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神の子?

シスターたちの朝は早い。

まだ暗いうちから掃除が始まり、朝のお祈りが済んでやっと朝食が始まる。

もちろんそのメニューは毎日同じパンとスープだ。

ニコニコと笑いながらスープにパンを浸しているティナは心の中で叫んでいた。


(飽きた!肉!肉が食べたい!パスタもピザも食べたい!お酒も飲みたい!)


しかしここで暮らし続けるためには耐えるしかない。


(あの野郎・・・番が見つかったら最高級コース料理をおごらせてやる!)


シスターたちと同じテーブルについていたフェルナンド神父が口を開いた。


「ティナさん。今日は支援者の方が来られます。もちろんオルフェウス様の説教がメインですが、ティナさんのピアノも楽しみにしておられますので頑張ってくださいね」


「はい。頑張ります」


「ところでティナさん。ここの食事は正直に言ってかなり質素ですが・・・ティナさんの体には合っているようですね。少しふっくらされたような・・・」


「そうですか?そういえばやたらとお腹が空きますね・・・というか・・・お肉が食べたいです」


「ははは!ティナさんは若いですからね。今日の来訪者は高位貴族の方々ですから寄付金も弾まれることでしょう。もしかしたらお肉が買えるかもしれませんよ?」


「うぅぅぅ・・・心を込めて演奏します」


教会にきて半年が経ちペースもつかめてきたティナだったが、ロージーが逝ってから二か月くらいはストレスなのか、食欲も無くなり吐いてばかりいた。

しかし最近は食欲が旺盛で、フェルナンドが指摘するまでもなくティナ自身が太ったことを自覚していた。


「フェルナンド神官様。来訪者は午後からでしたね?午前中に少し買い物をしてきたいのですが問題ないですか?」


「ええ、もちろんです。買い物なら誰か付けましょうか?」


「いいえ、新しい楽譜が出ていないか書店に行くだけですので・・・」


「ああそうですか。ティナさんは勉強熱心ですね」


「いいえ・・・そんなことは・・・」


「来られるのは昼過ぎの予定ですので、それまでには戻ってくださいね」


「もちろんです」


全員が朝食を終え、感謝の祈りを捧げる。

それぞれが自分の仕事に向かい、ティナは自室に戻った。


「さあ!さっさと出かけておいしものをたくさん食べようっと」


質素だが若々しい花柄のワンピースをクローゼットから取り出した。


「うん。これならお腹周りがゆったりしてるからたくさん食べられるわね・・・ふふふ」


太ってきたことを自覚しながらも、屋台での買い食い癖が抜けなくなったティナは、宝石を売って得たお金を少しだけ鞄に入れた。


『おい・・・出かけるのか?』


『あら、久しぶりね。どうしたの?』


『お前・・・一度医者に診てもらえ。多分間違いないから』


『何が間違いないのよ?私はとっても元気よ?』


『ああ、それは見ればわかる。というか・・・気づいてないのか?』


『何のことよ・・・なんだか暗いわよ?声が』


『お前・・・妊娠してんじゃね?』


『えっ・・・こっち来てそんなことしてない・・・あっ!』


『うん。あの王子の子だな』


『・・・冗談でしょう・・・初体験で妊娠とか・・・ありえない』


『ありえなくはないだろう。だって・・・その・・・なんだ・・・毎月きてるのか?』


『毎月?・・・ああ月のもののこと?もともと不順だったから気にもしてなかったけど・・・確かに無いわね・・・えっ!どうしよう!どうしよう!まさかのシングルマザー?教会って処女じゃないと追い出されるの?』


『そんなわけないだろう。それにお前はシスターじゃない・・・問題は誰の子かということだ』


『言えないわね・・・やばいわよ。絶対』


『うん。アルベッシュ国も落ち着いてきたとはいえまだまだ不安定だ。皇帝に即位したばかりの男の子供と知られれば、それを利用しようとする奴らが必ず出てくるだろう』


『命を狙われる?』


『その可能性も否定はできないな』


『どうしよう・・・適当な男捕まえて結婚でも・・・って計算合わないか』


『・・・もっと自分を大切にしてくれよ。頼むから』


『あら心配してくれるの?じゃああんたの子ってことにするのはどう?時期的にもそっちに行ってたことになってる時期だし』


『俺の子って・・・それじゃ神の子になっちゃうじゃん!それこそ大事件だぞ?』


『そうね・・・さすがに聖母になる自信はないわ・・・』


『最悪そういう風に勝手に誤解させておくか・・・まあ絶対に父親の名は明かさないことだな』


『・・・悪いけど守ってよね。あんたしか頼れないんだから』


『ああ、頑張るけど。俺の子・・・なんかちょっと照れる』


『・・・名前はつけさせてあげるわよ?パパ?』


『まじか!いいな・・・父親の自覚が芽生えそうだ』


『馬鹿なの?』


『誉め言葉にしか聞こえん』


『言ってないから』


『出かけるんだろ?コケるなよ』


『わかった・・・行ってくるわ』


顎に手を当ててにやにやしながら神は消えていった。


(まじかよ・・・一発で当てやがって!はぁぁ・・・ハーベスト認知してくれるかしら・・・)


できたものはしょうがないと腹をくくったティナは、行きつけの屋台を目指して教会を出た。

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