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恋愛小説シリーズ

クリスマスの少し前に知ってしまった気持ち

作者: 黄帯


 翔太しょうた抽選器ちゅうせんきを回すと、青い小玉が出た。


「大当たり! 4等でーす!」


 サンタの格好をしたおじさんが鐘を鳴らした。


 今週はクリスマスだ。


 商店街では一定額買い物をすると抽選券がもらえて、アーケード通りの抽選所でくじ引きができる。


 高校の部活帰りにゲームショップに寄って新品ソフトを買ったら、抽選券をもらえた。


 そして当たりだった。


「君は咲高さきこうの野球部だね?」


「そうです」


 ブレザーと丸刈りの頭で一目瞭然だろう。


「練習お疲れ。はい。『街角の花屋 陽葵ひまり』で使えるよ」


 封筒入りのギフト券を渡された。


 花屋に行ったことはない。

 だけどせっかくだから寄ってみることにした。


 シャッター街のアーケード通りを歩く。


 残っている店はクリスマス用の飾りがされている。

 それを眺めている腕を組んだカップルがはしゃいでいる。


 別に羨ましいとは思わない。


 小学生から17歳の今まで野球を続けてきた。

 野球をやって、ゲームをやって、男友達とその話で盛り上がる。

 そうやって過ごす日々は楽しくて充実している。


 恋愛の話で盛り上がっている友達もいるけれど、正直ピンとこない。


 ほどなく『街角の花屋 陽葵』に到着した。


「陽葵ちゃん。またね」


「毎度ありがとう」


 お年寄りに女性が手を振って店を出てきた。


 女性は頭に三角巾をしていてエプロン姿だ。

 陽葵と呼ばれていたことからすると、自分の名前を店名にしている店長のようだ。


「いらっしゃい」


「どうも」


 陽葵という女性は思いのほか若かった。

 二十歳前後だろうか。


「クリスマスツリーの準備かな?」


「いえ。くじ引きで券をもらって何となく」


「おっ。ついてるねえ。彼女に好きな花をプレゼントできるよ」


「彼女なんていませんよ」


「あはは。でも好きな子ぐらいいるでしょ?」


「別に。女子のこと、好きになったことなんてないし」


 陽葵が少し苦笑した。


「じゃあ、これはちょっと君には早いかな?」


 陽葵の視線の先には円柱のガラスに覆われた花があった。

 茎に沿う形の上向きの花びら。

 少し枯れたような紫色。

 それが円柱下の支えから何本も生えている。


「季節じゃないから加工したものだけどね。ライラックって言うんだよ」


「はあ。あの、僕に早いというのは?」


「花言葉が初恋だから」


 陽葵にクスリと笑われて、少しイラっとした。


「君に好きな子ができたら贈ってみるといいよ。きっと喜んでくれるから」


 翔太はため息をついた。


「まあ、色々見てみてよ」


 翔太は小ぶりの店の中を見て回った。

 花や植物はしっかりと手入れされているようだ。

 ポップも張ってあって見ていると楽しい。

 これを一人でやっているなら大変だろう。


 少し離れた場所にいる陽葵を見た。

 しゃがんで花の手入れをしながら微笑んでいる。

 その姿になんとなく惹きこまれた。


 陽葵が翔太の視線に気づいたらしく、こちらを見て笑った。


 その笑顔が眩しく見えた瞬間――。

 分かってしまった。

 こういうことなんだって。


「ん? 決まった?」


「あの、これ下さい」


 翔太は赤くなってうつむきながら、ライラックを指さした。

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