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生まれましたわ

突然の大きな揺れに、ティナは足が竦み棚の前から動けないでいた。

ティーセットが割れる音や、ステンドグラスが割れる音が聖堂内に響く。


『ティナ!危ない!そこを離れるんだ!』


神の声が頭の中に響いたが足が動かない。


「ティナさん!こちらに!早く」


フェルナンドが叫んだとき棚が揺れに耐えきれず静かに倒れてきた。

ティナはとっさににお腹を庇い蹲った。


『ティナ!』


神が叫んだ時、パアッと光がティナを包み込んだ。

棚が不自然に動き、ティナを避けるように倒れる。


『ありがとう!助かった』


『・・・いや・・・俺じゃない』


神の言葉に驚き前を見ると、ナサーリアが手を伸ばしている。

その掌からは光が溢れていた。


揺れが収まりナサーリアがティナに駆け寄った。


「ティナ様。良かった・・・私・・・私・・・」


「サーリ様、助けていただいてありがとうございます」


ナサーリアは自らが起こした奇跡を認められず怯えた顔をしている。


「ティナ様・・・ティナ様・・・ティナ様?」


ナサーリアが立ち上がりフェルナンドを見た。

急いで駆け寄ったフェルナンドは驚いて目を見開いた。

ティナがお腹を抱きかかえるようにして倒れていたのだった。


「ティナさん!ああ・・・神よ・・・」


フェルナンドは慌てて人を呼びに走る。

ナサーリアはまだ微かに光っている掌をティナの腹にあてて叫び続けた。


「神様!どうか・・・どうかティナ様をお助けください。ティナ様はあなた様の御子を宿しておられます、どうか・・・どうか」


『ティナは大丈夫だ。落ち着くんだナサーリア。そのまま手をかざしておいてくれ』


突然頭の中に響いた声にナサーリアは一瞬怯んだが、大きくうなずくと懸命に掌をティナに向かって伸ばす。

消えかかっていた光が少し強まり、あたたかな空気がティナを包んだ。


『よし、いい子だ。そのまま頑張れ』


『はい!』


あまりの痛みでティナの顔は真っ青だ。


『神様。御子様は男の子ですか?』


『ああ、男の子だな』


『御子様は大丈夫ですか?』


『問題ない』


『さすがお強い。やはり神の御子ともなれば違うのですね』


『いや・・・そこは誤解が・・・』


『?』


『まあいい。集中してくれ』


『はい!』


フェルナンドがオルフェウス大神官やシスターたちを呼んできた。

ナサーリアの掌から溢れだしている聖なる光に驚きを隠せず、全員が立ち止まった。

ナサーリアの額に玉のような汗が浮かんでいる。

オルフェウス大神官が正気に戻り駆け寄った。


「ナサーリアお嬢様・・・お疲れさまでした。もう大丈夫ですよ」


その言葉を聞き、ニコッと笑ったナサーリアはオルフェウスの腕の中に倒れこみ意識を失った。


ー------------


「元気な男の子ですよ。ティナさんご苦労様でした」


真っ白な布にくるまれた赤子を抱いたオルフェウス大神官がティナに笑いかける。

まだ息が荒いティナはうっすらと目を開けてオルフェウスを見た。

視線を移動して生まれたばかりの赤子の顔を見つめる。


(ああ・・・ハーベストそっくりだわ)


なぜか安心したティナは涙を浮かべてオルフェウスにお礼を言った。


「ありがとうございます大神官様」


「本当にご苦労様でした。ティナさん。さすがに神の御子様は美しいですね」


「は?ははは・・・そうですか?あっ!サーリ様は?サーリ様はご無事ですか?」


「はい、いったんご自宅に戻られました」


「そうですか・・・良かった・・・良かったです」


「長い間神に仕えて参りましたが、今日ほど神を身近に感じた事はありません。ナサーリアお嬢様が聖なる光であなたと御子様を守られ、あなたは無事に大役を果たされた・・・すべて神のご意志です」


「・・・ソウデスネ」


「ゆっくりとお休みください。シスターの中には子供を育てた経験を持つものもおりますからご安心を」


「ありがとうございます。少し疲れました」


「ご苦労様です。それからティナさん。御子様のお名前なのですが・・・」


『アーレント』


「聞こえましたか?」


オルフェウスが慌ててティナに聞いた。


「ええ、聞こえましたね・・・アーレントと」


「はい。アーレントと・・・美しいお名前です。さすが生まれながらにしての聖人にふさわしい響きです」


「生まれながらの・・・すみません。少し眠ります・・・」


ティナは考えることを放棄して深い眠りに落ちていった。

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