13 黄金の竜、再結成
昨日、昔属していたパーティ《黄金の竜》と再会した。
追い払うことには成功したが、去り際に見せたソルドの憎悪に満ち足り顔が少し怖かった。
そのせいか嫌な夢も見た。あいつが悪魔と契約して俺に復讐してくるという夢――。
「忘れろ、忘れろ。もうあいつらと関わることはない。俺はこの国で平和に毎日を過ごすだけだ」
それに今日から宮廷料理人として働かなければならない。こんな暗い気持ちでいたら、旨い飯なんて作れない。ポジティブに切り替えていこう。
「ん?どうかしましたかマスター、食事が止まっているのですわ。朝食は大事ですわよ」
「ああシルシィか。すまない。少し考え事をしていた」
「緊張するのも仕方ありませんよ。今日から宮廷料理人ですもんね」
「そうだなメイア」
二人には言わないほうがいいだろう。
元パーティと俺の間にあるしがらみ。これは俺自身が解決しなければならないことだ。
そんなとき“リンリン“と呼び鈴がなる。
「俺が出る」
こんな朝早くから誰だ?と思いながら正門に出る。
「お前、マギナか!?」
そこにいたのは昨日追い返したはずの《黄金の竜》のメンバー、魔法使いの少女マギナだ。他のメンバーはおらず彼女一人のようだが。
「まだ俺に用があるのか?」
「助けてくださいシルディ。大変なことになりました。リーダーが……ソルドが!」
マギナは俺の服の襟をつかむ。紅い瞳から涙を流しながら。
何が何だがわからないが、ここまで狼狽しているマギナを見るのは初めてだ。
「落ち着くんだマギナ」
「は、はい。ソルドが貴方を殺めると言いながら一人で魔国領に。おそらく魔族と契約に……」
なんだと。どうやら昨日見た悪夢は正夢だったようだな。
「警告しにきてくれたということか」
「そのとおりです」
「お前しか来ていないようだが、アーチェとキュアンは無事なのか?」
逆上したソルドに召された、というのが最悪のシナリオだ。そうであっては欲しくない。
「大丈夫ですよ。二人は帝国に帰しました。転移石が2個残ってましたので」
「それは良かった。たが――」
「察しのとおりです。《黄金の竜》は私一人になりました」
なるほど。パーティ崩壊というやつか。
「リーダーがいなくなったあと、私たちはこのことをシルディに伝えにいくかで揉めました。キュアンとアーチェ、二人はもうこれ以上シルディに会う資格はないと」
キュアンとアーチェにも葛藤があったのだろう。もう二度と俺と会わない道を選択したらしい。
「ですが私はそうすべきではないと判断しました。それで少し言い争いになってしまって。結局キュアンもアーチェも《黄金の竜》を脱退しました」
「なるほど。それでパーティ崩壊、と」
「崩壊、というか今日で《黄金の竜》は消滅です」
え? それはまさか。
「最後のお前まで脱退するつもりなのか」
「はい。私にできることは少しでも貴方の力になることです。私は貴方のパーティに入ります。これで《黄金の竜》は消滅です」
「だから消滅ということか。だが、俺がお前の加入を許可するとは一言も言ってないぞ」
「大丈夫です。信じていますから」
彼女も一度は俺を追放した身。しかし、追放したことを本気で後悔しているのは昨日の態度でわかった。彼女を拒む理由はない。だがそうなれば《黄金の竜》はなくなってしまうことになる。俺はどうすればいい?
俺は少しはの間考え、そして結論を出した。
「悪いがマギナ。お前の加入は認めない」
「そんな……」
「《黄金の竜》を消滅させるわけにはいかない。だからもう一度《黄金の竜》に加入しよう。パーティのリーダーも俺が引き受ける」
「ありがとうございます……シルディ。いえ、リーダー」
マギナは涙ながらに頭を下げた。
「マスター遅いのですわ、マスターの分の朝食わたくしがいただきますわよ」
「シルディさん中々戻らないと思ったら……その方は昨日来てた……」
メイアとシルシィもやってきた。
「ちょうどよかった二人とも。これから俺たちのパーティは《黄金の竜》に合流することになった」
これで元Sランクパーティ《黄金の竜》の再結成だ。
「そろそろ時間だな。メイア、シルシィ。俺は王宮に行ってくる! 海の食堂は任せた」
「もちろんです。任せてください」
「わたくしたちでなんとか回してみせるのですわ!」
「それとマギナ。海の食堂は今人手不足なんだ。お前にも働いてもらうぞ」
「はい。がんばります」
そう言うと、俺は王宮へ向けて出発した。