SSFP(Space Strike Force Program:宇宙打撃軍計画)
約8年の建造と公試期間を経て、いよいよSCV-01リベレーターは戦闘運用が開始される。
『機動空母リベレーター』
天野 了
「SSFP(Space Strike Force Program:宇宙打撃軍計画)」
長らく政府が秘密裏に収集してきた地球外文明と太古の超科学を基に宇宙打撃軍計画(SSFP)が進められ、十数年の歳月を経て人類は初めて自らの力を宇宙で使用できるようになった。
しかし、依然としてその科学力は低く未成熟なまま我々は宇宙へ進出せざるを得ない…しかし、時間が無い。彼ら異星人、いや異次元の者は地球の歴史を裏で支配し続けてきた。このままでは人類の未来に在るのは決して明るいものではない。
SCV―01の建造開始から既に8年が経過、多くの公試項目を実施し人類初の宇宙戦闘艦として運用が開始される事となった。
今、我々人類の解放の戦いが始まるのだ。
統合機動宇宙軍 准将 JC・ロバートソン
私の乗り込むSCV-01 機動空母「リベレーター」は地球高軌道上に敷設された軌道ドック「しきしま」に係留されていた。
連絡用の内火艇には私の他、艦長のR・ランド―大佐他、艦体運用(操縦・航法管制)の飛鳥 麗大尉、火器管制員のマーベリック・フスター大尉、動力管制員のスタンリー・バートル中尉が同乗していた。
内火艇がドックに接近しリベレーターの巨体が私の視界に映し出された時、艦長のランド―に声を掛けた。
「準備は整っているかね、艦長」
「既に完了しています。我々が移乗したら直ぐにでも」と艦長のランドーは私の隣で答えた。
「焦る必要は無い。一つ一つを確実に熟してくれ、この艦は公試項目を完了しているとは言え人類では初めての大型宇宙艦なのだ。それも、いきなり時空航行が出来る代物だ……バートル中尉」
私は後ろに立つ動力管制員の彼に確認した。
「TX機関の調整は出来ているか?」
「完全な調整ではありませんが航行に支障ありません。ジェネラル(バイオエレクトリック社)からは技術要員も乗艦しています」
バートルは少し申し訳なさそうな顔をした。
私は彼の方を向いて次のように言った。
「TX機関はこの艦の要だ。それは今まで蓄積してきた地球外文明の科学とは異質でありながら唯一、凌駕している部分でもある。」
私は火器管制のフスター大尉に視線を向けた。
「準備は整っているかね…」
「艦内兵装及び航空団、陸戦団共に準備出来ております。ただ……、TR-3D(時空戦闘機)は基準搭載機数には達しておりません」そう言うと彼は額に汗をにじませた。
「あれは特殊な機体だからな…普通のパイロットでは扱えない事は知っている」
私はそう言うと隣に居るランド―艦長の方を向いて苦笑して見せた。それを聞いた彼は俯いて帽子を深く被り直した。
「SAI(艦の統合AIシステム)は機能に問題は無いかね?」と私は航法管制の飛鳥大尉に聞いてみた。
「ハッ、問題は有りません。アンドロイド要員との連携もスムーズに行っています。」と彼女。
「ウム…」
私は前を向いて一言そう言った。
内火艇はリベレーターのドッキングベイへ正確に接続すると“バシュッ”という音と共にエアロックが開放された。
全員、艦上中央に在るCICへ進んだ。全長812mに達する艦内の移動は特殊なリニアチューブによって行われる。
大した時間も掛からずCICへ着いた。
◆
CICは巨大な球形状の天球モニターの中に各科員の管制操作エリアが突出した形になっている。
既に予備人員が配置に着いていたが全員自分のエリアへ走ると交代した。准将の私と艦長のランドーは一番上にある指揮エリアの席に着いた。下方には各科のエリアを見渡すことが出来た。
(初代のアポロ宇宙飛行士がこれを見たら何と思うだろう……あれから半世紀だ)そう私は思った。
「各科状況確認、二十分後、作戦室へ集合せよ!」と艦長のランドーは全員へ通達した。
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CIC後部の艦長室で私はランドーと向き合っていた。私は彼に聞いた。
「君が出来てから何年経つかね…」
「まだ二十年も経っていない…と思います。しかし何故それを?」
