『其々が縣ける命』
軌道ドック〈しきしま〉では林艦長とドックステーション指揮官の山口がバリアントの帰還について話し合う。山口はバリアントの状態から帰還は難しいとしたが、林はこれを否定し、山口の言うことが事実になれば艦長の椅子を譲ると言って返す。リベレーターでは接近する敵性UFOに対し最後の反撃が準備される。ランドーと元TX機関操作員のエディは専用機のTR-3Dに搭乗しリベレーターから発進する。一方、地球の日本日立宇宙工廠では〈あまてらす〉と他の3艦のエネルギーラインの確立が急がれたが、その間、反勢力の潜水艦から発射されたSLBM(Submarine-Launched Ballistic Missile:潜水艦発射弾道ミサイル)が工廠を襲う。
『其々が縣ける命』
〈しきしま〉のキャプテンシートに座っている林の元へ、ドックステーション指揮官の山口 量2等宙佐が来た。
「バリアントは必要な箇所さえろくに修理を行っていませんっ……、彼等は戻って来れるでしょうか?」、と山口は不安気に言った。林は加熱器の吸い終わったカートリッジを抜き、ポケットにねじ込むと、新しいのを差し込んだ。山口は林のポケットが膨らんでいるのに気が付いた。
(この人、こんなに煙草を吸ってたか?…)
林はフゥーッと煙を吐くと山口の方を向いた。
「戻って来れるでしょうかっ?!………君もドック作業のエキスパートならどうなるか分かっているんじゃないかっ。君が言った言葉は戻って来れると来れないの境目だっ、……それも相当大目に見てだ。……山口、イギリス人はこんな時、何をやろうとする!?」、林の質問に山口は頭を捻り、ウゥーンッと考えたあと次のように答えた。
「イギリス人は何かが二極化する時によく賭けをしますね…」、林は山口の的を射た答えに表情を崩した。
「今回の件ではどちらに賭けるね?」、と林。
「帰って、……来ないに賭けます。」、林はシートから立ち上がると正面のコンソールに手を着いて言った。
「この勝負、君の負けだ、………私は帰って来る、に賭けた。例え99%の不安材料が有っても残り1%の希望を支持するのが戦場と言う現場の鉄則だ。最初から諦めに自分を置くな。残り1%が状況を変えることも有る…」、林の言葉に山口は、申し訳ありませんが…、と言って次を話した。
「艦長、私は技術屋なので、……では何か賭けますか?」
「人の命をネタに不謹慎な話だがっ……良かろうっ!何を賭けるね?」
「……ランチ半年分…」、山口の言葉に林は吹いた。
「小っさっ!!、なんだそりゃ、……じゃあ、私はこの椅子を賭けようっ!」、そう言って林はキャプテンシートを指さした。
◆
SCV-01〈リベレーター〉CICでは接近する敵UFOに対し、静かに迎撃の準備を進めた。既に捜索系以外に回すTXエネルギーは先のBS発射で消耗しきっていた…
艦長のランドーは艦内にカインの避難民と共に居る、元TX機関操作員のエディ·スイングにニューラリンク専用チャンネルで呼び掛けた。
”エディ、エディ…、ランドーだっ、デッキステーションへ来てくれっ!TR-3Dを出すっ……、これは強制じゃない、……自分で選んでくれ。15分後だっ!“
ランドーはエディへ呼び掛けを終えると火器管制のフスター少佐へCICの指揮を任せた。フスターはランドーがTR-3Dで出る事を聞くと、何とも言いようのない表情を浮かべた。
「艦長自ら行かなければなりませんかっ…」
「リベレーターのΔ-9は全てアトランティスへ回した……、艦載機で残っているのはTR-3D、私の専用機だけだ……」、ランドーがそう言うと動力管制のバートル大尉が席を立ちランドーに近づく…
「TR-3Dっ、……艦長っ、お姉さん、いやっ、エディを行かせるんですかっ?!」
「今回は強制ではない、……本人が決める事だ、彼女にはそう伝えた…」、ランドーはバートルにそう返すと、フスター少佐にTR-3Dの発進準備をデッキステーションへ伝えさせた。
ランドーがCICを出ていくとフスター少佐はデッキステーションへ継なぎ、ライトニング中佐へTR-3Dを準備するよう伝えた。
「CIC火器管制よりデッキステーション、……ライトニング中佐、TR-3D発進準備をお願いします。艦長が出ます…」
………………………………
ランドーがデッキステーションへ降りた時、既にエディはTR-3D専用のパイロットスーツを着て待っていた。
「来てくれたんだな、エディ……」、とランドーは呟くように言うと彼女をハグした。
