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生まれ変わるアルベッシュ国

立ち上がった近衛騎士団長はひとつ咳払いをして全員を見回した。

大きく深呼吸をして静かに話し始める。


「誰かの首が必要という事でしたらいくらでもご用意いたしましょう。そのものが首謀者という形もとれましょう。しかし今大切なのはこの国をどう導くかという事ではないですか?しかもハーベスト殿下・・・いえ、次期皇帝は戦争回避に舵を切られたのです。両派閥が袂を分かつ原因自体が消滅したのですぞ?」


水を打ったように静まる会議室。

ハーベストが立ち上がるために動いた椅子の音だけが響いた。


「そうだ。戦争はもうしないと決めた。理由は簡単だが今は言うまい。これからは外交だと思う。他国をむやみに侵略しないしどこからも侵略させない」


集まった全員が立ち上がりハーベストに向かって最上級の礼をした。

おもむろにロベルトが口を開く。


「それでは具体的に方向性を話し合いましょう。まずは基礎となる官僚の任命ですな。殿下はすでに決めておられるのですか?」


「いや。首相が君だと言う以外は特に決めていない」


「では候補者を選定しご報告いたします。それと近衛騎士団長」


「はい」


「先ほどの首謀者とする者の心当たりがあるのですね?」


「はい。ここにお集まりの皆さんのように心から国を憂いて行動を起こしたという貴族ばかりではありません。この機に乗じて私腹を肥やすことを考えていた者が数名」


「首謀者となり得る上位貴族もいますか」


「はい。本日姿を見せなかったリブル侯爵、姿は見せたものの我先にと退出したアトラス伯爵、あと数名の子爵が適任かと」


「ではその線で進めてください。明日には解決できますね?」


「お望みなら本日中にも」


「いえ、今夜は忙しい。明日にしましょう。その件は一任します。よろしいですね?殿下」


「勿論だ」


ハーベンがおずおずと手を挙げた。


「あのぉ~兄上。私が首謀者になった方が説得力が無いですか?もしくは母上とか・・・」


「いや・・・スマンがハーベン。お前は首謀者というより傀儡の方が似合うイメージだ。となると義母上の方が良いのだが、先の皇后がクーデター指導者というのも外聞が悪いからな。その辺りは気にせず今まで通り好きに生きておればよい」


「ははは・・・俺ってなんだかなぁ~って感じですが・・・死にたくはないのでありがたいけど」


「もしかしたら隣国に・・・ベルツ王国に婿入りしてもらうことになるかもしれないが問題無いだろう?」


「ええ、それは仰せのとおりにいたします」


「それまでリリベルと戯れていれば良い」


安堵の表情で椅子にもたれかかったハーベンを見て全員がクスっと笑った。

ハーベンが前皇帝の実子ではないことは公然の秘密だった。

皇帝と皇太子となるべきハーベストが可愛がり、大切にしていたからこそ今まで生き残っていたとも言える。

実際に皇帝もハーベストも、他の貴族たちでさえハーベンの欲のない無邪気さを愛していた。

ハーベンを愛していなかったのは実母である皇后だけだった。

浮気を繰り返す皇帝になんとかして復讐したいという思いに憑りつかれた皇后も哀れな女といえる。

それはこの席にいる全員の共通認識だった。

キリウスが立ち上がった。


「それでは皆さん。組閣を始めましょう。今日は徹夜になりそうですね・・・簡単な夜食と大量のお茶を準備させますね」


つい先ほどまで殺し合うほどの睨み合いをしていた両派閥が会議テーブルを囲んで真剣に話し合う。

その姿を見てハーベストは思った。


(考えていたより早くティナを迎えに行けるかもしれない)


別れていた貴族が曲がりなりにもひとつになろうとしている。

これもすべてティナが戦争を嫌った事がはじまりだと思うとハーベストは苦笑いするしかなかった。


「私がいると忌憚ない意見が出にくいかもしれないな。私は執務室で不在の間に溜まった仕事を片づけているから、纏まったら報告してほしい。ハーベン、お前も一緒に来い」


ハーベンは兄の言葉に頷き立ち上がった。

皆がこの国を背負う二人の背中を見送った。

戦争で疲弊した経済の立て直しと、今後の外交戦略などの骨子から始まった会議は、翌日の昼頃まで続き、命を削られたようなメンバーの顔色でその苛烈さが想像できた。

予定通り前皇帝の葬儀をつつがなく執り行ったハーベストが即位式を行い、軍事国家だったアルベッシュ帝国が新たな道を歩み始めたのは、それから半年後の事だった。

ハーベストは多忙を極め、なかなかティナの消息を調べることができないまま月日だけが過ぎていった。





ーーーーーーーーーーーーーーー



次回からは王都に向かったティナのお話しになります。

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