再び王都へ
ケヴィンとゼロアが話し合った結果、一年分の管理費用を先払いすることになったらしい。
これで私が何日家を空けようともこの環境は維持できるということだ。
ケヴィンの話では毎年責任をもって管理費用を支払うので年単位で留守にしても構わないということだった。
自分の体を保管する部屋の空調設備を再確認したティナは、ケヴィンと一緒に教会に挨拶に行った。
「そうですか、早速旅に出られますか。せっかくお近づきになれたのに残念ですが、またお帰りになるまで責任をもって管理しますので、どうぞ安心してくださいね。ティナロアさん」
ゼロアがティナの手を握り優しく微笑んだ。
ティナは心臓をぎゅっと掴まれたような気持ちになったが顔には出さず、無言の笑顔で返した。
持ってきた菓子折りを渡し、ずっと見送ってくれるゼロアと孤児たちに手を振りながら、ティナは少しだけ良心の呵責を覚えた。
「ティナさん?どうしました?大丈夫ですか?」
「ええ、ケヴィンさん。本当に何から何までありがとうございます。あなたがいなければ私はどうすればよいのか路頭に迷うところでした」
「いいえ、ティナさん。こんなことで償いができたとは思っていません。そして何より素晴らしい友を得た気分なのです。ご迷惑でしょうが今後も私を友として扱ってくださいね」
「こちらこそ。ケヴィンさんとお友達になれてよかったです。頼ってばかりですが見捨てないでくださいね」
「もちろんです。私の名誉にかけてあなたとの友情は大切にしますよ。どうぞお体には気を付けてくださいね。医者からずいぶん強い痛み止めを処方されたと聞きました。本当に大丈夫なのですよね?」
「ああ、あれはなんというか・・・お守りみたいなものですから」
「それならいいのですが。世界中のどこにいてもあなたが求めるなら最短で助けに行きます。そのことは忘れないでくださいね」
「ええ、ケヴィンさん。ありがとう。ではそろそろ準備もありますので・・・」
「あなたの留守中に時々来たほうがいいですか?管理状況も確認するべきでしょうし」
「そこはお任せします。それではケヴィンさん。暫しのお別れです」
「はい。ティナさん。どうぞお気をつけて」
二人は握手を交わし別れた。
家に戻ったティナは用意していた持ち込みアイテムを強く握り何度も頷いてから薬を飲んだ。
ゆっくりとベッドに体を横たえる。
(この薬でダメならまた頭をぶつけるしかないわね・・・痛いの嫌だけど)
いつの間にかティナは深い眠りに沈み込んだ。
いつものように強い風圧を感じ目を開けると神が顔を覗き込んでいた。
『おい・・・相変わらず鮮やかなもんだなぁ・・・もはや時空超えのプロ』
『・・・誰のために苦労してると思ってるのよ』
『ああ、そこは感謝してる。で?今回の持ち込みアイテムは?なんだこれ・・・』
『ソーラータイプの計算機よ。絶対便利だと思う!』
『なるほど・・・教会の仕事でいるのか?』
『寄付金の計算とか、経費の計算とか・・・まあ今後のことも考えてね』
『ふぅ~ん。まあいいけど。それで今後の計画は?』
『聖女を見つけるのが大前提だけど、戦争回避やら国の繁栄やらもしないとせっかく見つけた聖女が死ぬわけでしょう?そこに注力かな・・・あっ!聖女が早く死ねばあんたが早く娶れるのかしら?早く殺したほうがいい?』
『馬鹿なことを言うな!それぞれの魂には生まれる前から決められた寿命があるんだ。それを全うするまでは例え死んでいてもこちらの世界には入れない』
『ってことは?』
『俺の番の魂寿命は80年だ』
『じゃあ10歳で死んだら後の70年は魂のまま現世をうろつくということ?』
『うろつくって・・・相変わらず口が悪いというか・・・そこまで端的に表現されるといっそ清々しいな』
『ははは・・・よく言われる。じゃあやっぱり私が頑張らなくちゃなのね?』
『すまん・・・が・・・頼むしかない』
『わかったわよ・・・なんだかここまでくると捨てきれないのよね~なんというか雨に濡れた大型犬が迷子になってるような・・・』
『くぅ~ん』
犬の真似をする神を見てティナは大笑いした。
『わかったわよ。その代わりピンチの時は頼むわよ?』
『ああ、できる限りの援助は惜しまない』
『このゲートをくぐるとロージーは息が止まるのね』
『ああ、ほんの10分くらいなら何とかしよう。お前も言葉を交わしたいだろうし、ロージーも同じ気持ちだと思うぞ。今からお前が戻ることは神官たちに伝えておこう。奴ら準備があるだろうからな』
『最近思うんだけどさぁ・・・大魔神ってけっこうイケてるよね』
『・・・・・・・・・』
『照れた?』
『馬鹿!早くいけ!』
真っ赤な顔をした神を置き去りにティナ光のゲートをゆっくりと潜った。




