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地震!

ピアノの上に寝転んでリズムをとっている上機嫌な神の姿を見つつナサーリアに視線を移すティナ。

未だに自分の持つ聖なる力を認識していないナサーリアは神の気配を感じるものの、姿は見えないようだった。


「サーリ様が弾いてみてください」


「はい」


「こういった練習は経験しましたか?」


「いいえ初めてです」


「それでは最初はゆっくりと、しっかりと鍵盤を叩くことだけに集中してください」


ナサーリアがたどたどしく弾き始める。

さっきまで上機嫌でリズムをとっていた神が眉間に皺を寄せてティナの顔を見た。


『おい・・・こんなものか?』


『初めてならこんなものよ?誰にだって初めてはあるでしょう?』


『それはそうだが・・・』


『私だって今のように弾けるまで何年も血のにじむような努力をしたの!長い目で見てあげなさいよ』


『お・・・おう。そうだな。すまん』


『わかればいいのよ。ってか・・・あんたずっとここに居る気?』


『だってここ俺んちだもん』


『ああそうか。じゃあ大人しくしてなさいよ?』


『はぁ~い』


ナサーリアが何とか最後まで弾き切った。


「素晴らしいわ。初回でこれなら早く進めるでしょうね。毎日欠かさず練習してくださいね」


「わかりました」


「では次にこの曲を練習していきましょう。今まで弾いてこられた曲に比べると簡単かもしれませんが、基礎は大切ですから。まず私が弾いてみますね」


「はい」


ティナがピアノの前に座り弾き始める。

複雑な指使いも無くゆっくりとした曲調だが、強弱をはっきりつけるティナの演奏にナサーリアはもちろん神も聞き惚れていた。

弾き終わってにっこりと笑うティナに向かってナサーリアが立ち上がって拍手をおくった。


「ではサーリ様、まずは右手だけで弾いてみましょうね」


「はい」


1時間以上続いたレッスンはフェルナンドの登場で終わりを迎えた。


「さあさあティナさん、ナサーリアお嬢様。お疲れでしょう?そろそろお茶にしませんか?」


緊張を解いたナサーリアがぱあっと笑顔になる。


「フェルナンド神官様。下手すぎてお笑いになったのではありませんか?」


「いいえお嬢様。あなたの真剣さが伝わりました。頑張って続けてくださいね」


「はい。もう次のレッスンが待ち遠しいほどです」


フェルナンドの後ろに控えていたシスターが手際よく紅茶を淹れている。

一緒に持ってきたクッキーがなぜかひとつふわふわと浮き上がって消えた。


『大魔神!つまみ食い禁止!』


『あっ!バレた!』


『誰かに見られたらどうすんのよ』


『大丈夫だ。抜かりはない』


『神って何も食べないと思ってたわ』


『いや?たまには食べるよ?供物とかもちょいちょい食べてる』


『へぇぇぇ・・・じゃあ今度串焼き奢ったげるわ』


『まじ?うれしい』


『・・・・・・』


フェルナンドが不思議そうな顔でティナの方を見ている。


「ティナさん・・・百面相の練習ですか?」


「あっ・・・ごめんなさい。次のレッスンのことを考えていました」


「ティナさんは熱心ですね。教え方も素晴らしいと思いました」


「あ・・・いやいや、お恥ずかしい」


それから週に2回、一時間のレッスンの後のお茶会が定番となった。

三か月が過ぎ、ティナのお腹は誰が見ても臨月だとわかるほどに膨れている。

ナサーリアはもともと素質があったのか、中級レベルの曲を弾きこなすまでになっていた。

ナサーリアの急成長に目を細めながらも、ティナはいつ出産してもおかしくないにも関わらず、誰も気づかない振りをしていることに焦りを感じていた。


(助産婦さんは今月中って言ってたし、そろそろレッスンを休まなくちゃいけないわね・・・どう切り出せばいいのかしら・・・)


そんな時、いつものようにフェルナンドがお茶を持ってきた。

ティナが楽譜を片づけるために棚の前に移動した時、突然足元が揺らぎ、大きな棚がガタガタと動いた。


「地震だ!」


フェルナンドが叫び、ナサーリアを抱き寄せ庇った。

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