『統合機動宇宙打撃群艦隊の最期』
月面のクレーターに身を隠すリベレーターは打撃群艦隊の様子を逐次確認していた。戦域に居るSCV-02〈フリーダム〉のエネルギー反応が消え、機動母艦SMS-01アトランティスと高速遠征輸送艦ST-EPF-02〈アークセイバー〉の窮地を知ったランドーは残ったTXエネルギーコンデンスで、打撃群艦隊に対し最後の支援攻撃を試みる。しかし、依然として多数の敵UFOが戦域を動いていた。やがて、母艦アトランティスからのシグナルが消え、絶望の淵に立たされる中、火器管制のマーベリット大尉が戦域に友軍のIFFビーコンを確認する。それは一時的に戦列を離れ、火星衛星フォボスに待機していた軌道ドック〈しきしま〉で修理を行っていた筈のイギリス防空宇宙軍の機動空母SR-02〈バリアント〉だった。余りに早すぎる戦線復帰にランドーは疑問を抱く…
『統合機動宇宙打撃群艦隊の最期』
SCV-01〈リベレーター〉のCICでは、TXソナーとスキャナーにより打撃群艦隊の戦闘状況が逐次、分析報告されていた…
「SCV-02フリーダムっ、アトランティスから離れたっ!戦線を離脱っ……、艦隊行動不能!!………母艦アトランティスと輸送艦02、アークセイバーもTXフィールドが弱体化していますっ!! 機関、正常稼働していないっ!」、火器管制のマーベリット大尉はTXソナーと状態を示すスキャナー画面をスクリーンにオンボードして叫んだ。
それを確認したランドーは直ぐさま動力管制のバートル大尉にBS(Break Shot:指向性破壊波動放射)発射が可能か問うた。
「大尉っ、現在のTXエネルギーコンデンスとBSの発射可能回数はっ!?」
「全出力で1回、破壊可能出力、最下限は33%で3回の使用が可能ですっ!」、とバートルは返した。ランドーは横に居るリードマンの方を向いて打撃群艦隊へ支援攻撃を具申した……、彼は少し項垂れた感じで黙った。
「リードマン大将っ!!」、とランドーはリードマンに声を大きくして呼びかけた。
「〈あまてらす〉は既に居ないっ、これでTXエネルギーを使い切ったら我々は防御の手段を失う……」
「しかし大将っ…!!」、とランドーは食い下がった。リードマンは顔を上げ、火器管制のフスター少佐に指示し、BS最大放射で敵の掃討数を割り出させた。
「敵の残存数っ……」、言い詰まったフスターの横でマーベリット大尉が補足した…
「兄さん、少佐っ!、物体化した敵UFOの個体数は378っ、高次エネルギー換算で凡そ8400DDH(Dimensional Dynamic Heat amount:次元動態熱量)!!」、フスターはマーベリット大尉にサンキューっといった感じで片手を浅く上げたあと、リードマンへ報告した。
「敵の総高次エネルギー量に対して63%の破壊消滅が可能ですっ!」
「63%……、ヴゥッ…」、とリードマンは表情を歪め、唸った。
「大将っ、分かっていますっ。リベレーターが避難民を抱えている事をっ! しかしっ、このままでは何れヤラれますっ!!」、とランドーは迫った。
リードマンが黙っている間にマーベリット大尉が次の報告を発した。
「SCV-02〈フリーダム〉、エネルギー反応消失っ……脱出カプセルの反応も消えていくっ!! ST-EPF-02〈アークセイバー〉、行動不能っ、アトランティスから離れるっ!!」、と大声で発した、それは悲鳴のように聞こえた。
リードマンはやっと顔を上げ、下令した。
「BS(Break Shot:指向性破壊波動放射)っ、最大出力で発射せよっ!!」
ランドーは直ちにフスター少佐にBS発射を命じた。
「TXエネルギーコンデンス、索敵系(TXソナー)を残し全開放っ!!」、と動力管制のバートル大尉はフスター少佐へ発した。
