『カートライト最期の決断』
高次元戦闘から三次元空間にフェードアウトしたSCV-01リベレーターは機動宇宙打撃群艦隊を自艦の後方に確認し、戦線が既に絶対防衛圏にまで後退している事を知る。艦長のランドーは直ちに戦域へコースを取るよう下令するが、TXソナーの情報で艦隊に欠落が出ているのが分かる。基準航法最大戦速で戦域へ向かう中、破壊され生存者の居ないSCV-03インデペンデントと高速遠征輸送艦ST-EPF-01スピアヘッド、03アックスバーンの残骸を目撃する。カインの多くの避難民を乗せたリベレーターは戦域を迂回し、月軌道へ向かう…
一方、機動母艦SMS-01アトランティスの発令センターでは、敵UFOの攻撃により、SCV-02フリーダムが艦隊から落伍した事で、カートライト提督はBS(Break Shot:指向性破壊波動放射)による最後の反撃を試みる。
『カートライト最期の決断』
高次元でHZMを使い切ったSCV-01リベレーターは、三次元空間へフェードアウトした後、直ちに対空戦闘へ入った。そこで見た光景は漆黒の宇宙空間の至るところで空間が裂け、高次元のエネルギーが漏れ出ている……、例えるなら黒い空間の背景に夕焼けのような赤い光が不規則なオーロラのように蠢いている感じだった。
「周囲に高次元戦闘痕っ!!」、と航法管制のアスカが叫ぶ。空かさず火器管制のマーベリット大尉が艦隊の位置と戦力状況を報告した。
「TXソナー、高次、現時空間で戦闘が展開されていますっ!旗艦アトランティスの位置っ、……本艦後方0.02AUっ、第2防衛圏より後退しているっ!!」
ランドーは動力管制の方を向いて言った。
「バートル大尉っ、TXジャンパーは可能かっ!?」、とランドー。
「待ってっ………、ダメですっ!、リベレーターの超次空間巡航で機関操作員(五十鈴宙佐)が相当消耗していますっ!!」
「TXエネルギーコンデンスはっ!?」、とランドー。
「現在83%っ!!」
「…………」、ランドーは顔を俯け、軍帽を深く被り直した……、次に顔を上げると次のように指示を出した。
「マーベリット大尉っ、TX防御フィールドを艦前面に集中せよっ!アスカっ、基準航法で最大戦速っ!!」
「了解っ!! 基準航法最大戦速っ!!」、とアスカは復唱。同時に艦体が前方へ大きくスライドするのが分かった。
「コースターンッ、軌道変更っ、………回頭角、ゼロ設定完了っ!SAI軌道自動修正っ、……コース設定完了したっ!主機、フランクッ(限界出力)!!」、アスカが発した直後、艦体に大きな横Gが掛かる。次に動力管制のバートル大尉が機関の状態を報告する…
「熱核主機1番は使用不能っ、……1番のエネルギーを残りの主機へ回すっ!!、………マークっ、エネルギーライン切り替えっ、ラインの加熱に注意しろっ!」
「サーキットマグネター出力上げたっ!! 対応完了っ!」、とマーク中尉。
ランドーはマーベリット大尉に機動打撃群艦隊の戦力状況を確認させた。
「艦影はアトランティスの他、SCV-02フリーダム、ST-EPF-02アークセイバー、04アイアンロッド、………群影はこれだけっ!? 艦長っ、SCV-03インデペンデントと高速輸送艦2隻が居ませんっ!!」、マーベリット大尉はコンソールに顔を近づけ、横に居たフスター少佐もシートから離れ、コンソールに標示されたTXソナー画面を確認した。
「何っ?!………」、思わずシートから腰を浮かすランドー。そこへリードマン大将がCIC内へ入って来た。
「遅くなった、………どうしたっ?」、ランドーは翻すようにリードマンの方を向いた。
「リードマン大将、戦線は後退しています。打撃群艦隊も欠落した艦が有りますっ!」
「欠落っ、だとっ!? IFFビーコンは拾えないのかっ!」、リードマンの言葉にランドーが火器管制の方を向くと、マーベリット大尉は即座に答えた。
「SCV-03、ST-EPF-01、03、確認できませんっ、応答無しっ……」
リードマンは黙り、腕を組んで目を瞑った……、その時、航法管制のアスカが発した。
「前方150000kmに大型障害物っ、SAIコース変更っ!!」
「小惑星かっ!?」、とランドー。空かさずアスカは返した…
「個体数3、大きさは最大で800m、…TXスキャナー走査………、データーをスクリーンへオンボードっ!」
180度開口スクリーンにTXスキャナーで分析された画像か映し出され、それを見たリードマン以下、CIC管制科員は息を呑んだ……、細かいデーターを見ずとも、それが形状で艦隊から欠落した3艦だと直ぐに分かったからだ。原形は辛うじて留めていたが、まるで海底から引き揚げられた沈船のように艦体はボロボロで、一部石化している様にも見えた…
