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その2

「夢、か」


 目を開けると、視界に広がったのは天井だった。

 まだ見慣れていない自室の、染みひとつない白い天井。

 窓から差し込む光は明るく、朝を迎えていることをぼんやりとながら理解する。

 眩しさから手で隠してみるのだが、それでも完全に遮ることは出来ない。

 起き抜けの目にはその明るさは痛いくらいで、まるで太陽から早く起きろと言われているみたいだったが、僕はまだほんの少しでいいから、ベッドの上にいたかった。


「随分と、昔の夢を見たもんだなぁ」


 懐かしい夢だった。

 両親と僕、そしてアリスが家族になった、遠い日の記憶。

 綻びは確かにありながら、それでも四人で初めて出会ったあの日のことを、僕はまだ覚えていたらしい。


「嬉しいわけじゃ、ないんだけどさ」

 

 自嘲するようにひとりごちると同時に、部屋のドアがノックされる。

 コンコンコンと控えめに。ドアの向こうに誰がいるのか、思いを巡らせるより先に、その声は聞こえてくる。


「兄さん、起きてますか?」


 女の子の声だ。そして僕のことを兄と呼ぶ相手を、僕はひとりしか知らない。

 

「ああ、起きてるよ、アリス」


「そうですか、良かったです」


 夢の記憶と同じように、妹の名前を呼ぶと、アリスは嬉しそうに笑った。

 これはいつものことである。アリスは僕が名前を呼ぶと何故か喜ぶのだ。

 まぁ、僕もアリスから兄さんと呼ばれるとなにも思わないというわけではないから、気持ちは分からないでもないけど……アリスの場合、少し度を過ぎているような気もする。

 そんなことを考えつつ、僕はゆっくりと、ベッドの上から起き上がる。


「ご飯はもう出来ていますから、着替えてリビングまで来てくださいね」


「うん、いつも悪いね。朝ご飯、作ってもらっちゃって」


 「いえいえ、好きでやっていることですから」


 着替えをしながら、アリスとの会話を続けていく。

 内容はとりとめのないものだ。妹に朝飯を作ってもらうというのは兄として思うことはあるものの、彼女のほうが僕よりずっと家事を上手くこなせるのだから任せてしまうことが多い。というか、僕がやろうとするとアリスが嫌がるのだ。

 これは自分がやることだからと言われると、僕としても強く出られないんだよね……兄としては、やっぱり情けないんだろうなぁ。朝から少しへこんでしまう。


「兄さん?」


「あ、いや、なんでもないよ、うん」


 いけない、会話を中断してしまったようだ。

 あまりアリスを不安がらせてはいけないし、さっさと着替えを済ませて部屋を出よう。


「アリスは先にリビングで待っててよ。僕もすぐいくから」


「本当ですか? ……すぐ、来ますよね?」


「大丈夫だって。アリスは心配しすぎだよ」


 さっきから、ドアノブの音がガチャガチャと音がして少しうるさいくらいには。

 部屋には鍵がかかっているんだから開かないことは頭のいい彼女にはとっくに分かっているはずなのに、ちょっと未練がましすぎる。


「鍵、やっぱり邪魔だなぁ……」


 多分独り言のつもりなんだろうけど、その呟きは聞こえてるよ、アリス。

 僕から言わせてもらえば全然邪魔じゃないし、やっぱり大いに必要だった。付けてよかったと、こうして改めて思う程度には。


「アリス」


「……分かりました。来てくださいね、絶対ですよ」


「うん」


 ドア越しに頷くと、ようやく納得したのか、アリスはドアから離れていった。

 妹の小さな足音を耳にして、気配もしなくなったことを確認すると、僕は大きく息を吐いた。


「はぁ。いつものことだけど、やっぱりあのやり取りは疲れるなぁ」


 僕のたったひとりの妹《家族》は、本当に心配症である。


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― 新着の感想 ―
[一言]  ヒイッ  既に病んどる‥‥‥。
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