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エリサは知っている

日が落ちる頃、リイシャ侯爵邸の奥から物悲しいピアノの音が聞こえてくる。


「”お客様”のピアノ、あいかわらず綺麗だけど悲しい音色ねえ……」

年配の侍女マレーネさんが食堂でテーブルセッティングをしながら嘆息する。


「でも最初の頃のドロドロした恨み節みたいな音色より良くないですか?」

わたしの言葉に、マレーネさんは「確かにそうだね」と頷いた。


「……そういえばエリサ、聞いた?」

「なにをです?」

マレーネさんの問いかけにわたしは首を傾げる。


「帝国の皇太子夫妻がお忍びでウチの領の離宮にやってくるらしいわよ。あまりに突然な話なもんだから、侯爵様たちは準備でてんやわんやなんだって」

「えっ…ジュリアス皇太子が……」

「帝国のジュリアス皇太子っていったら、初恋がどーしたこーした騒いでウチの国のお姫様たちを振り回してるお方だろ?今回の訪問もその関係なんだって。どんなに美形でも、なんだか身勝手そうでワタシャ嫌だわね」




……帝国のジュリアス皇太子がリイシャ離宮に来る。

それで最近の侯爵様は忙しそうだったのか……



わたしの脳裏に蘇るのは、いつぞやの夏の思い出。

そして少年カルロ……



「ーーなにも起こらないといいけど……」



わたしは小声で呟くと、不安をかき消すように首をフルフルと振った。



+++++++


やがて、帝国の皇太子夫妻がリイシャ離宮を訪れた。


お忍びとはいえ外国の皇太子がやってくるなんてそりゃあ一大事なわけで、わたしを含め侯爵邸の侍女たちはリイシャ離宮へ手伝いに駆り出された。


眼下に海を臨むリイシャ離宮の門を煌びやかな馬車が通っていく様子を、わたしは他の侍女たちと一緒に屋敷の窓から覗き見ていた。


「なにあのキッラキラの馬車。忍ぶ気がまったく見受けられないわね」

「こっちで用意したお忍び用の馬車は拒否されたらしいわよ」

「わ、皇太子出てきた!」

「すっごい美形じゃない。すっごい偉そーだけどさ」

「お迎えしてるウチの侯爵様のが美しいわよ〜。お人柄も優しいしさ〜」


「ーーあ、ねえねえ見て……」


好き勝手にしゃべくっていた侍女たちは、皇太子に続き馬車を降りてきた亜麻色の髪の貴婦人を見ると一瞬押し黙る。


「……エレーナ王女だわ」



いわゆる『初恋のエリー』であるエレーナ王女様。

運命の初恋のヒロイン。


運命で結ばれた2人が出会いの場所である離宮を訪れるなんて、ロマンチック極まりない名場面なのに……

それなのに……



「……エレーナ王女もニセモノかもしれないんでしょ?」


誰かの言葉に応えるように、誰かが例の流行歌を口ずさむ。

『今夜腕の中で眠る女〜 あの夏の初恋じゃない〜』


「ーーホントにニセモノなのかしら?」

「かもしれないわよ」

「あのお方なら有り得るかもね。前に此処に静養に来られた時にお世話した事あるけど…性格が捻くれてたわ〜」

「もしニセモノなのだとしたら…どうなるのかしらねえ」



楽しそうにキャアキャア噂話に花を咲かせる侍女たちを尻目に、わたしは皇太子の後ろを歩くエレーナ王女を見つめた。

意気揚々とした皇太子とは対照的に、王女の表情は心なしか暗い。




ーーでしょうね。


わたし知ってるもん。


アナタ、ニセモノのエリーですよね?


だってホンモノは…

ホンモノは……



読んでくださった方、ありがとうございます。

ここまで物語のストックで眠っていたものを見つけてアップしてみました。

続きはたぶん1週間後くらいです。

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