「この艦の責任は重い…今更だが覚悟は出来ているだろうか。」と私。
「提督、私はこの形で動けるようになるまで軍の事や当艦に関する細かい情報は既にインプットされています。誰よりもこの艦に関しては詳しいと自負します」
「これから我々が行う事は知識ではなく“判断と行動”だ。この艦には多くの人間が乗っている、勿論、君もだ。その事を肝に銘じて置いてくれ」
「分かっています、提督…貴方は私が作られて今日に至るまで、ずっと見てくれていました。必ず期待に沿うよう行動します。」
私はテーブルに出されたチューブを口に含むとコーヒーを飲んだ。
「君の妹さんは元気か?」と私は彼に聞くと彼は少し困った顔をして次のように言った。
「身体には問題なく元気なようです。最近は会っていません…妹のエディはTX機関に掛かりっきりでしたから。」
「偶には会いたまえ。彼女は唯一血を分けた兄妹なのだから…」
「妹は軍属ではないですからね…緊急の時にはTR-3Dに搭乗する事になっていますが。」
「軍に所属していれば階級も与えられたのに……残念な話だ。」
「仕方ありません、出来た時から私は軍へ、そして妹はGEのバイオエレクトリック社に所属する事は決まっていましたから。」とランドーは答えた。
「この事は私の他、君たちの誕生に関わった数名の者しか知らない…これは秘匿されなければならない。」
「承知しております…」とランドー。
私は立ち上がり、コーヒーの入っていたチューブをダストシュートへ捨てると時計を見て彼に言った。
「そろそろ時間だ、作戦室へ向かおう。」
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二十分後、各科の士官たちは既に作戦室に入っていた。CIC要員の他、航空団、陸戦団の責任者であるジョン・F・ライトニング少佐とシャーマン・ライト少佐が顔を出していた。私と艦長を確認すると全員が一斉に席を立ち敬礼した。
「全員ご苦労、君たちの努力により本艦は実戦運用に入ることが出来る。これより中央作戦司令部からの通達を伝える。本艦は地球軌道及び火星と月面に存在する敵性異星人の基地に対し特別軍事作戦(進攻)を展開する!」
次に私に代わり艦長のランドーが全員に発令した。
「当艦は艦内時間14:00に軌道ドック「しきしま」を離脱する。直ちに各科準備に入れ!」
そう言うとランドーは私に向かい叫んだ。
「全員、提督へ敬礼!」
全員がザッという音と共に私に向かい敬礼をする――、私もそれに応えた。
「散開‼」
艦長が叫ぶと粗全員が整然と退出した。しかし、一人が残る、陸戦団を率いるライト少佐だった。
「艦長、我々はどのような者が敵性を持つのか知らされていません。我々陸戦団は惑星や衛星の地上で戦闘を行います、詳しい情報をお願いしたい」
ランドーはムッとした感じでライトを睨んだ。
「その判別はこちらで行う。陸戦団はその指示に従って行動せよ!」とランドーは叫んだ。
それを聞いたライトは拳でテーブルを叩いた。そして、私の方を見て頭を下げると胸のポケットから煙草を取り出し火を点けた。当然艦内では火気は禁止されている。
その態度を見てライトへ近づこうとしたランドーを私は止めた。そして、ライト少佐には次のように言った。
「ライト少佐、恐らく我々の中で一番先に敵味方の血を見るのは君たち陸戦団だ。しかし、現場の者が勝手な考えで動けば我々は負ける……これは地上でも宇宙でも同じだ。」
暫く間が空いた後、ライトは吸い殻を手で握り潰しポケットへねじ込み、私の方へ向くと敬礼した。
「失礼しました、提督。これより準備に取り掛かります!」そう言うと彼は足早に退出した。
「クソッ、何て奴だ!」と憤慨するランドーを宥めるように私は彼に言う。
「こういう事も戦争ではよく見る場面だ……」
※この作品はSFローファンタジー作品『カインの使者』とリンクしています。
SFローファンタジー作品『カインの使者』
URL:https://ncode.syosetu.com/n4402ex/
機動空母リベレーターは『カインの使者』の物語に於いて “アベルの軌道プラットフォーム” として描かれています。SFミリタリーアクション『機動空母リベレーター』と対比しながら物語をお楽しみください。
作者 天野 了