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その23

 少しの間、時間が止まったような気がした。あるいは、凍り付いたといったほうが正しいのかもしれない。

 前へと進む電車の揺れがそのことを否定してくるが、感覚としては確かに停止していたと思う。


「……なんですか、それ」


 そんな中で、アリスがぽつりと呟きを漏らした。


「自慢のつもりですか。だとしたら、綾川さんって随分性格が悪いんですね」


 軽蔑したようにアリスは言うが、僕には虚勢を張っているようにしか思えなかった。

震えるような、無理やり絞り出したような、そんな声だ。


「あ、初めて名前を呼んでくれたね。今まではずっと貴方とか、他人行儀な呼び方ばかりだったのに」


 天音もそれが分かってのか、まるで動じていなかった。

 むしろ名前を呼ばれたことでどこか楽しそうですらある。そのことが、僕には少し不可解だ。そもそも昨日の昼休みのことがあったのに、なんでこんな笑顔でいることが出来るのか、それすらも分からない。


「……別に、いいじゃないですか。綾川さんのことは、前からちゃんと認識していましたよ」


「そうなんだ。家に行っても無視してくるから、名前も憶えられていないかと思っていたんだよね。良かったよ」


「…………それは」


「まぁ理由は分かっているからいいんだけどね。あの人たちに、話さないように言われてたんでしょ。出来の悪い息子と仲良くしている子なんて、あの人たちからすると話しかけても悪影響しかないと思っていただろうし」


「…………」


 アリスは答えない。

 先ほどまでとは打って変わり沈黙している。


「何も言わないってことは、やっぱり正解なんだ。だよね、あの頃の妹ちゃんは、あの人たちの言うことをよく聞いてたもんね。それが今となっては兄さん兄さんって、積極的に話しかけるようになったんだね」


「私、は」


「人って変われば変わるものだね。あたしからすれば最初からそうすればよかったのにとしか思えないけど、妹ちゃんには妹ちゃんの事情があっただろうしね。そのことはまぁ、仕方ないとは思ってるよ。でもね」


 天音は続ける。


「あたしはやっぱり、妹ちゃんのことが嫌い」


「え、あ……」


「あたしは自慢がしたいわけじゃないよ。ただ、そういう関係になるくらい、あたしたちの仲は深かった。それをあなたが全部壊した。そのことが許せないの。例え貴方がどんなに変わろうとも、あたしたちの関係を変えた貴方のことが、あたしは嫌い。大嫌い」


吐き捨てるように天音は言う。絶対に許せないとでもいうかのように、負の感情を吐き出している。


「私、は……でも、だって。どうしようも……」


「どうしようもなかったとしても。あたしは許せない。理屈じゃない。好きな人と無理に別れることになった気持ちは、貴方には絶対に分からない」



「…………それ、は」


「あたしはね、そのことがすごく許せないの。秀隆くんが許したとしても、あたしは許せない。あたしたちの関係を壊した貴方のことが、絶対に許せない」


 理由も理屈も、なにもかもが無意味だった。

 ただ、天音のアリスに対する明確な敵意がそこにあった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 久々に狂ったギャグじゃなくてシリアスなの嬉しい…嬉しい…。 この先どう足掻いてもビターエンドが精一杯な予感しかしないけど、ハッピーやトゥルーに辿り着けるかしら?
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