第1章 記憶を辿り彼女を探す①
風に揺れるカーテンの隙間から差し込む陽光。
少しの熱気を感じ、睡魔という名の悪魔の誘惑を抑えつつ、少年はそっと瞼を開けた。
ベッドから起き上がり、右足の痺れを気にしつつ机の上の置時計に目をやる。
青色のデジタル表示は8時36分。
(あと少し寝れるか......)
そんなわけがない。
なぜなら登校時間が8時30分だからだ。
桜川春翔。16歳。春翔は入学式の日から、学校創立以来の連続遅刻記録保持者である。
今日は6月15日。
つまりもう2ヶ月以上も遅刻を続けている。
案の定、春翔はその圧倒的な記録のせいでクラスに全く馴染めていない。
「熱い、、、」
学校に行く気が全く起きない。
遠くから風に乗って聴こえてくる電車の音が、リズム良く春翔の脳内に響き渡る。
重い体を動かし、学校へ行く準備を始める。
別に不良生徒という訳ではない。
しかしながら、クラスの連中は春翔を不良遅刻魔扱いしている。
"遅刻魔"という所は否定出来ない。
だが春翔は不良というレッテルは全力で否定していた。心の中で。
春翔の容姿は至って普通だ。
生まれつき若干の茶髪ではあるが、ド派手な金髪という事は無いし、後から面倒臭いので教師には染めている訳ではないと伝えてある。
強いて言うなら左耳にピアスが1つ開いている。
しかし学校では付けていない。
十分不良だと思うかもしれない、しかし春翔が自ら開けたわけではないのだ。
"開けられた"と言う方が正しいだろう。
準備を済ませた春翔は自宅の玄関を開けた。
外に出ると初夏の風が通り過ぎていった。
学校では衣替えが始まっているが、ブレザーを着て登校する。
春翔が通う私立三鶴城高校の制服は、冬服の方が生徒達から断然人気があった。
通学の途中、昨夜の夢を思い出す。
自分が傷つき、意識が無くなる嫌な夢。
(やけにリアルだったな……)
鼻には匂いが、耳には声が鮮明に残っている。
どこかで嗅いだことのあるような香りが、聞いたことあるような声が。
「あ!!春翔くん!!」
呼ばれた声に春翔は胸がざわつく。
遅刻する時間になぜ彼女がいるのか。
昨日の夢を思い出していたので、全身に鳥肌が立つのが分かった。
名前を呼ばれただけで不信感に溺れそうになる。
(気にしすぎだ、忘れよう……)
振り返ると、そこには見覚えのある人物が立っていた。