「暫しの休息」
実戦評価の後、艦内のラウンジでアンドロイドのサンディと陸戦隊のライト少佐やジール大尉を交えて帰還祝いの打ち上げを行うライトニング。暫くして陸戦隊の多くの者がラウンジにやって来る…
CICでは操縦航法管制の飛鳥大尉と火器管制のフスター大尉と少尉(妹)が暫しの時間を寛いでいた。その中で艦長のランドーについて話が挙がる。何気なく言った言葉をフスターは理解していなかったが、それはランドーの核心に迫るものだった。
「暫しの休息」
ライトニングの前に現れたのは陸戦隊のシャーマン・ライト少佐とジール・パットン大尉だった。
ジールはライトニングに軽く敬礼をするとライト少佐に連なって椅子に腰を下ろした。
「どうだった…」とライトニングはライト少佐に尋ねた。
「まあ…言わなければならない事は伝えた。」とライトは答えた。
彼もジールも暗い顔でスッキリしない感じだったのでライトニングは取り敢えずサンディに二人分の夕食とビアを注文した。サンディは頷くと席を立ちラウンジのカウンターの方へ離れた。
「本当にお疲れだったな……俺にはこれくらいしか言えないが。ジール大尉、君とこうして約束を果たせた事を嬉しく思っている」とライト二ングは彼女に言った。
「約束?」とジールは首を傾げた。
「帰ったら打ち上げしようって言ってたじゃないか…忘れたのかw」
「ジョン、彼女は少し混乱している。俺が彼女の部屋を訪ねた時、本当に酷かったんだ」とライトは答えた。
「………」ライトニングは黙った。
ライトは黙ったジョンを見てこう言った。
「ジョン、気を使わなくていい、普通に話してくれ。俺たちは初めての実弾射撃(実戦)で少し気が滅入ってるだけだ……一カ月もすれば慣れる」
「そうか…」ライトニングが次を言おうとした時、サンディが二人分の食事を持ってきた。二人の前に夕食とビアを置いた。二人は皿とジョッキのカバーを外す…
サンディはライトニングの横に座るとジョッキを手に取り三人に言った。
「お仕事お疲れ様でした!私はこうして貴方たちと会えたことを心から嬉しく思っています。」まるで取って付けたようなフレーズだったが、ライトとジールは表情を崩した。
「ありがとう、SAIだな…では、君の…名前はサンディ?だったかな。君の言葉で言ってくれ」とライト。
「私はお二人の帰還をお祝いします。ジョンは貴方たちにとても会いたがっていたのよw、特にジールさんの事を気にしてたみたいw」とサンディは言葉を崩すとクスクスと笑った。
「俺、そんなこと言ったかな…あぁ、提督の部屋からジール大尉と一緒に自分のエリアへ帰る時の事か!」とライトニングは気が付いた。
「こうして皆で会えたことをお祝いしましょう❣」サンディはそう言うとジョッキを持って腰を上げた。
皆は腰を上げるとジョッキを持つ腕を前に伸ばした。そしてライトニングは次のように言った。
「お互いの帰還を祝し、乾杯っ!」
サンディと三人はお互いのジョッキをカキンッと軽くぶつけるとジョッキを仰ぎ、空になるまで飲み切った。
「プハァ~ッ、美味いなぁ!」とライトニング。
「ああ、凄く美味いな……こんなに美味く感じたのは初めてだ。」とライトは言う。横に居たジールもジョッキを両手で抱えるように持ち、しみじみと呟くように言った。
「夢じゃない…少佐、私は此処に居るんですね。」
「時間が許せば、また打ち上げをやろう…互いを確認するために。」とライトニングは彼女に言った。
そんな時、ラウンジの入口に居たアンドロイドがカウンターに向かって叫んだ。
「陸戦隊の方、四十名様入ります。ビア、四十用意して!」
ランダー隊のクルーガー少佐とフレデリック少佐を筆頭に大勢がラウンジへ入って来た。そしてライトニングたちのテーブルを取り囲んだ。
「えっ、何だ?」とライトニングは訝しがった。すると「?」な顔でクルーガー少佐が返した。
「いやぁ、今日はライトニング少佐の奢りだって聞いたから…」
「ちょっと待てっ⁉ おい、ライト、これはどういう事だ?」ライトニングは慌てた。
ライトは少し申し訳なさそうな顔をして口元を緩める。
「彼と賭けで負けちまったんだ、負けたら今回、戦闘に出た隊員に奢るって約束したw」