「エネルギーコンタクトッ、確認したっ……敵UFO、レンジ内、現時空間及び高次にターゲットトラック設定っ……インターセプトッ、ターゲットロックッ!!」
リベレーターの全てのTXエネルギーはBSへ回され、全ての索敵防御エネルギーが消えた…、熱核炉のエネルギーが切替わる瞬間、全艦内の照明が揺らいだ。
「BSっ、…ファイヤッ!!」、とランドーが発すと同時に艦体中央底部に有るTXエネルギーコンデンサーは指向性破壊波動を一気に放射拡散させた。艦体を包むエネルギーは一瞬で虚空へ消えた。
目に見えない強力な力は間を置かず、多数のターゲットを同時に破壊した。
「…ターゲットデストロイッ!! 設定トラック内、敵UFO沈黙したっ!高次エネルギーッ、完全消去っ!!」、とフスターは発した。空かさずマーベリット大尉が残存数を報告した。
「現時空間内、敵UFOのダメージは78%っ、敵の速度落ちたっ!敵の残存数は125っ!! スターシップクラス3っ、残り小型っ!」、とマーベリット大尉が発した。
現時空間に残る敵UFOは高次エネルギーを失いながら、尚も動き続けていた。
◆
敵との混戦状態にあった母艦アトランティスは、リベレーターの支援攻撃を確認していたが、既にダメージは深刻な状態に達していた。CICではあちこちでエネルギーラインの切断や構造部の損壊で火花が飛び散り、煙が充満していた。残った管制科員は宇宙服の背部からヘッドキャノピーを取り出し、被るとシステムの復旧に当たったが、もうどうしようもないくらいに損壊していた。SAIは損傷して応答せず、艦体の制御は失われつつ有った。それでも辛うじてTX機関が生きているのか、艦体を包む薄い防御フィールドにより、艦内の大気圧が保たれギリギリで生存空間を維持していた……リベレーターの支援攻撃により敵UFOの足は遅くなったが、それでも執拗にアトランティスを襲い続けた。アトランティスの対空火器は疎らに反撃を繰り返すが、もはや効果は無かった…
「火器管制っ、撃ち続けろっ!! 手を緩めるなっ!」、とカートライトは叫び続ける。私は負傷した航法士をパイロットシートから引き摺り出し、顔を上げて前方のスクリーンを見たとき、1機の敵UFOが物質壊変光線を放射しながら突っ込んで来るのが見えた…
……………………………
リベレーターCIC……
「………アトランティスッ、………沈黙した…艦体シグナル喪失っ!…」、まるで、そんな事がっ!?、というような声でマーベリット大尉が言った。
リードマンは目をカッと見開いたまま姿勢を硬直させる、統括指揮エリアの手摺を握る手に血管が浮き上がっていた。
「クッ!……大尉っ、アークセイバーはっ!?」、とランドー。
「………、僅かにIFFに応答有りっ……これはっ!?、別の反応っ!…SR-02!?……、ランドー艦長っ、戦域に友軍シグナルを確認っ!! イギリス防空軍の機動空母SR-02〈バリアント〉と艦載機の残りですっ!」、マーベリットは驚きで声を裏返した。
ランドーとリードマンは開口スクリーンにクローズアップされた友軍のバリアントを身を乗り出すように見た。
(バリアントは中破して艦隊から離脱していたんじゃないのかっ!?)、とランドーは思った。リードマンはその画像を凝視し、次のように言った。
「バリアントは艦隊から離れて、火星衛星フォボスに退避している軌道ドッグ〈しきしま〉へ向かった筈だっ……、修理はっ…しなかったのかっ?!」
ランドーはマーベリット大尉に画像を更にクローズアップするよう指示した。
「了解っ、ソナー分解能を上げますっ!」、マーベリットは画像の精度を上げた。そこで見たバリアントは明らかに修理はされていなかった。艦体の各所に破壊痕が確認出来た…
