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知らない声がうるさすぎる!  作者: ヒロヤス
15/15

15.どういうつもり?

リゼットは一人愕然としていた。


さすがに何かの間違いだと思いたい。

ただ事実、カレン伯爵令嬢は色違いのドレスを着ているのだ。


セオドアが作らせたドレスと全く同じ型もの。


カフェで聞いた話も、ただの根も葉もない噂だと思って流していたのに……疑惑が黒に変わってしまう。

もし自分がプレゼントされたあの黒いドレスを着てきていたら、周りにどんなことを言われたのか。想像しただけでゾッとした。


……一体、なぜ。


噂を本当にする根回のためにセオドアが仕組んだのだろうか。

そんなに自分と結婚したくなかったのか。


さすがにリゼットも彼から嫌われていると知っているとはいえ、そんなことをされたらショックだ。最近は歩み寄ってくれている気がしたのに、自分が都合よく受け取った願望だったのかもしれない。



曲が終わると、カレン嬢はセオドアにダンスを申し込んだ。セオドアは微笑んでそれに応える。カレンは嬉しそうにセオドアと踊っていた。

王のお膝元で堂々と浮気とはいい度胸だ。


「リゼット、どうした? もしかして嫉妬かぁ?」


どんどん顔が険しくなる妹に軽口を叩くキース。そんな冗談に笑えない状況なのだが、キースは知るよしもない。


嫉妬? 私が?

この感情を何と言うのか、リゼットには分からなかった。


自分に礼儀を欠く行為をしたセオドアに失望しているのか、婚約者がいる相手に手を出すカレンに怒っているのか。自分でも整理がつかない。ただ、この状況が面白くないのは確かだった。


セオドアとカレンは踊りながら会話が弾んでいるように見えた。先ほどまで一緒に踊っていた令嬢たちより、ずいぶんと親しげだ。


「やはり、あの噂は本当じゃないですか?」

「あなたもそう思います?」


ヒソヒソと会話している声が聞こえた。貴族たちはカレンとセオドアを見て話している。

あの噂というのは間違いなく、二人が良い仲であるという話だ。隣のキースの耳には届いてないようで、気にしているのはリゼットだけのようだ。


「愛らしい彼女の方がお似合いじゃないですか?」

「そうなると身の振り方を考えなければ……」


聞き耳を立てると様々な場所から聞こえてきた。


この状況はその噂を裏付ける後押しになっているはずだ。

もし噂が本当なら、身の振り方を考えなければいけない。結婚して愛妾を持たせるのか、それよりも婚約破棄か。



カレンとのダンスが終わったセオドアは、辺りを見回してリゼットを見つけるとすぐに寄ってきた。先ほどの楽しそうな顔とは違い、いつもの硬い表情である。


「お疲れ様でした」

「あぁ」


リゼットは労いの声をかけながら、新しいグラスを差し出す。するとセオドアは素直に受け取った。

いくら憤っていても、こんな場所で喧嘩はしない。だって自分は侯爵令嬢だから。


「先ほど踊っていらした彼女と親しそうでしたね。お知り合いですか?」

「ん? あぁ、ウェスカー令嬢か。先日、我が家のお茶会に来ていたんだ」

「そうでしたか」


さりげなく探りを入れると、セオドアは平然とした態度で答えた。彼の表情に後ろめたさはなさそうだが、上級貴族など表情を読まれないようにするのは慣れているから信用は出来ない。


「あんまり妹を嫉妬させないでくださいよ」


キースがいらない茶々を入れたので、リゼットは反射的に睨んでしまった。変な勘違いを生むような発言はしないでほしい。

兄の事は尊敬しているが、こういう態度は直してほしいところだ。相手を見てやっているから、尚更たちが悪い。


するとその言葉を聞いたセオドアは、訳が分からないといった様子でポカンと口を開けると、頬を軽く赤らめた。


『えぇ!? セオドア、照れてるじゃん!』


彼にもそう見えるらしい。リゼットの目にもそう見えた。


「お兄様、変なこと言わないでください。セオドア様も真に受けないでくださいね」


二人に釘を刺すと、キースは「はいはい」と悪戯めいた顔で返事をし、セオドアは「そ、そうか……」と若干残念がっていた。何なんだ、その態度は。


「だが、付き合いもあるから大目に見て欲しい」

「存じ上げております」


セオドアの言葉にリゼットはピシャリと返した。

今気にするのはそこではないはずだ。だが、そんなリゼットの気持ちも知るよしもなく、いらぬ心配をしている彼にイライラする。


もしかして、セオドア様がやったわけではないのかもしれない……?

そうグルグルと考えを巡らせていると、なんだか鋭い視線を感じた。この視線には覚えがあった。

パッとそちらを見ると、ウェスカー伯爵夫人と目が合った。扇子で口元は隠されているが、笑っている気がする。しかし、目の奥は憎悪とかそういった感情が見え隠れした。

夫人の隣では、カレンが楽しそうに自分の父親に話しかけていた。


もしかして――


リゼットはとある疑惑が頭に浮かんだ。

だが、そんなリスクの高いことをするだろうか。自分より身分の高い者に対してそんなことをしてバレれば、貴族剥奪どころか処刑されてもおかしくない。


だが、目的のために手段を選ばない人間だとしたら。

そう思ったが、証拠が無いのでどうしようもないので今はどうしようもない。


「リゼット、大丈夫?」

「あ、はい。ちょっと疲れちゃいました」


険しい顔で黙り込んでいる妹を心配するキース。リゼットはすぐさま笑って誤魔化した。


「セオドア様。本日はドレスを着ずに来てしまい申し訳ございませんでした。ですが今度お会いするときに着ますわ」

「あ、あぁ」


リゼットはニッコリ微笑みながらそう告げる。その裏がありそうな笑顔に、セオドアは困惑しながら返事をした。

着なかった事情を知っているキースは、その隣で必死に笑いを我慢していた。


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