「で―――、なんで俺なんだ???」とライトニングは聞いた。
「ジョンが今日一番のムードメーカーだからさw」笑いながらライトは言った。周りを取り囲んだ者は彼に向かって敬礼し、揃って次のように発した。
「ありがとうございます!ライトニング少佐殿 ‼ 」
この勢いは、もうどうにもならないと感じたライトニングはサンディを引っ張ってカウンターの会計へ走る。
「サンディ、いくらだ‥‥(汗)」ライトニングが青ざめる中、サンディは紙に書いてライトニングの顔の前に持ってきた。
「ウッ…なっ、七万クレジット!」
サンディは特典を用意していた。
「今回はとても良いムードメーカーとして SAI が貴方を認定したわ。特典として、この金額から二割引いて措くわね。」彼女は微笑みながら言った。
「二割……せめて三か四割くらいにして欲しいものだな…」ライトニングは胸のポケットからシップカード(艦内専用のクレジットカード)を取り出し、渋々と清算を行った。
◆
CICでは飛鳥大尉とフスター大尉と少尉兄妹が席に着いていた。暫くの時間をその場で寛いでいた。他の管制エリアにはアンドロイドが付き、緊急の場合に備えていた。
「飛鳥大尉は休まないんですか?バートル中尉はラウンジの方へ行きましたよ。」とマーベリット(少尉)は彼女に言った。
「あいつ、坊やの癖に酒を飲むのか…一丁前に。私は酩酊が余り好きじゃないからラウンジには行かない!変なのに絡まれそうだし…」と飛鳥は答えた。
ここでマーベリック大尉(兄)はフッと気が付いて飛鳥大尉に聞いた。
「大尉は彼氏は居るのですか?」
唐突な質問に飛鳥はフスター(兄)の方を見た。
「居ない…居なかったら何?」
「いえ…どんなタイプが好きなのかなぁ、とか思って…」フスターは自分の質問に後ろめたさを覚えた。
「そうね……強いて挙げるならランドー艦長みたいな人かな…」飛鳥は特に気にするでもなく淡々と答えた。
これを聞いたフスター兄妹はエッと驚いた。
「艦長は格が違いますよ。あの人は凄いと思う……年齢はよく分からないけど、このクラスの宇宙艦を任されるのはもっと上の年齢の人ですからね……決して艦長を侮る訳じゃないけど…何と言うか……火器管制を行っている自分にも言える事かも知れないけど、“人間” の匂いがしない…」
フスター大尉が両腕を組んで考えている時、真後ろから声を掛けられた。それに驚いたフスターは危うくパイロットシートから落ちそうになった。
「フスター大尉、悪いが人間、って事にして置いてくれ…この艦の指揮を人外の者が行っているとなると組織上、都合が悪いからな。」とランドーはそう言い、冷たい目でフスターを見下ろした。
「し、失礼しました艦長! 失言でした ‼ 」フスターは立ち上がり身体を “く” の字に折った。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
CIC後部にある自室で私は帰還後に中央作戦司令部に報告する内容と機動宇宙軍本部で話されるであろう事について考えていた。
(恐らく作戦司令部の山元一等宙将の他に統合機動宇宙軍本部のカーネル・リードマン大将とも話し合わねばなるまい。次の進攻目標である地球軌道と月、地球間の宇宙域で観測されたUFOは火星で見たものとは異なる、もっと強力な敵だ……加えて政府と異星人の協定の様な話も出てくる可能性も有る…プレアデスの名前が、この辺りで表に出て来るかも知れんな……)
「ウゥ~ンッ…」と私が唸っていた時、スピーカーからランドーの声が聞こえた。
{提督、ランドーです。}
「入れ!」
ドアが開くとランドーは敬礼し、今回の実戦評価データーを私に渡した。データーを綴った書類は非常に分厚かった。
「もう少し、簡素化できないものかね…これだけでも我々は遅れているのだよ」と私はランドーに言った。
「バイオコネクトでデーターを見る方法も有りますが…提督はバイオコネクトは付けておられませんから…」ランドーは申し訳なさそうに言った。
「地球へ帰還後、軍本部や作戦司令部と話さなければならない、君も同席してくれ。よろしく頼む!」私がそう言うと彼は目を輝かせた。
「勿論です。任せて下さい、提督!」
そう言うと彼は敬礼し部屋を出た。