「形状SCV-03、ST-EPF-01、03と99%で合致、……エネルギー、及び生体反応無しっ!TXコア(機関及び操作員)反応無しっ!」、SAIとリンクしたアスカの冷たい機械音声がCIC内に響いた。
「本艦、障害物を避けます、右舷20度、距離5000、45度、65、……90、障害物クリヤッ…」
右舷に流れてゆく3艦の残骸を全員がその方を向き追った。リードマン大将はゆっくりとした動作でそれに向かって敬礼した…
ランドーは敵の残存数をマーベリット大尉に聞いた。マーベリット大尉は汗を額に滲ませながら、「相当数………」、としか言わなかった。
ランドーはリードマン大将に具申した。
「大将っ、我々は避難民を収容していますっ!このまま戦域に入れば………」、言い終わる前にリードマンは次のように発した。
「分かっておるっ!!……回避だっ!」、それに対して管制科員たちはエッという顔をした。
「分からんのかっ!! 貴様らぁっ!コース変更せよっ、戦域には入るなっ!!」
全員、ハッ、と言ってコース変更作業を始めた。既に戦域には相当近づいていた。
「現在位置、既に絶対防衛圏(地球公転軌道)に入っているっ!………」、アスカは追い詰められるように発した。
「この宙域では避難できる場所がないっ…」、と火器管制のフスター少佐が吐いた。ランドーは顔を上げて航法管制のアスカ(SAI)に下令した。
「月軌道に進路を取れっ!!」
動力管制のバートル大尉が報告。
「〈あまてらす〉回復したっ!TXジャンパー可能ですっ!!」
ランドーはオープンチャンネルで〈あまてらす〉の五十鈴宙佐へ問うた。
「五十鈴宙佐っ、これより月軌道へジャンプを行う、行けるかっ?!」
“「大丈夫っ…行けますっ!」”、と五十鈴の枯れた声が返ってくる。
「よしっ!SAIっ、TXジャンパー、月軌道へコース自動算定急げっ!!」、とランドーはSAIへ下令した。
◆
戦線の後退を余儀なくされた機動宇宙打撃群艦隊は、敵の漸減を図りながらも、その数に圧倒されつつあった…
機動母艦SMS-01アトランティスの発令センターでは敵の対応に苦慮していた。
「ロバートソンッ、Δ-9の残存機数はっ?!」、とカートライト提督は私に問うた。
「残り24機っ!、前衛線も縮小していますっ、………このままでは前衛線を突破されるのも時間の問題ですっ!!」、と私の声は裏返った。
“「前衛線、突破されたっ!! 敵小型UFOっ、突っ込んで来るっ!!」”、と航法管制から声が上がった。
後退している艦隊の最後部にいたSCV-02〈フリーダム〉は激しい対空戦闘で応じたが、TX機関の出力が落ちているのか、TXジャマーによるUFOの機動封殺には至っておらず、簡単に対空火器の曳光の中をくぐり抜けられた。
UFOは接近すると奇妙な光を照射し、フリーダムの艦体を舐め回すように動き回った。光の照射を受けた部分は装甲が泡のように膨れ上がり、各所で爆発が発生した。
フリーダムのL·ダグラス艦長はTX機関に対しジャマーの最大出力を維持するよう命じたが、長時間の戦闘で機関とその操作員は限界を超えていた…
機関操作室で機関と操作員の状況を監視していたGEバイオエレクトリックの技術者はCICへ叫んだ。
「ダメだっ、艦長っ!操作員と人口生体脳カプセルのコネクティングリキッドが沸騰しているっ、操作員が死ぬっ!!」
「………クソッ、ダメかっ…」、呟くように吐くとダグラスは火器管制に向けて発した。
「Δ-9をこちらへ回せっ!! 対空兵装だけでは……」
“ ズズズズズズズズズゥーンンンッ……メリメリメリ… ”、と艦体が振動音と共に金属が引き裂かれる様な音が伝わった。
「艦長っ、艦体がっ!、艦体の強度が低下して行きますっ!!」、と航法管制が悲鳴を上げた。
「高次エネルギーの物質壊変かっ………もう艦は保たないっ!!」
激しく艦が振るえる中、ダグラスは統括指揮エリアから身を乗り出して手摺を強く握りしめた。
………………………………
“「フリーダムよりアトランティスッ!! 敵の攻撃で損害甚大っ!艦隊行動不能っ!!……」”
オープンチャンネルでダグラス艦長の声がアトランティスCICに響いた。続けて火器管制から声が上がる…
“「前衛線崩壊っ!! Δ-9隊、対応不能っ!敵、対応数の上限を超えたっ、火器管制、SAI対応出来ないっ!!」”
「もう飽和状態だっ、……ロバートソンッ、BS(Break Shot:指向性破壊波動放射)準備っ!!」、とカートライトは最後の決断を下した。
私は直ちに火器管制と艦隊各艦へBSシーケンスに入るよう下令した。




