第1章 記憶を辿り彼女を探す②
前回より、かなり期間が空いてしまい申し訳ございません。
これからは一定のペースで投稿していきます。
是非、なんでも良いので感想などあればお願いします。
雪乃美月。
そこに立っていたのは、幼馴染でクラスメイトの美月だった。
春翔とは幼稚園からの付き合いで、よく家族ぐるみで一緒に遊んでいた。
整った顔立ちに艶のある長い黒髪、深紅の瞳が輝いて見える。
おまけに生徒会書記なもんだから学校中の人気者で、よく男子に告白されては断っている。
誰かと付き合えばいいのになと、春翔はいつも傍観していた。
「はーるとくん!」
「珍しいな、美月が遅刻なんて。なにかあったのか?」
被せるように彼女は答える。
「うん、ちょっと野暮用でね……」
誤魔化すように話題を変えた。
「あ、ハル。月末の体育祭、何の種目に出るか決めた?」
”ハル”彼女は春翔をそう呼んでいる。
「決めてないなら、私と同じ競技に出なさい! 勝負するわよ」
「いや、まだ決めてない。そして、男女で一緒になる競技はクラス対抗リレーくらいだ。クラスメイトだよな?俺たち。正直、参加するのも億劫だ」
「いつからか、本当面倒くさがりよね」
「しょうがねえだろ」
「うん……」
三年前。
春翔の母親が病気で他界した。
父は元々単身赴任で海外を飛び回っているので、一緒に生活したことはない。
母が重度の癌と診断されたのが亡くなる1年前。
何度も何度も病院に通いつめた春翔は、母親の他界と同時に気力を失ってしまった。
ただ、廃人のようになってしまった訳では無い。
目標もなく、無難に1人で生活してきたのだ。
「ごめんね、思い出させて。いつからか、なんて言わなきゃよかった」
「いや、いいんだ。別に特別なことじゃない」
「うん。優しいね、ハル。さ、学校着いたよ! 行こ、教室!」
私立三鶴城高校。
学校は小高い丘の上にある。
進学校で生徒数もかなり多い。
校門までの坂道を歩いて登ると、誰でも息が上がるくらいの坂道だ。
大抵はバスで登ってくる。
駅からバスに乗る者もいれば、近くに住んでいる者は途中からバスに乗る。
自転車通学の場合は自転車を押して上がり、坂の途中の駐輪場に自転車を止め、そこからは校舎までエスカレーターが伸びている。
通学時間はバスが生徒でごった返す。
入学から一度も、春翔はそのバスに乗ることはなかった。
これも遅刻の原因かもしれない。
通学時間外はバスもガラガラで快適だからだ。
いつもなら坂の下のバス停から乗車するが、美月と話をしていたので、二人で歩いて上がってきた。
「春翔。分かってるわね?」
「ああ。バレないように入るぞ!」
玄関で靴を履き替え、階段を上がる。
三階、そこが二人の教室だ。
教室の前に到着し、二人は息を整える。
もちろん、そう上手くいくはずもなく……
「おい! おまえら!」
ドアをそっと開け、しゃがんで入ったその瞬間。
担任の伊藤がこちらを睨みつける。
(そりゃばれるよな……)
伊藤重利。
通称、シゲ爺。
彼らの担任だ。
地理の担当教師で、よく学校の周りの地形の話を長々としている。
「おまえら仲良く二人で登校か。それも、雪乃! お前は生徒会だろ? こんな奴に構ってないで、しっかりしなさい。あと、桜川。お前は放課後職員室に来なさい」
呼び出された春翔。
実はここまで毎日遅刻をして、呼び出されるのは初めての事だった。
春翔は不思議に思う。
(なにかやらかしたか……)
丁度朝のホームルームが終わった所だった。
チャイムが鳴り、皆一限目の準備を始めていた。
「はーくん!」
一人の少女が春翔に話しかける。
白峰ゆう。
彼女は春翔の高校からの友達で、まだ付き合いは短い。
何故か最初から春翔に懐いていた。
身長が低く、茶髪のショートヘアで、まるで小動物の様な可愛さが彼女の魅力である。
時折天然が炸裂するのもまた、魅力の一つだ。
「はーくん! 昨日の夜はちゃんと寝れたかい?」
「ああ、いつも通りな」
「ふふふ、ゆうははーくんに聞きたいのです!」
「なんだ? 朝っぱらから元気すぎるだろ」
「元気が私のチャームポイントだもん!」
「ああ、知ってる……」
呆れ顔を見せる春翔。
「はーくんは、昨日の夜、夢を見なかったかい?」
「え……」
「それはとっても怖い夢だったでしょー」
「なんで知っ……」
春翔は”なんで知ってるんだ”と言おうとしたが、途中で言葉が止まった。
(なんでこいつ、知ってるんだ)
春翔の脳内で昨夜の夢が蘇る。
心臓が高鳴り、あの感覚を思い出しそうになった所でまた、白峰が話し始めた。
少しづつですが投稿していきますので、今後ともよろしくお願いします。
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