神も嫉妬する
にやにやしながらわき腹を抑えているアルフレッドがティナに向かって言った。
「お前ってさあ、神の姿ってどんなイメージなの?」
「そうねぇ・・・白い髭が長いおじいちゃん?」
「はは!やっぱそうか。まあそれはほとんどそうだな」
「でもアルは違うのね?」
「いや、神というのはそもそも実態は無いんだ。精神の塊みたいなもので・・・うぅ説明が難しい。まあ分かりやすく言うと、なりたい姿になれるんだ」
「じゃあなんでわざわざモテそうもないおじいちゃんの姿をしてるの?」
アルフレッドはにやっと笑った。
「それは伴侶のためだ。言い換えるとお前のイメージ通りの姿をしている神には伴侶がいる」
「・・・いまいち分らないけど」
「伴侶はこの世に別れを告げた時点での姿のまま天界に来るんだ。その見た目を自分で操作することはできない。だから必然的に神の伴侶になった時には年齢を重ねた姿のことが多い」
「おばあちゃんになって死んでから神の伴侶になるってこと?」
「まあその可能性が高いというだけで、若いうちに天界に来れば伴侶の神が消えるまでずっと若いままだな」
「じゃあ神の伴侶になるって決まったら早く逝っちゃったほうが良いね」
「そう簡単では無いさ。自殺は認められないからな」
「なるほどね・・・じゃあ年取って寿命が尽きてからってのも頷けるわ」
「たった一人の伴侶が年取った姿で嫁いで来るのに、こっちが若いままじゃかわいそうだろ?」
「ああ、だから伴侶に合わせた年齢の姿をしてるってこと?」
「そういうことだ」
「いろいろ気を使ってるのねぇ・・・神様も」
「そりゃ愛する伴侶を傷つけたくはないさ」
「ってことは・・・神様って子供を作ることはできないの?」
「子供という概念はない。行為はするけど・・・それで子をなすわけではない」
「ああ・・・することはするんだ・・・」
「そりゃするだろう。まあ伴侶がいない神たちはかなり自由奔放だし、伴侶が若ければ・・・離すことはないだろうな」
「ははは~昔に教会で読んだギリシャ神話の神様たちの愛憎劇も凄かったけど、かなりリアルな話だったのね。それにしても、やっと嫁に来たと思ったらお互い枯れてるって・・・なんか悲しいね」
「悲しくはないさ。行為が全てではない。あれは・・・なんというか・・・気持ちがいいからするだけだ」
「あら!神様もオルガズムってあるんだ・・・」
「そりゃあるさ!人間より数倍良いらしいぞ?」
「・・・どうリアクションしていいか分らない・・・」
「あれ?お前らしくもない」
「ははは!ねぇ・・・神様って嫉妬しないの?」
「するよ。まあ神によるけど、俺はする」
「・・・じゃあ私とハーベストのことって・・・妬けた?」
「う~ん・・・妬けたかどうか?・・・あの頃は・・・どうかな・・・ちょっとチクッとしたかな。まあどちらにせよ伴侶になる前のことだから。愛する伴侶が前世で何をしていようがあまり関係ないな」
「前世って考えるんだ・・・さすがに寛容ね」
「寛容?そんなことないさ。天界に上った後でもお前がハーベストを恋しがっていたら・・・殺す」
ブワッとアルフレッドの周りの温度が下がった。
「アル・・・神ってこと忘れないで・・・」
「ああ・・・忘れさせないでくれ」
「私がハーベストを恋しがることは無いかな。アーレントの事は予想外だったけど」
「お前って・・・まあ、そんなところも好きだが」
「あんたにぴったりの女でしょ?ふふふ」
「ああ。そうだな」
「「ふふふふふふ」」
悪い顔をした二人を乗せた車がティナの家の駐車場に静かに滑り込んだ。
急に吹いた強い風に乱れたティナの髪を、アルフレッドが優しく整えてやる。
まさに人外としか思えないほど美しい男の姿を月明かりが浮き上がらせていた。




