序
どぉもです、銃です。
冥獄抄シリーズ第二幕となります。
ですのでもし初見の方は「冥獄抄散話-狂」から読まれる事をお勧めします。
(おそらくそうでないと世界観がつかみずらいかと…。)
銃.
ちなみに以下自分的表紙イメージです。
序
「どうしてあたしは「ゆめのなか」なの?」
それは物心付いてたぶん私が一番始めにした質問。
「………。ん?」
目の前の興に魅入っていたその人が不思議そうな顔をしてこちらを見た。
水平にこちらに視線を移す私と同じ目線の男の子。禿頭前面に複雑な刺青を施し、小さなちょびひげを生やしている。でもそれより何よりそのぱっちりとした黒い瞳が印象的で。
「何か言ったか?「儚ノ中」。」
物心ついた私とほとんど変わらない姿形のその人は、その当時から幼い私と違ってきちんとした声調と意味を帯びた言葉を話していた。
その人が私より全然長生きでとても恐ろしい人だと知るのはまだもう少し先。
物心ついたその頃の私は、何故だかわからないけど一番偉いその男の子の隣で普通にお話出来る事が嬉しくて自慢したくて、よく上座に上がってはその人に色々世間話をしたり色々おねだりをしたりしていた。
そしてその日は初めての質問。
「だからね、あたしなんで「ゆめのなか」なの?
なんで「ゆめ」だけじゃないの?なんかちょっとかわいくないよ。へんだよ。」
私は頬を膨らませて少し拗ねた。
それを何の表情も浮かべずにただじっとぱっちりとした黒い瞳が見つめる。
私もじっとその黒い瞳を見つめた。負けるもんか。………………。………。……ッ……でも駄目だった。いつも必ず私から目を逸らしていた。
それがちょっと悔しくて私はもっと頬を膨らませる。
「「ゆめ」だけじゃ駄目じゃ。それじゃお前の名として意味がない。」
幼く落ち着いた声が興の音を貫いて私の耳に入ってきた。その人の声はいつもそう。
どんなに騒々しい所でもその呟き一字一句がきちんと誰の耳にも聞こえる。
この御殿の中でどの音にも絶対負けない主の声だ。
「いみ?なにいみって?」
私が再び目を向けると先程と変わらず黒い瞳がじっと私を捉えていた。
その人は本当にじっと見る。今ならわかる。だってこの人絶対瞬きしない。
だから私から目を逸らすしかないんだ。
「お前の「ゆめ」には境がある。ずっと続くものじゃない。じゃから境の外と区別しなければならん。じゃからお前は「儚ノ中」じゃ。」
「……なにが「じゃからじゃから」かぜんぜんわかんないよ。そとってなに?」
その人の口の端がうっすらと上がる。全然可愛く見えない無情の笑顔。昔も今も好きじゃない。
「勿論「死」じゃよ。」
「し?……って??」
「ふむ、どこまで突き詰めるか難しい所じゃのぉ。そうじゃのぉお前でいうならその体からその御魂が抜けて腐って亡くなる、それが「死」じゃ。
お前の「中」は本来非常に短い。もって百年少しの灯じゃ。ここに在らず現世に在るべき御魂じゃからの。お前は命の火が消えれば腐る。そして消える。故に儚い。まさに夢のようにの。だからやはりお前は「儚ノ中」じゃよ。」
ほっほっほっと子供らしくなくその人は笑った。
何だか馬鹿にされたみたいですごく嫌な気分だった。本当に馬鹿にしてたんだろうけど…。
「うそっ!うそつきっ!ひゃくねんなんてもうとっくにすぎてるもん!
ぬしちゃまのうそつきっ!」
私はそれだけ言うとその人の前から走り去った。その人の笑い声がよく聞こえる。
もうその姿が見えない所まできてもその人がまだ笑っているからどこまでもその笑い声が付いてくる。
――――うそつきっ!うそつきっ!あたしがくさるなんてへんだもんっ!それじゃたべものとかといっしょじゃないっ!
あたしをこわがらせようとしてあんなこといったんだっ!やなのっ!だいきらいっっ!
そう…私が死ぬなんて…あり得ない、そんな事とても考えられない…。
御殿の中で死んでいく人を何人も見た。でもそれは私には関係ない人。私には縁のない人。
死ぬなんて
死ぬなんて私には――――
「今、楽にする……。」
闇に露わになる白い足。その上に禍々しく広がる橙と赤の斑点模様。
その色が弾け小指の先程の小さな鳥が空へ逝く。耳障りな泣き声を遺して空へ逝く。
所々に生々しく見え隠れする白い骨。見え隠れする確実な死。
「い…や…。」
私と「くるり」の腕を握る「丸嬰」。
ぎらぎらとした瞳でそれを見つめうっすらと残酷に笑う「丸嬰」。
刃を伴う細みの銃。その柄を逆手に握る「露歩き」。
その切っ先の下に横たわる―――
「ごめん……ね……。」
死を見せる「とばねき」。
「いや、……や……やだッ!やだよっ!やめてよ「露歩き」!やめてよッ…やめてぇーーーッ!!」
三千五百年前、それが私が初めて身近に死を感じた瞬間、身近に死を見つめた瞬間。
そして自分もいつか死ぬかもしれないと深く刻まれた瞬間だった。
死は、醜くて悲しくて………何より怖いもので……。
私は、死にたくはなかった。




