骸が有った…
内火艇は残骸のすぐ横に降着し、マーティンらは装備を整えて艇外へ出た。残骸へ走ると残骸の鋭い破片に注意しながらセンサーで残骸内部を調べた。
(内部に…、コックピットかっ!? 人型が確認できる!)、マーティンらは慎重に折り重なった残骸を取り除き、その人型のところまで掘るように進んだ。そこで見たものは思っていた通り………
マーティンはパイロットと思われる人型の黒い物体の前に跪くと手で十字を切った。
マーティンは他の者にボディバッグを取りに戻らせた。
………………………………
月面に降着したSCV-01〈リベレーター〉で、ランドーは艦長室でSAIから送られてくる艦の被害状況を確認していた。艦体の損傷の他、喪失したアンドロイドと負傷者、………そして死亡者。
ランドーは眉間にシワを寄せながら、目を細めてそれらを確認して行った。
(デッキディレクター2名、避難民1名、……?)、その避難民には頭に(G)と表記され、それは政府関係者を示していた。名前を読み進める…
「Izumi Soushirou……エッ、これは副大臣のMr.和泉の……」、ランドーはメディカルセクションへ通信を開き、この名前の者を再度確かめた。最初、アンドロイドが出たが、途中でリードマン大将が代わった。
「大将、そちらに居られたのですかっ!?」、ランドーが聞くとリードマンは顔を強張らせて次の事を伝えた。
「防衛省副大臣のMr.和泉は亡くなった……敵のUFOが突っ込んで通路が押し潰されそうになった時に大統領を庇った…」
「大統領はっ、他の者はっ?!」、とランドー。
「大統領を含め、他の者は軽傷だ……」、そう聞くとランドーは、ありがとうございましたっ、と言ってモニターへ敬礼しチャンネルを閉じた。机に肘を突き、項垂れて両手で頭を押さえた。
そんな時、通信が開き、マーティン中佐から報告が有った。
“「ランドー艦長、TR-3Dパイロット、エディ·スイングを回収……」”
「………どっちだ?」、ランドーの問いかけにモニター奥のマーティンはしばらく黙り、厳しい表情で言った。
“「KIA(Killed In Action:戦死)です…」”
ランドーは黙って片手を浅く挙げて合図を送ると通信を閉じた。
「ウッ、…ウウッ………フゥ…ウ…」、ランドーは机上に半身を伏し嗚咽を漏らした。
CICにもマーティン中佐の報告は入り、それを聞いたバートルは自分の正体が抜けたようになった。シートから立ち上がったまま、焦点の合わない目はスクリーンに映し出される月面と虚空を彷徨った…
◆
地上に置いても異変が有った…
〈あまてらす〉がインターセプトした目標は汎ゆる兵器システムが無効化された。艦船の動力は停止し、熱核反応炉の火さえ消えた。また、小銃に至るまで弾丸のパウダー(火薬)は点火しなかった。反勢力の陸海空軍は一瞬で機動力と戦闘力を失った。航空機は全て墜落し、搭乗員は脱出を余儀なくされた…
日本防衛省の陸海空の自衛隊は反撃を開始したが、反勢力は逃げることも出来ず、相次いで投降していった。また、陥落して武装を封印されていたグアムのアンダーソン統合機動宇宙軍基地(工廠)やアメリカアリゾナのエドワーズ工廠、オーストラリア、ヨーロッパに点在する統合宇宙軍基地では電子システムと物理的封印が解けたことからAIによって自動戦闘モードに入り息を吹き返した。
ヨーロッパ方面ではロシア連合国へ進攻を開始、東アジア、太平洋方面は日本防衛省の自衛隊とグアムアンダーソン基地から出撃した艦艇と航空戦力により制圧を行う。
アメリカ本国でもエドワーズ基地から飛び立った航空戦力が速やかにアメリカ本土全体に展開し、遂に国の重要政府機関が集中するワシントンを包囲するに至った。これら世界で起こった統合機動宇宙軍による反転劇はエドワーズ統合機動宇宙軍本部に在る、ICS(Integrated Combat System:統合戦闘システム)のリンクで粗、無人で行われた。
これら戦力を監視していた兵士は、それを止めることも出来ず投降、捕らわれていた統合機動宇宙軍の兵士たちは収監されていた施設から出て、代わりに反勢力の兵士を其処へ押し込んだ。




