5.5 堕落の2ヶ月(追放サイド)
《黄金の竜》は帝国最強かつ世界で唯一のSランクパーティである。盾職のシルディをパーティから追放するまでは魔国領の攻略も順調に進んでいたのだが。
「すいません。もうこれ以上やっていけません。このパーティ抜けます!」
帝国のとある酒場にて。
《黄金の竜》の盾職である男がパーティを脱退した。
「あーあ。また抜けちゃった。これで何人目ー?」
ヒーラーのキュアンが大きなため息をつく。
盾職の後継者が見つからない。
それが《黄金の竜》を悩ませる大きな種となっていた。
シルディが抜けて以降盾職を再雇用したが、ロクにタンクの仕事が務まらなかった。一週間足らずで脱退。
一度目は雇ったメンバーの能力が低かった、ということで済ませられていた。しかしこれで7回目。偶然では済ませられない。
「シルディ君を追放したのは間違いだったようだね。僕は反省している」
弓使いのアーチェが嘆く。
「抜けていったみなさん、口を揃えて言ってましたね。親分モンスターの攻撃を耐えるのがキツすぎると。私たちを襲ってくるのは眷属でしたから」
魔法使いのマギナが淡々と語る。
「そうだね、マギナさん。よくシルディ君は無傷で引き付けていたものだよ。どうして彼をサボりだと突き放してしまったのか……」
アーチェは唇を噛みしめる。
「お前らうるさいぞ!! 抜けた人間のことをグチグチと!!」
パーティリーダーの剣士、ソルドがエールをテーブルにドンッと叩きパーティを静まり返らせる。
シルディを追放して以降、パーティの雰囲気はどんどん険悪になっている。
「リーダー、提案があります」
「あ?」
「私は今のパーティでは魔国領の攻略は困難だと判断しました。いつ全滅してもおかしくありません。ここは一旦、人界で鍛え直すべきです。新たなタンクを探し出すことも兼ねて」
「なっ、魔国領を撤退するだと!?」
「はい。みなさんも薄々気づかれていると思います」
アーチェ、キュアンも小さく頷く。
「嫌だ!! 帝国に顔向けできないじゃねえか!!」
ソルドは魔国領撤退に断固拒否の姿勢を見せる。
「それならもう一度シルディ君に戻ってきてもらいますか?」
「ふざけんな!! そんなことできるかよ!!」
そんな不毛な言い争いが繰り広げられる中、酒場に帝国の近衛兵と思われる集団が現れ《黄金の竜》を取り囲む。
「な、なんだよ。お前ら!!」
「《黄金の竜》よ、帝王様がお呼びである」
近衛兵によって半ば強制的に王城へ連行された《黄金の竜》。この2ヶ月間の不出来を理由に、帝王から直々Aランクへの降格を言い渡された。同時に魔国領の攻略は新たにSランクに昇格した別のパーティに任せるという事実も伝えられた。