ランドーはマーベリット大尉にバリアントとの交信が可能か問うた。しかし、大尉の答えは冷たかった…
「ダメですっ…、ノイズキャンセルを噛ましても向こうに届きませんっ…こちらのTXCI(Thing X Communication Interface:通称タクシー)の出力が全く足りていないっ…」、と大尉は溜め息を吐いた。それを聞いた動力管制のバートル大尉は苦い顔をした。TXエネルギーコンデンスは残り僅かだった…
「バリアントの艦長はストライカー少将だったなっ…」、とリードマンは呟くように言った。
ランドーは難しい顔をして腕組みし、バリアントの様子を見続けた…
………………………………
イギリス防空軍SR-02〈バリアント〉CIC内。
「ストライカー提督、アメリカ統合機動宇宙打撃群の中にSCV-01の艦影は有りませんっ、IFFビーコンは遥か遠方から発信されていますがステルスモードですっ!TXCIは向こうの受信エネルギーが足りていないようで通信は出来ませんっ!!」、と通信管制が報告した。
「戦域を離脱して身を隠しているのかっ?……火器管制、打撃群艦隊の状況はっ!?」、と艦長のストライカーは聞いた。
「母艦アトランティスは沈黙……、周囲に敵UFO多数っ、数およそ120っ!」
「…航空隊は先行して小型UFOを叩けっ!! BSは撃てるかっ!?」、とストライカー。
「本艦は先の戦闘でTXコアを損傷していますっ、エネルギーコンデンスは残り45%、1回が限界ですっ!」
「構わんっ、発射準備せよっ!!」、とストライカーは火器管制へ下令した。操縦航法管制のL·イングリット大尉は後を振り向きストライカーへ自分の意見を具申した。
「提督っ、我々の艦載機はロケット(噴進)機ですっ、艦も損傷していますっ!アメリカ打撃群の高次元戦闘機は既に壊滅して……」、イングリットが言い終わらない内にストライカーは立ち上がって彼女に言い放った、それは激しい罵倒にさえ聞こえた。
「黙れっ、大尉っ!! 私に意見をしようというのかっ!本来なら君は軍事裁判に掛けられる人間だっ、要員が全く足りていないからやむを得ず国防大臣と私が統合機動宇宙軍の軍事裁判院に頭を下げて引き抜いたっ!パイロットの席に着いているだけでもありがたく思いたまえっ!!」、とストライカーは激しくまくし立てた。
イングリットは奥歯を噛み、失礼しましたっ、と言うと再び前を向いた。
(私のリベレーターでの過ちは今も引き摺っている……、私が望んでいた主力空母のパイロットは、もう意味がない。全て自分の身から出た錆なんだ…)、イングリットは心の内で自責の念を重ねた。パイロットの席に着いてはいるが、其処にはイギリス防空軍の栄光など一欠片も無かった。それどころか屈辱に塗れていた…
ストライカーはCIC管制科員に告げた。
「諸君っ、此れより最後の攻撃を行う!! 座して死すより撃って出るのだっ、我々が戦列を離れている間にアメリカ打撃群艦隊は敵によって沈黙したっ!我々はその時間を返さなければならないっ、……イギリス防空宇宙軍に栄えあらん事をっ!全艦、突撃せよっ!!」
こうして、イギリス防空宇宙軍のSR-02〈バリアント〉は敵UFOの残存する宙域へ突っ込んで行った…
◆
火星衛星に退避していた軌道ドッグ〈しきしま〉のCICでは林 稔二等宙将が臍を噛む思いで電子煙草を吹かしていた。
〈しきしま〉は一旦、バリアントを入渠させたが、ストライカー提督は艦隊から落伍した事に激しく苛立ち、十分な修理を行わないまま再び出渠したのだった。〈しきしま〉の責任者、林は強く引き留めようとしたが、彼はそれを拒んだ。
(……ストライカーのバカ野郎めっ……ろくな修理もせずに出て行きやがったっ………クソッ!!)