「レナート、私は自分で出来ることをする、………今、皆を守るために……新しい世界の人柱になった果南ちゃんを思えば、私の出来ることは小さいけど…」、それを聞いたランドーは果南と両親の別れ際に自分が行った事を思い出した…
「私は自分がやった事に対して、返せる分を働かないといけない。……準備をする、待ってくれ。」、そう言うとランドーはパイロットスーツを格納してあるコンパートメントへ入った。
CICではフスター少佐が発進準備完了を確認した。180度開口スクリーンの端にスーツを着込んだランドーとエディの姿が映し出される。
”「上部露天甲板っ………TR-3D、位置に着いた。フスター少佐、後を頼むっ!」“
フスターはもう、言う言葉が無く、シートを立ち、敬礼でランドーを見送った。バートル大尉も同じようにシートから腰を浮かせセンターコンソールに手を突いてエディに声を発した。
「お姉さんっ、必ず……」、バートルはそれ以上言葉にならなかった。
「大尉さん、………ありがとう…」、とエディ。
「TR-3Dっ、発艦っ!!」、フスター少佐の声が、今は静かなCIC内に響くと、TR-3Dは電光のように飛び立った。
フスターはそれを見届けると全艦へ発令した。
「全対空火器及び重粒子砲はクレーター上空に入った敵を叩けっ!絶対に撃ち漏らすなっ!!」
リベレーター艦舷に配置されている対空火器群と重粒子砲は仰角を高く取り、天を仰いだ。
◆
一方、日立宇宙工廠の地下ドックへ戻った〈あまてらす〉は富士、八ヶ岳地下工廠に在る〈せおりつ〉と〈つくよみ〉、〈そさのを〉とのTXエネルギーコンタクトを急いでいた。日立宇宙工廠のエネルギー管制センターでは技術部門の寺坂三等宙佐が新設されたエネルギーラインのチェックを急いだ。
「コンタクトは最小から順次高くしていくんだっ!ラインに異常が無いか調べろっ。僅かな誤差でも完全な出力は出せないぞっ!!」、寺坂の声に管制員たちはスクリーンに映し出されるデーターを睨みながら無言で頷いた。
”「寺坂さんっ、〈あまてらす〉は最大出力で待機中っ、まだラインは確立出来ませんかっ!?」“、と五十鈴の声が響く。
「急がせないでくれっ!今回新設されたエネルギーラインは試験を行っていないっ、失敗は許されないっ!」
”「了解したっ…」“
発令センターに居た司令の山元は自分の腕時計を見た。
(〈あまてらす〉が帰還してから時間が掛かり過ぎているっ……グアムのアンダーソンは陥落した、残るのは日本だけだ…)
センター内のレーダー管制から声が上がる…
「岩国、三沢基地、反勢力の極超音速ミサイル着弾っ!! 滑走路使用不能っ!!」
「空自のF-3はどうなっているっ!?」、と山元の横に居た副官の宗方は怒鳴った。
「航空管制機AWACS(Airborne Warning and Control System)を失っていますっ、ジャミングも酷くて運用が上手く行っていませんっ!!」、と管制員の声が返ってきた。
「クソッ……、とにかく工廠上空には敵を入れるなっ!!」、と宗方は更に怒鳴った。
「小笠原東方500km、海中複数位置から弾道弾の発射を確認っ!」、管制員より新たな報告が発された。
「戦略原潜かっ、海自のイージスはっ!?」、と山元。
「PAC-4で迎撃っ……、海自の潜水艦隊は点在していて敵の数に対応仕切れませんっ!!」
「落下ポイントはっ?!」
「待って下さ……、此処ですっ!! 着弾推定、240秒っ!!」、と管制員の声が裏返った。山元は大深度地下のエネルギー管制センターへ継なぎ、責任者の赤松三等宙将を呼び出すと早口で次の事を伝えた。
「赤松司令っ、間もなくSLBM(Submarine-Launched Ballistic Missile:潜水艦発射弾道ミサイル)が此処へ着弾するっ、発令センターがヤラれたらそちらで指揮を取れっ!!」
”「何だとっ、核を使うのかっ!!」“
「潜水艦発射型だっ、ほぼ間違いないだろうっ!どうあっても我々を潰すつもりだっ、…”迎撃間に合わないっ、複数弾接近っ、着弾まで僅か…“ クソッ、赤松っ、頼むぞっ!!」
管制員の声が背後で聴こえ、そう山元が言い終わった直後、赤松の居た管制センターは大きく揺れた。
”ズズズズズズズズズゥーン……“
地下ドック内が地震に遭った時のように揺れ、天井のコンクリートの破片がバラバラと落ちた。
「司令っ!、山元司令っ!!」、赤松は叫んだが山元の声は返ってこなかった。




