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2 辺境の国へ

翌朝、俺は行くあてもなく市場を歩いていた。

Sランクパーティ《黄金の竜》を脱退したが、今後の身の振り方が決まっていない。

別のパーティに雇ってもらい、盾職として再スタートするか。いやでも、また同じように無傷のせいでサボり扱いされるかもしれない。


「どうして俺はタンクなんてやっているのだろうか」


ふとそんな言葉も出てしまう。


「そもそも盾職だってあまり好きではない」


盾職の役割、それは敵の攻撃を集めて耐えること。すごく地味だ。おまけに使うスキルも【挑発】、【防壁】、【盾突き】のたった3つだけ。体が人一倍大きく耐久適性がSランクという理由だけで、この不人気職をやらされてきた。


「なんなら魔法のほうが好きだしな」


昔から魔法に対する憧れの方が強かった。その思いは今も変わらない。魔法の研究をしてみたい。実際に魔法を使ってみたい。派手な魔法や便利な魔法、色んな魔法を極めてみたい。


「タンク、やめてもいいよな?」


今まではチームのためになればと言い聞かせながら続けてきた。しかし一人になった今、その必要もななくなった。


「よし決めた、魔法職に転職する。人里離れた小さな国でのんびりと魔法の研究に打ち込もう!」


好きなことで生きていく。

それも悪くないのではないだろうか。


そうと決まれば旅支度を始めよう。


「まずは魔法書の購入だな」


通りの本屋に入店する。本屋では雑誌や文芸作品の他に《魔法書》が売られている。魔法書とは様々な魔法の概念や発動方法、応用の仕方などが記された書である。これがなければ魔法を覚えることができない。


「これを頂こう」

「まいどありー」


売れ残っていた魔法書をすべて購入した。全部で20冊くらいかな。結構重い。中には等級の高い魔法書も混じっていたらしく、合計で金貨30枚を支払った。


「退職金をもらっていて正解だったな。あと金貨70枚か」


1ヶ月の生活費が金貨一枚に相当する。

そう考えるとまだまだ金銭に余裕はある。


「さてと、次はここだな」


次にやってきたのは荷馬車屋。

長距離の移動には馬車が必須だ。


「おじさん、そこの馬と荷馬車、それと大陸の地図をくれ」

「兄ちゃんお目が高いね。そいつの名はシルバーシップ。メスのくせに大食いで力強く聡明で従順だ。馬車にするには持ってこいだぜ」

「何枚だ?」

「全部合わせて金貨10枚でどうだ」

「わかった払おう」


交渉が成立。シルバーシップと主従契約の魔法をかけてもらい、手続き終了だ。


最後に市場で当面の食糧と飲み物をまとめ買いし、荷馬車に詰めて準備完了だ。残金は金貨60枚だ。


「そろそろ行くか。目的地は……うむ、ここにしよう」


引越し先は魔国領から最も遠いという理由で、東の辺境にある《イストリア小国》に決定だ。


「黄金の竜、今頃どうしているだろう。まあ過ぎたことを気にしてもしかたないか。あいつらのことは忘れて、俺は二度目の人生を歩む。もう二度とお前たちと会うことはないだろう、さらばだ」


手綱を引くと馬車は動き出す。

街を出発しイストリアに向けた旅が始まった。

 


旅は1ヶ月に及んだ。


山を越え、谷を越え、川を越えた。

食材が尽きれば近くの国を経由し、必要なものを再度貯蓄した。雨が降れば洞窟で凌ぎ、モンスターに遭遇すれば追い払う。


毎日のシルバーシップとのコミュニケーションも欠かさない。朝昼晩かかさずニンジンを与え、着実と信頼関係を構築していった。


馬車に乗っている間は本屋で買った魔法書を読み漁り、魔法の勉強に勤しんだ。面白半分で最も等級の高い超級の書を熟読し魔法の習得を試みた。その結果、この一月で超級魔法エクスプロージョンを習得することができた。


「おお見えてきたぞ。あれが辺境の国、イストリアか!」


山を登るとイストリアの街が見えてきた。山に囲まれた緑豊かな国。帝国や大国に比べるとすごくのどかで空気が美味しい。

この山道を抜ければいよいよ到着だ。


「誰かー、誰か助けてください!!」


そんなとき近くで女の人の悲鳴がした。 馬車を降り悲鳴のする方へ行くと、1人の少女が3人の盗賊に襲われていた。


「おいお前たちそこで何してる!」

「見りゃわかんだろ。強盗だよ」

「このお嬢ちゃんかなりいい身なりしてるくせに誰一人護衛がついてないんだぜ? 絶好のカモなんだよ」

「そんなもの許されるわけがないだろう」


悪いやつはどこにでもいるものだな。


「ちょっと体がでかいからってイキがるんじゃねえ。やるぞお前らー!!」

「「うおおおお!!」」


盗賊がナイフを向けて襲いかかってきた。


「な、なんだこいつ! 傷一つつかねえ!!」

「悪いが防御力には自信がある。エクスプロージョン……。あ、いけない。外れてしまった」


盗賊の真横にクレーターが出来上がる。初めての魔法なので中々狙い通りにはいかないな。


「ひ、ひええええええ!!」

「この男ヤバいぞ!! 超級魔法使いだ!!」

「に、逃げろおおお!!」


外したが結果オーライだったな。


「あ、あの。助けてくれてありがとうございます。私メイアって言います」


目の前の少女が頭を下げる。

肌の色は白く、艶のある手入れされた水色の長髪。年は17くらいか。胸もそれなりにある。白のドレスを着飾っており確かに身なりは良さそうだ。どこかの領主の娘だろうか。


「俺はシルディ。礼には及ばない。当然のことをしたまでだ」


元Sランクパーティの人間にとって、あの程度の盗賊など恐れるに足りん。


「助けてくれたお礼に私に何かできることはありませんか?」


別に見返りなんて求めちゃいなかったのだが。しかしこう上目遣いでお願いされると応えるしかない。


「そうだな。今日からこの国に引っ越してきたんだ。良かったら街の中を案内してくれないだろうか?」

「はい! それならお安い御用です!」


そうして俺はメイアを馬車に乗せてイストリアの街へ向かったのだった。


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